EP.40 夏休み前の日常.6
「ガチャっと開けてー、たっだいまー!」
誰も居ないんだけど、癖は抜けないよね。
レオンちゃん、結局海老さんだけしか買わなかったし、何のお料理作るのかな。
「先にお風呂かなぁ。海老さん匂い強いし、晩御飯が先だね」
この海老さん、お店の人はまだ生きてるって言ってたけども、全然動かないの。寝てるだけにしては、ピクリともしない。
「つんつん……動かないよね?」
海老さんのお料理……何にしようかなぁ。
難しいのは時間が無いし、やっぱりお鍋にしようかな。
「おっ鍋ー、おっ鍋はどっこだろなーっと、発見しました!……お鍋が小さい」
海老さん丸々は無理だね。
結構な大きさの海老さんだし、三日分に切り分けようかな。
制服を脱いでっ、パジャマに着替えてと。
ちゃんと制服はハンガーにかけて、シワにならない様にしないとね。
「良しっ、お鍋の準備開始!」
ちゃんと具材は買ってるのさぁ。
お鍋に水を入れて、昆布を沈めて出汁出汁。
お豆腐準備良し、キムチ準備良し。
しめじが大きいんだよぉ。
お鍋さん着火っ、カチッとします。
「昆布は沈めたまま、鰹節さんをもさっと入れて、待ってる間に……」
君の番だよ大きな海老さん。
先ずはシンクに水を溜め、氷をザラザラ流し込みます。
本当に大きいからね……この海老さん。
お水が氷でキンキンに冷えたら、海老さんをそこへダイブ『ギィッ』させま……んっ? 今この海老さん鳴いた?
「つんつん、空耳かなぁ」
汚れを落としたら、まな板に……置ける訳無いから、テーブルを拭いて、その上に海老さんを置きます。
「確か頭を取って、胴体の殻を外して、ワタを取らないといけないんだっけ」
頭を取る……包丁さんで一思いに。
昔の私なら、少しは躊躇したと思うの。でも、ゴブさんとかゴブさんとかゴブさんとかを潰し慣れた、今の私なら躊躇はしない。
「頭と胴体の隙間、ここ──『ギィイイイッ』っ、跳ねた!?」
包丁で切ろうとした瞬間、大きな海老さんが跳ね飛んで、くるっと回転したと思ったら、天井に張り付いた。
海老さんの太い脚が天井に刺さり、落ちない様に固定しつつ、その大きな瞳で、コチラを見つめてくる。
どう言う事?
「……やっぱり、普通の海老さんじゃ無かった」
絶対小々波さん印の海老さんだ。
何肉か分からないお肉だけじゃ無くて、こんな海老さんまで卸してるなんて。
「ほらほら海老さーん。天井は危ないから、下りてくるんだよぉ」
『ギィィィエエエエエエッ!!』
「海老さんの鳴き声じゃ無いよねそれ!?」
私を警戒して下りて来ない?
まぁ、下りて来たら、お鍋の具材だから食べちゃうけども。
大きな目がうにうにと動いて、何か周囲を観察してるみたいなんだよ。
まさか、逃げようとしてる?
逃がさないよ海老さん……しっかり捕まえて、お鍋の中にインするのさ。
『ギギィ……』
「五千円様の海老さん、逃す訳が無いんだよ」
この高さなら、軽くジャンプすれば届くんだけど、力加減を間違えたら、天井突き抜けてお空へジャーンプなんだよ。
膠着状態だ。
海老さんの体力が尽きるのを待つか、意を決してジャンプするか。
ピ──ッピ──ッ「あっ、火を着けたままっ」
一瞬気を取られた。
沸騰した鍋から水が溢れ、コンロの警戒音に気を取られてしまった。
その瞬間────『ギギャアアアッ』
パァアアアンッ
海老さんが窓に飛びかかり、さっちゃん印の強化ガラスを粉々にしながら、外へと飛び出す。勿論、海老さんだけに、海老反りで。
「じゃないっ、追わないと!? (カチッ)」
火を消して、割れた窓から外へ。
辺りを確認して海老さんを探すも、いくら大きいとは言え海老さんだ。
「居ないっ、何処に逃げたの海老さん!!」
目を閉じて、海老さんの声を探る。
あの声量……少しでも鳴けば、必ず聞こえるんだよ。
『ギュエエエエエエッ』
「えっ、今の屋根の上っ!?」
直ぐにベランダからジャンプしてっ、上手く屋根に着地っ!
「海老さんは──『ミャァ(ガリッガリッ)』猫ちゃんに齧られてる……」
『ミャーウ(ゴリッガリッ)』
「わっ…私の晩御飯が…うぅっ……」
猫ちゃん……何で、強化ガラスを砕ける海老さんを、ガリゴリ齧れるのかなぁ。
「今日は、肉無しキムチ鍋かぁ……」
美味しいから良いんだけど、メインディッシュは欲しいんだよぉ。




