EP.32 緊急事態.1
はぁっ、詰まらない。
夏祭りの実行委員として、毎年御父様の代役を務めているけど、今日ほど其れを呪った事が無い。
桐藤さんから、『一緒にお出かけしよっ』と誘われたけど、この行事が有ったので、断らざる得なかった。
毎年毎年飽きもせず、私のご機嫌取りに熱心な輩が来て、おべっかを並べるこの行事。
人工知能やロボットを介さず、終末の刻以前からも続いている、人と人とのやりとりが残る昔ながらのお祭り。勿論決済方法だけは、アナログと決済機器の両方に対応はさせている。
祭りを見回りながら、楽しむ学生や子供達を見て、少し羨ましかった。
本当なら今の時間、桐藤さんと楽しく遊べていたのだから、羨ましいに決まっている。
『ですので桜乃御嬢様、何卒我が海豚党への後押しを御父様に──』
『いやいやそこは、我ら望みの党に──』
『これこれっ、桜乃御嬢様が困っているではないかね。このような者達より──』
この様な輩が、祭りの実行委員に参加している私目掛けて、無礼にも突入してくるのですから、本当に詰まらない。
しかしそこは、華ノ恵の娘ですもの。
笑顔を崩さず、嫌な顔一つせずに対応しております。
わざわざ車椅子の進路を塞ぐ様な形で立っている、この無作法な者達でも、一応はそこそこのお立場を持っておりますもの。
そう言えば、野小沢さんがラーメン屋台で店員をしてるのを、お見かけしましたわ。
お声はかけましたけど、中々繁盛しているようで、一杯ぐらい食べたかったわね。
この人達が居なければ、食べられたのでしょうけど……早く帰ってくれないかしら。
ゴゴッ────あら、地震ね。
『それと寄付金などの──おや?』
『んんっ……地震ですかな』
『揺れは小さい様ですな……』
震源地は何処かしら。
爺共が呆けている間に、スマホで確認。
えっと、情報出てないかしら……速報では、戸ノ浄市の地下と出ているわね。
そう、戸ノ浄市……えっ?
この都市の地下ですって!? 急いで研究所に連絡をっ!!
「(ピッ)解析室に繋いで! 楽羅蘭! 何か異変は起きて無いかしら!」
『おぉ、桜乃氏、今連絡しようとしてた所で御座る。現在奏地区、那邪道地区に異常な力場が発生。奏地区は既に、奏氏が行動を起こしているで御座る。後は那邪道地区に御座るな。特定はまだで御座るが、範囲は分かるので地図を送るで御座るよ。至急対応するで御座る』
「分かったわ! 私が出向いて対処します! 楽羅蘭は追加で何かあれば連絡して!」
『畏まって御座る』
不味いですわ……何処かに出入口が発生した可能性が御座いますの。早く地図を送って来なさい楽羅蘭っ、『ピポッ』来た!!
「急ぎませんとっ」
『おやおや、どうなされたのですか──』
『まだ寄付金のお話が──』
『おっと、お手洗いですかな──』
コイツ等っ……邪魔にも程がありますわ。
この地図を見る限り、幸い力場の発生場所はこの近くですし、早く対処しなければ、下手をすれば上がって来てしまう!
「貴方達、邪魔ですからそこを退きなさい」
『えっ、今何と……ひゃぁっ』
『桜乃御嬢様? どうなされ……ひっ!?』
『いくら華ノ恵の御令嬢と言えど、今の言葉は頂け──っっっ』
「そこを退きなさいと言っているの。良い加減飽き飽きだわ貴方達……次の選挙には、期待しない事ね」
スキルを少し使って、爺共の頭を包み、そのまま少しだけ横にずらす。
そうすれば自然と足が後退して、本人達からしたら、ただの立ち眩みと勘違いしてくれる。
後ろから何か言って来るが、今は無視。
車椅子を操作して急ぎ外へと向かい、周囲を確認後、能力を解放──上空から、地図に記された範囲を確認。
「全く……あのような歳の取り方を、したくはないですわ」
何か異常が無いか、目を凝らし地上を見る。
迷宮は、遥か地の底にてその存在を広げているが、時折新たな出入口を作り出す。
その際は必ず、何某らの力場が発生して、一定の確率で魔物が上がって来てしまう。
封じる方法は一つ、力場を囲う事。
有っても違和感が無く、誰しもが自然と利用している建物で囲い、外からの目を誤魔化す。
学園然り、コンビニ然り、パン屋然り。
今確認されている出入口全てに、何某らの偽装を施している。
「嫌ぁあああ! 先輩助けてぇえええ!」
声──誰か追われてっ、既に地上に上がって来ていた!?
「あれは──ゴブリン!? 不味いですわっ!」
ゴブリンは通常群で行動する魔物。
一匹見たら十匹は居ると言われる、繁殖力の高い魔物ですのに、アレは一匹だけ!
「ゴブリンの異常個体っ、厄介な!」
ゴブリンは女性を追うのに必至で、まだこちらに気付いて居ないっ。なら────急降下プラス念力でっ、圧殺ですわ!!




