EP.36 八多倉冬の大脱出?
ここは何処だろうか。
あの女……華ノ恵桜乃に捕まってから、どれ程の時間が経ったのかも分からない。
あの時──ヤバい男と華ノ恵桜乃が睨み合って、ただならなぬ雰囲気を発していたけど、結局は男が『勿体ないなぁ』と一言だけ残して、そのまま走り去っていった。
私は目隠しをされ、何が何だか分からない内に、この場所へ放り込まれ、そしてそのまま身体検査をされて、スマホは勿論、盗聴器やボイスレコーダー、超小型GPS発信装置、手錠、スタンガン、催涙スプレー、ガスマスク、メリケンサック等々、全て没収されてしまった。
「……『混合壁・魔石と鉱石のハイブリッド素材』ははっ、何だろこの壁、笑うしかないじゃん」
四方を、意味の分からない壁に囲まれた六畳間、トイレ付きシャワー付き物件。勿論出入口は、『混合扉・施錠中』となっている。
一体私は何に巻き込まれているのか。
華ノ恵桜乃は、先輩の事を知らない様だったけど、こう言った事に先輩が関わっていない訳が無い。先輩ならば、喰らい付いてでも情報を集める筈だから。
「……先輩、何処にいるんだ……」
何気無しに鏡を見つめる。
何故か頭痛が起きなくなって、ようやく冷静に見る事が出来た、意味の分からない映像。
『姓名・八多倉 冬
性別・女(乙女では無い)
年齢・二十九歳
誕生日・十二月二十四日
血液型・A型
職業・テレビ局勤務 (無断欠勤中)
スキル・鑑定(LV 3/100)
・索敵(LV 1/100)
・下呂(LV 1/10)
・鍵師(LV 0/10)
攻・弱 守・弱々 精・熊
体・犬 運・雀の涙
備考・ゲロに塗れた悲しい人生』
コレの事も、あの華ノ恵は知っている風だったけど……何か増えてるし。そうですよー吐いて下呂塗れの悲しい人生ですよ。それでも最後には。幸せな人生を送る予定ですからね。
「あはははっ、意味分かんないわぁ。会社無断欠勤中? 有給使い終わったの? 辞めてやらぁああああああっ!!」
あはははっ、役職消えてるし、私の今までの苦労が全て水の泡となって弾けたわ! こうなればっ、絶対スクープを撮って、週刊誌にでも売り付けてやる!
「どうにかして、ここから抜け出さないと……鍵師ねぇ……」
この場所が何処か分からないが、大体の時間は分かった。何故なら、朝、昼、夕と決まって三食、豪華な食事が提供されるからだ。
自分の中でそれを、朝八時、昼十二時、夕十八時と決めて、消灯を二十二時と意識づける。
ギィィガコッ──『おーい、飯置いとくぞ』
顔は見えないが、食事は毎回同じ人が持って来ている様で、小窓からそのまま受け取れる。
今日のお昼は、分厚いステーキとサラダのセットだ。ちゃんと白米も有り、しっかり食べて準備を進めないと。
何の準備かって?
逃げ出す準備に決まってるじゃない。
さっきはこの食事を含め、豪華と表したけど、それは単に見た目が豪華と言うだけで、本当なら口に入れたく無い代物だ。
だって、『ステーキ・オーク肉』とか映るんだぞ? 食べたく無いでしょ? 何なのよオーク肉って……今まで一体、何を食べていたのよ。
「今はそんな事気にしてられないから、食べるしか無いんだけど……くそぅっ、美味しいっ……」
食べ終わったら、使ったナイフやフォークを返さずに、そのまま持っておきます。
回収されないのかって?
どうやら食事係は、鍵を開ける事が出来ない様で、他の食器類を返す際に色々文句は言われるけども、ざまぁだと思うわ。
そんな事をしながら数日が経ち、さて、集めたナイフやフォークを使い、どうやってこの場所から抜け出すか。
答えは簡単だ、扉の鍵を何とかすれば良い。
食器類で扉の鍵を? 普通は無理だよね。
だけど、このナイフとフォークなら、あの扉の鍵を何とか出来るかも知れない。
だって、『混合ナイフ・魔石と鉱石のハイブリッド素材』って映ってるからね。
試しに壁をナイフでなぞってみたら、力を込めて無いのに壁に傷が出来た。
これを使い、扉の隙間に見える施錠部目掛けて少しづつ、少しずつ、ナイフで切れ込みを入れて行く。
勿論作業は消灯後。
音が出ない様にゆっくりと行う。
ここが本物の独房であれば、扉に隙間なんて無かったであろうが、それが幸いした。
ピキッ──「良しっ、施錠部壊れたっ……」
危ない危ない、大声で喜びそうだった。
ゆっくりと扉を開けて……左右確認、ここが何処なのかを確認しないと。
ゆっくりと足を進めた。
進めてしまった。
少し考えれば、分かる事だったのに。
────『緊急警報、緊急警報、保護対象が脱走しました。緊急警報、緊急警報、保護対象が脱走しました。至急確保されたし、至急確保されたし。緊急警報、緊急警報』────
セキュリティ、入ってますか?
はい、自動音声鳴り響いてます。
私保護対象?
それなのに確保?
絶滅危惧種の動物扱い?
「捕まってたまるもんですかぁあああっ!!」
全力で、知らない場所を疾走した。
それはもう、脱兎の如く。
八多倉冬は混合ナイフを手に入れた!
八多倉冬は混合フォークを手に入れた!
八多倉冬は逃げ出した!




