EP.32 緊急事態.5
ゴブリンは女性を追うのに必至で、まだこちらに気付いて居ないっ。なら────急降下プラス念力でっ、圧殺ですわ!!
そう考え、ゴブリン目掛けて突っ込んだ。
逃げている女性を巻き込まない様、スキルを調整して。ただし、確実に仕留める様に。
タイミングは完璧。
当たる──そう確信した。していた。
タイミングは完璧だった。
それなのに──『ゴギャギャ!』
ゴブリンが走るのを止め、バックステップをして避けた。
「これを避けるですってっ!?」
ボコォッ──勢いを殺せず、アスファルトに穴が穿たれ、その破片が舞い上がる。
直ぐ様避けたゴブリンを追撃すべく、体勢を整えたが──「っ、居ないっ、何処へ……」
周囲を確認するが姿が見えない。
『後ろっ!』──その声に反応して、すかさずスキルを背後に放つ!
『ギギャアッ!?』
「いつの間にっ、潰れなさい!!」
周囲の物を破壊して、ゴブリン目掛け撃ち込むが、ゴブリンは腕を動かして、それを防ごうと足掻いていた。
「私のスキルに耐えているの!? 異常個体とは言え、たかがゴブリンがどうやって!!」
ゴブリンを押さえる力を強くし、撃ち込む数を増やして一気に潰す。
かつて、花乃歌を理事長室の壁に叩きつけた程の力で──物量による圧殺。
生々しい音を立てながら、ゴブリンがようやく事切れた。
「……ふぅっ、何だったのこのゴブリン」
カシャッ──「今の音……っ」
「はっはは、見たわ……撮ったわよ! 超能力者っ、その化物も!」
この女──記者ですか。
不味いですわね、一般人にこれを見られるなんて。
「やっぱり先輩は正しかったっ、これを公表すれば──っ、何よあんた……『転生者』?」
「──ますます逃す訳にはまいりませんわ。その撮影した内容もですが……こう言うのを棚からぼた餅と言うのでしょうか」
彼女が見たモノ。
恐らく、私のステータスか称号。
前世ではそれ程珍しくも無かったが、この世界では出会った事の無いスキル。
「何よっ! あなたも私を襲う気!?」
「とんでも御座いませんわ。先程私を助けて頂き、有難う御座います。つきましてはその御礼と、貴女の身に何が起きているのかの説明を、我が家にてさせて頂きたいのですが……」
この女は逃してはならない。
もしも鑑定持ちであれば、今後のスキル持ち確保や、迷宮内での魔物の情報も容易く手に入る。
「胡散臭い笑みね! まさか……あなたが先輩をどこかへやったの! 先輩は何処よ!!」
先輩……どなたでしょうか?
知りませんわね。
「残念ですが、私はその先輩を知りませんわ。ですが私であれば、その探しておられる方を、見つける手助けが出来るかもしれませんわよ?」
「あなた……華ノ恵桜乃っ、先輩が追っていた華ノ恵の娘っ!?」
矢張り鑑定持ちですわこの女っ、私の素性がバレた──こうなれば力尽くですわね。
「手荒な真似はしたくないですが……貴女を拘束させて頂きますわ」
「なっなによっ、動けないっっっ、何したっ!」
スキルで手足の関節を固定ですわね。
これならば、あまり消耗しませんし、このまま持って帰るとしましょうか。
「離せっ、離せよ! 訴えるからな!!」
「どうぞご自由に。訴える事が出来たならですが、お相手致しますわ」
ふふっ、良い人材が手に入りましたわね。
さて、力場の捜索の前に、この女を研究所へ送りませんと……何か来ますわね。
「見つけたぁあああああああああ────!!」
「あの男は、あの時の……」
「ひっ、何なのよもぉおおおっ!?」
あの速さっ、尋常じゃ無い!?
取り敢えず空へ──『あっ? お嬢ちゃん?』
速っ、もう目の前に!?
「……お久しぶりですわね」
「久しぶりだな、元気そうでなによりだ。将勇の奴はどうだ? ちゃんと仲直りしたのか?」
今それを聞きますかっ!?
本当に……御父様とこの男は、一体どう言う関係ですのよ。
「仲直りはしましたわ……ちゃんと謝罪は受けましたもの」
「それは何よりだ。んで、お嬢ちゃんが捕まえてる奴な、俺に引き渡して欲しいんだけど?」
この男っ、しれっと何言ってますの。こんな貴重な人材を、引き渡す訳が無いでしょう。
「お断り致しますわ。この女性は、我々が保護致します」
「ちょっ、何言ってんのよ! 離せっ! 離しなさい!」
「ほらほら、嫌がってんじゃん。俺に預けた方が安全だって。ちゃんと思考弄っ…説明して、理解して貰うからさー」
この男……やはり何か隠してますわね。
思考を弄ると仰いましたが、記憶の操作? 確か桐藤さんは、以前の記憶が曖昧だったと仰られていましたわ。
「二度言わせないで下さいまし、お断り致しますわ。貴方に渡せば、この女がどうなるのか分かりませんので……」
「先輩ぃぃぃ助けてえぇぇぇ……」
最悪この男と、一戦交えなければなりませんわね。力の底が見えない、この男と。




