EP.38 八多倉冬の大脱出!!
私は今、小さい女の子(七十八歳?)を必死で追いかけているのだけど、この道と言うか何と言うか、これマジ、落ちたら私本気で死ねるヤツだわ。
下には溶鉱炉っぽい何かが、グツグツと何かを煮込んでおり、その端に有る出っ張りの上を、道と称して走っています。
誰が走ってるって? ロリババアがだよ!!
あの子は普通に走ってるけど、大人と子供の体格差舐めんな!!
「お姉ちゃーん。早く来ないと置いてくよー」
「ちょっ、待って!何ここ! じゃ無くてっ、何でこんな場所走ってるの!?」
「んー? だって、あちこちカメラがあるんだぞー、普通の道は無理ぷーだー」
無理ぷーだーじゃないっ、殺す気!?
何か変なガス出てるし、これって私吸ったら駄目なヤツじゃないの!?
「あそこまで行けばー、次は簡単だぞー」
「あそこ……」
はい──出っ張り掴んでクライミング♪
「私を殺す気よねあなた!?」
「んな訳ないだろー、可笑しな奴だなー」
可笑しいのはあなた! 決して私じゃ御座いません!!
「はー暑いっ! 苛々するわぁ……」
ビールが呑みたい。
この場所っ、一体何度あんのよ。
汗が服に張り付いて、気持ち悪いったりゃありゃしまへんわぁあああ!?
「あぶっ、死ぬっ、死ぬって……」
足を滑らせ自由落下寸前♪
四つん這いで何とか耐えたけど、足腰抜けて動けません。
生まれたての子鹿みたい?
違いますよー、私はチワワです。
震えてなんぼのチワワです。
「あはっ、はははっ、はははははははっ」
「大丈夫かー? ふざけるから落ちそうになるんだぞー」
「ふざけてないわぁあああーん! 何でわだじがごんなめにぃいいいー!」
「うわぁ、泣くなよー。元気だせー、歩けー、ここに居たらお肌カサカサになるぞー」
「ぞればいやぁあああー!!」
お肌カサカサになるなんて、二度と御免だ。
先輩に会った瞬間、『えっ、ミイラ?』何て言われたら、棺の中に先輩を埋葬してしまう。
はい、頑張りました。
歩きましたし、登りましたとも。
出っ張り掴んで、十メートル程の高さを、震える手で掴み、必死に登りましたとも。
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ、握力がっ、もう何も掴めないっ、ビール呑みたいっ」
「おぉー、頑張ったなー。ここからは大きめの通水口だからー、もう登らないぞー」
「ほんとに? はぁ……疲れたぁ……」
「ほら、休まず行くぞー。早く行かないと、水が流れて来るからなー」
何を言ってるんだこの女の子は?
水が流れてくる?
ピチャッ──「冷たっ、何これ水?」
「あそこに水を落とすんだぞー」
あそこって、さっき登って来た場所……待って、女の子は何て言ってた? 大きめの通水口だから、もう登らない?
『おーい、走れー』
「ちょっ、もうあんなに先にっ、これって──」
時間制限内に走り抜けろ!!
タイムアウト=死亡しちゃうぞ♪
「リアルデスゲームやめてぇえええ──!?」
私の過去一速い全力疾走です。
この速さなら……世界狙えちゃうね。
「速いなーお姉ちゃん。足を止めたら間に合わないからー、頑張れなー」
「頑張らないと死ぬんでしょぉおおお──!?」
「死ぬぞー。そこ右なー」
右っ、何か水が少し流れて来てる!?
「今日は放水早いなー。そこ左だぞー」
放水早いって、左っ!!
「あそこの扉開けてー、直ぐ閉じろー」
扉っ、あれの事ねっ!!
「はぁっはぁっ、コレを回せば良いの!?」
「左回しなー。早くしないと水来るぞー」
「分かってるわよ! んぐぐ──っ重たっ!?」
ゴォンゴォン────何この音……遠くから響いて来る様な。
「放水開始したー。急げー」
「っ、死にたく無いぃいいいっ(ギギギッ)」
「すげー、回ってるぞー」
「錆びてるからっっっ重い訳ねっ(ギギギッ)」
ゴゴゴッ────「水来たぞー」
「くぉおおおおおおっ(ギギギッガコッ)開いた!? 早く中へ!!」
「ほっと、直ぐ閉めろー」
「ひっ!? (ガコッギギギッギギギッ)……助かった? 私助かった?」
水の音は聞こえないけど、中に入る瞬間に、通路の奥から大量の水が迫って来ていた。
もし直ぐに扉を閉めて居なかったら……この場所も水圧に押し潰されてっ、勘弁して欲しいわ。
「ぎりセーフだなー。後は普通に歩くだけだからー、危なく無いぞー」
「……はぁ、歩くだけね。どうせまた何かあるんでしょ、もう分かってるわ」
「歩くだけだー楽ちん楽ちん」
今度は何処を歩かせる気なのか。
本当に出口に向かってる? と言うか、何でこの子はこんなに元気なの。
少しだけ疑心暗鬼になっていた。
でも、予想に反して、今の所は普通に歩いているだけ。薄暗いトンネルの様な場所を、少ない灯りを頼りに歩いているだけ。
但し──二時間ぶっ通しでだけどね。
「疲れた……」
「体力ないなーお姉ちゃんは。まだ二時間しか歩いて無いぞー」
「……まだ出口に着かないの?」
「もう外に出てるぞー。後は、この通路に沿って進めば到着だー」
何時間かかるか分からない道のりね。
でも、歩くだけなら大丈夫か。
「助かったわ、有難う……」
「礼なんて良いぞー。私も楽しかったしなー」
キュイキュイキュインッ──「んー?」
何今の音……あぁ、スマホの通知音ね。
何処かで聞いた事のある様な音だけど、何処だったかな。
「何だー? ふんふん。うげぇ……っ、ここまで来ちゃったぞー」
一体誰からのメッセージなのか、ほんの少しだけ気になってしまう。
「お姉ちゃんすまねー。私は急用が出来たからー、後は一人で行けるかー?」
「ここから通路に沿ってでしょ? それなら問題無いわ。危険な場所とか無いよね?」
「無い無いー。本当に進むだけさー」
「なら問題無いわ。ここ迄有難う、縫郷さん」
「いいよー。それじゃあ私行くなー、足下には気を付けろよー」
ふぅ……行っちゃった。
後はここを進むだけだし、さっさと帰ってビールが呑みたい。
「……行こう!!」
それから歩き続ける事三時間。満身創痍になりながらも、何とか通路を抜けて、外に出る事が出来た。
少し先には駅が見えており、どうやらこの通路は、閉鎖された旧鉄道トンネルだった様だ。
「はっははっ、やったぁ……ビールッ。華ノ恵のざまぁっ、ビールッ!!」
疲れが吹っ飛び猛ダッシュ!!
唯一華ノ恵に没収されなかったモノを取り出して、中身を確認……そのまま居酒屋へ直行した。
八多倉冬脱出成功!
ビールを片手にわっしょいわっしょい!
財布が涼しくなりました。
スマホが無くて、会社を無断欠勤中!
このままでは解雇されてしまうぞ!
どうなる八多倉!
お探しの先輩に辿り着けるのか!




