EP.32 緊急事態.4
花乃歌から後ろ回し踵蹴りを受け気を失い、目を覚ますと、研究所内で拘束されていた。
側には、以前僕を捕まえた化物──もとい、華ノ恵桜乃が怒り顔で立っており、どうらや僕は、知らないうちに虎の尾を踏み千切っていたらしい。
華ノ恵桜乃はただ一言──『今後花乃歌への接触を禁ずる』とだけ言うと、そのまま出て行ったが……どうやら花乃歌と知り合いの様だ。
今回の罰として、二ヶ月間施設内での拘束。
研究所内は、未だ意味の分からないセキュリティが張り巡らされており、ぶっちゃけ花乃歌に会いに行きたくとも、出る事が出来ない。
なればこそ、次に会う時まで、身体を鍛え上げなければ。
そう思い、ただひたすらに鍛えた。
毎日毎日、腕立てを一秒一回二時間、腹筋を五秒一回二時間、ランニングを三時間行い、日々を過ごした。
回数?
そんなのは数えるのが面倒だ。
あの花乃歌の一撃……一般人であれば頭蓋が陥没し、即死であったであろう一撃。
間違い無く、花乃歌は華ノ恵と同類だ。
追い付きたい……側に居たい。
せっかく買った指輪も、渡しそびれた。
そんな事を思いながらも、今日もトレーニングに勤しみ、シャワーで汗を流していると、研究所内で緊急アラートが鳴り響いた。
『──緊急事態発生、緊急事態発生、研究所職員は完全武装状態のまま待機、完全武装状態のまま待機。繰り返す、緊急事態発生──』
完全武装をしろと言われても、僕は謹慎中の身の為、何もする事が無い。
華ノ恵や奏が居るし、何とかするだろう。
「ふぅ、さっぱりだね。さてさて、その緊急事態の詳細はと──」
端末を操作して、内容を確認。
施設内のブラックボックスにはアクセス出来無いが、新たに更新された、今現在行われている作業の内容ぐらいは確認出来る。
バレたら即、首が飛ぶけどね。
「へぇ、地震が起きて……気付かなかったな。二箇所同時か……嫌な場所に発生してるな」
僕の地区であれば、僕自身が選び、鍛え上げた精鋭達が居るから、即鎮圧出来るだろうけど、奏地区は兎も角、那邪道地区の者達であれば練度不足で何も出来ないだろう。
「それでも、あの華ノ恵が居るのなら大丈夫だろうね」
幸い今日ならば、那邪道地区に華ノ恵が居る筈だ。それならば、この緊急事態も直ぐに収まるだろう。
「僕はのんびりさせて貰うさ」
脚を百八十度開き、そのまま身体を前に倒して息を吐き、腕の力で身体を持ち上げ、開いた脚をゆっくりと閉じ、逆立ち姿勢となったら、ゆっくりと床に接した指を上げ、下ろし、逆さ指立て伏せを行う。
「ふっ、ふっ、花乃歌とお祭り……行きたいなっ、海でも良いかっ、ふっ、ふっ」
花乃歌の水着姿……水玉か、真っ赤なフリル付きの水着だね。
この鍛え上げた身体を、是非とも花乃歌に見せてあげたい。そうすれば、トレーニング好きの花乃歌と仲良くなれる筈。
『──緊急出動要請──緊急出動要請──南雲地区長の謹慎を一時解除。至急部隊を編成し、那邪道地区へ向かわれたし。繰り返す──南雲地区長の謹慎を一時解除。至急部隊を編成し、那邪道地区へ向かわれたし──』
「──っ、と、なんだい急に……華ノ恵が居るんじゃ無いのか」
『(ピポッ)南雲地区長! ヘリを用意しているので、急いで向かうで御座る!』
「楽羅蘭か、一体華ノ恵は何をしてるんだい」
『応答が無いで御座るよ! 念の為完全装備で向かうで御座る!』
「……はぁ、分かったよ。私の地区からの応援は呼んだかい?」
『要請済みで御座る!』
それなら、多少魔物が来ても守り切れるな。
僕の専用装備なら大丈夫だとは思うけど、流石に多いと手間がかかるからね。
「プロテクターアーム接続確認……動作チェック良し。アシストスーツ稼働良し、いつでもいけるよ」
戦闘用バトルスーツ『魔刃』──鍛え上げられた肉体のリミッターを外し、されど身体を壊さない様に作られた、南雲専用装備。
魔石を粉砕後、特殊な機械を通して糸状にし、それを編み込んで作られたスーツと、異常個体の魔石を加工して、腕全体を覆う様に作られた無骨な盾。
それにより、スキルを持たずとも単独で、迷宮の中層手前まで、潜る事が可能な戦力となる。
「さっさと全部隊に配備して欲しいな」
『無茶言わないで下さい南雲さん。そんなモン着たら、普通の人間なら全身粉砕骨折モンですよ』
「鍛え方が悪いんだよ。ほら、さっさと出してくれ」
『了解! およそ三分程で到着します!』
華ノ恵学園から少し離れた場所。
巨大なグラウンドの地面が開き、そこから音も無く飛び立つヘリコプター。
このヘリに乗るのは、研究所に所属してから初めての経験である。
「この装備もそうだけど、このヘリも気持ち悪いな……どんな仕組みで音を消してるんだい?」
『さぁ? 聞いた話じゃ、迷宮の素材が使われてるとか使われて無いとか。ぶっちゃけパイロットの俺には、良く分かりませんがね』
それもそうだね。
余裕でマッハを超える無人戦闘機が有るぐらいだし、無音で飛ぶヘリなんて当たり前か?
この国は一度、終末の刻の所為で技術的に落ちたからね。
他国に大きく遅れてる分、こう言った技術の修得には必死なのだろう。
『もう直ぐ那邪道地区目標地点です! 降下準備を!』
「……あそこか? 小さい奴等がっ!? このまま行くよ! 既に魔物が出ている!」
『了解!!』
プシュ── ッ「出るぞっ!」
ヘリのロックを解除し、そのまま降下──するついでに、降下地点周辺の地理を把握し、降り立つと同時に走り出した。
ズズンッ──ズドッ──降下地点の地面が抉れたが、そんな事を気にしてられる状況では無くなっている。
『ギギギギギッギギャ?』
「先ずは一匹──(パキョッ)」
走りながら盾を振り抜き、頭蓋を粉砕して次へと向かう。
上空から視認出来たのは六匹。
暗がりに潜んでいる事も考慮して、ゴーグルをセットし、熱センサーを起動。
「ははっ、一匹も漏らさずに、潰してあげるよ」
闇夜の中を、魔物を蹂躙して突き進んだ。




