EP.40 夏休み前の日常.3
「はぁ…疲れましたわ」
車椅子にぐでぇっと寄りかかりながら、さっちゃんが食堂に来た。
こんなに長い時間お説教だなんて、立場的にはさっちゃんの方が上じゃ無いの?
「ムグムグ、さっちゃんお帰りー。お説教長かったね」
「まったくですわ……口は災いの元ですわね」
「あの先生もいい歳だから、華ノ恵の言葉が逆鱗に触れたんだろ」
「野小沢さん。壁に耳あり障子に目ありですわ。私と同じ目にあいますわよ」
さっちゃん……先生に何をされたんだろ。
聞くの怖いから話を逸らそう。
「さっちゃんはお昼何頼んだの? 私はお任せ定食でカツオ丼なんだよ。御味噌汁も付いてお得なの」
「桐藤さん…あんなに稼いでおきながら、なぜお任せ定食を……」
「さっちゃんまでそんな事言う…ムグムグ」
「ほらな花乃歌、やっぱ言われるんだよ」
ポンッ──「あら、出来た様ですわね。取って来ますわ」
今日のさっちゃんのお昼ご飯は何だろ。
さっちゃんは結構な肉好きで、毎回毎回高級ステーキを食べているけど、一皿のお値段は知りません。だって見るの怖いもん。
「今日はあっさりしたモノにしましたわ」
「お肉じゃ無いの? 何を──っ!?」
巨大海老!?
大きな海老っ、それって伊勢海老!?
私のお顔より大きいんだけど、美味しそうな匂いが食堂に充満するんだよ!
「どこがあっさりなのか分からないっ」
「美味そうな海老だな。一口くれよ」
「ご自身で頼みなさいな。野小沢さんの御給金なら、毎食食べれますわよ」
「毎食伊勢海老……お幾らなのさっちゃん?」
「これですか? 学生価格で一皿二万円ですわ」
「毎食食える訳無いだろ!」
「尻丸君二回分だよ!」
一回のお食事で二万円様は高過ぎる!
学生価格でって事は……実際はもっとお高い伊勢海老様って事!?
「普通なら五万以上はしますわよ。久々に食べると、美味しいですわ」
「さっちゃんの金銭感覚が怖い……」
「これだから御嬢様は。少しは花乃歌を見習えっての」
伊勢海老様……うん、私には縁遠い存在だ。
「ほら桐藤さん、あーん」
「えっ……さっちゃん何を……」
「食べたいお顔をされておりましたので、一口差し上げますわ。ほら、あーん」
「羨ましいな。私にも一口くれよ」
待ってさっちゃん! それを食べたら、何か色々戻れなくなる気がするの!
「ほら桐藤さんっ(ぐいぐい)」
「ぬぅぃぃぃぃぃぃぃ(ギギギッ)」
「ぶふっ──くくっ。やめろよ花乃歌っ、面白い顔になってるぞっ」
はい。歯を食いしばって、海老がお口に入らない様にしてます。
さっちゃん力尽くで、海老さん押し込んで来るんだもん。食べたらきっと、普通の食生活に戻れなくなっちゃうから、ここは我慢なのさ。
「要りませんの? まぁ良いですわ(パクッ)」
ふぅ、助かったぁ。
「華ノ恵お前……今、花乃歌の口に当ててたヤツを、普通に食いやがった……」
「捨てる訳無いでしょう。別に、桐藤さんの唾液が付いていた所で問題無いですわ。うふふっ、間接キスですわね」
「さっちゃんは何を言ってるの?」
「花乃歌…見なかった事にした方が良いぞ」
「うん。ムグムグ……」
伊勢海老かぁ、あのお店に売ってるかなぁ。
────ゴォ──ンゴォ──ン────
『今日はここまでやなー。学校明日までやから、夏休みおもて休むなよー』
『そんな奴いないですよ先生』
『よっしゃ部活行こうぜ!』
『休みどうしよ? 海行く?』
『悩殺水着買わなきゃ!』
ワイワイと皆んなが動き出した。
私はいつも、皆んなが出て行ってから動き出します。だって教室の扉、クラスメイトでミチミチに詰まるもん。
「でも今日わぁ…人混みに紛れて『逃しませんわよ桐藤さん』逃げれなぁぁぁぃ」
「まったくっ、朝お伝えしたじゃありませんの。ほら、髪を整えに行きますわよ」
「うぅっ……分かったよぅ」
「そこまで嫌がるのかよ。私も髪伸びたし、ついでにやって貰って良いか?」
「構いませんわ。費用も研究所の予算から出しますので、安心なさって下さいまし」
「おっ、ラッキー。美容室高いから、有難いぜ」
私はアンラッキーだよレオンちゃん。
もしまた、美容師さんが気絶しちゃったら、私全力で泣くからね? 本気で泣くからね?
「ほらっ、桐藤さんは私の膝の上に、座って下さいまし」
「いや、普通に歩くんだよ」
「華ノ恵が抱き付きたいたいだけだろ。最初の頃は花乃歌が抱き付いていたのに、今では華ノ恵からか……逆転してんな」
今でも私から抱き付きます!
でもね……校舎の中を、さっちゃんの膝の上に座りながらの移動は、違うと思うの。
「では桐藤さんに、私を運んで貰いましょうか。さあ桐藤さん──」
抱っこをせがむ子供の様に、さっちゃんが両手を広げて来るけども……やっぱり疲れが溜まってるんだね。
「……桐藤さん? なんですのその目は」
「花乃歌の新しい表情だな。これは……っ、くくっ、可哀想な子を見る親の目だ」
「私可哀想な子ではありませんわ!?」
「さっちゃん……疲れが溜まっている時は、頑張らなくて良いんだよ」
「何か誤解なさって無いかしら桐藤さん!」




