EP.28 ちょっとした異変.1
戸ノ浄市郊外────
未だ終末の刻の傷痕が残る放置された場所。
倒壊したビルや家屋、倒れたままの電柱、押し潰された車、ひび割れた大地に、足の踏み場も無い程の瓦礫の山々──の、筈だった。
「何これ、どう言う事……」
Sから送られて来た情報を元に、先輩が居るであろう場所まで来てみたら、『工事中』の看板の先で重機が作業をしており、今まさに『再開発中』ですと言わんばかりの有様。
「……一足遅かったっぽい?」
間違い無く、ここで何かが起きていた。
あの写真と、先輩からのメッセージを受け取って直ぐ、行動したのに……なら、先輩は一体何処に居るの。
「何とか中へ──『おーい! そこは立入禁止だぞー! 入らないでくれー!』っ、作業員や警備員が多過ぎる……」
一旦ホテルへ戻るか……そうだね、ここに居ても先へ行けないのだし、周辺を散策してみましょうか。
ここは……南雲町か。
一昔前のカメラやレンズ、ボイスレコーダーや各種機器が揃っている。
しかも中々手頃な価格だし、撮影機器も全部揃うんじゃ無いかな。
局に戻ったら、総務の田和芝さんに言わないとね。ここで買えば、結構な経費削減になりそうだし。
「……お腹空いたな、何か食べようか。飲食店は──見当たらない」
スマホで検索しても、コスプレ喫茶やメイド喫茶しか出て来ないし。うーん、何か無いかなっと、一つだけヒットした。
「何だろ……『焼肉・無限の胃袋』って、変な店名だなぁ。この近くだし、ここしか無いなら仕方ないか」
えっと、ここを右に曲がって、先の十字路を左で、何で路地裏に店構えてるんだろ。
焼肉店に着いた。
何と言うか、確かに裏路地に有ったんだけど、その理由がハッキリと分かった。
ボロい……今にも崩れそうな程にボロい見た目の焼肉屋だ。確かにこの見た目だと、表通りには出店出来まい。
例えそれが、作られたボロさだとしてもだ。
見た目こそボロいが、よくよく観察すると、柱はしっかりしているし、汚れは塗料で表現して、崩れかけの屋根もしっかり固定されている。
「わざわざ裏路地で焼肉屋なんて、どんなコンセプトの店なのか……」
ガラッ──『っしゃいませ! お好きな席へどうぞ!』
カウンター式の焼肉屋か……案外お客は入ってるんだな。奥の席が空いてるし、あそこにしよう。
「ふぅ……」
「っしゃいませ! 水とおしぼり置いときますんで、決まったら声かけて下せぇ!」
カウンター越しに声かけるのか。
見た感じアルバイトは居らず、店主一人の様だし、メニューの価格を見て納得してしまった。
ただ一言、安い。
この価格で利益出せるのかと、疑問に思ってしまう程に、安い。
まさか一人前が物凄く少ないとかか?
いや、他の席で黙々と食べている客を見る限り、一人前の量が……馬鹿みたいに多い。
一人前で三百グラムは有るんじゃないか?
あればタンだよな……美味しそうだ。
唯一気になるのは、このメニューに部位の名前は有れど、牛なのか豚なのか羊なのか鶏なのかが書いていない事だ。
どれも焼けば焼肉だけど、それも踏まえた価格設定なのかね。
「食べれば分かるか……大将! カルビ二人前と、ハラミ、タン、レバーを各一、ご飯大盛りと、後はビールを頼む」
「あいよっ! 先ずはビールだ(ドンッ)」
提供スピード速いな……動きにそつが無い。
「ほい、前失礼するよ。このまま火付けるからな(カチッカチッ)」
七輪で炭火焼肉なんて、何年振りだ。
昔先輩と食べに行って以来か?
はぁ……早く先輩見つけ出して、また一緒に食べに行きたいなぁ。
「へいお待ち! ご飯は御代わり自由だから、いつでも言ってくれ!」
本当に金儲けする気が無い店だ。
そして普通に美味かった。
肉の雑な臭みも無く、丁寧に熟成された肉の旨味だけが、口の中いっぱいに広がって……あの量、あの味で二千円とは、金欠時にまた来るとしよう。
そう思っていた、ホテルに帰るまでは。
「ぶっごぇえええ──っ、がはっ、はぁはぁ」
ホテルに帰って少ししたら、急な吐気と腹痛と眩暈に襲われて、この様だ。
食あたりか何なのか。
便器に顔を埋めながら、胃から出て来るモノを確認するけど、何故かさっき迄食べていた焼肉が一切出て来ない。
「なんなのっ、はぁはぁぶふっ」
若干血が混じってるし、ロビーに連絡して薬を買って来て貰おうか……痛っ!?
「ぐぅぅぅっ今度は頭痛っ、割れそぅっ、救…病…院……」
ヤバい……力が入らない……痛いのに、苦しいのに、身体が動かない……あのお店、一体何の肉を提供したの……ぼぇっ。
乙女の顔が下呂まみれじゃない。
あぁ……何か眠いわ。
死ぬのかなぁ…先輩。
「うぇえええっ、ぎぼぢわるい……生きてる?」
下呂まみれのトイレの床から顔を上げ、ゆっくりと立ち上がって、ふらつきながらも洗面台に向かう。
時間を確認したら、どうやら日が変わってしまった様で、今は朝の六時だった。
「腹痛やらは治ってるけど、病院で診てもらった方がいいか……」
取り敢えずは下呂まみれを何とかしよう。
こう見えても乙女だから、この胃酸の酸っぱい香りを顔から無くしたい。
「(パシャパシャッ)ふう……スッキリだわ」
ついでに歯も磨いて、軽く化粧を……何かなこの映像? 鏡に何か映ってる? いや、空中に映ってるのか。
ここのホテル、こんな設備もあるのかぁ、中々面白いじゃないの。
「なになに、華ノ恵工業製高級鏡……ただの宣伝じゃないの!?」
これだけじゃ無い……華ノ恵家具店特注ベッドや華ノ恵工業製特注トイレっ、華ノ恵工業製ドライヤーに華ノ恵家具店特注ソファ!?
「華ノ恵華ノ恵目が痛いわ!? なんなのよ本当に……何処かに投影機でも設置してるの?」
あぁ、また頭痛くなって来た……えっ?
手で額を押さえようとしたら、私の手にも何か文字が……意味が分からないし、ホテルは何処でこんな情報を手に入れたの?
『姓名・八多倉 冬
性別・女(乙女では無い)
年齢・二十九歳
誕生日・十二月二十四日
血液型・A型
職業・テレビ局勤務 内部監査室係長
スキル・鑑定(LV 2/100)
・索敵(LV 1/100)
攻・弱々 守・弱々 精・熊
体・犬 運・雀の涙
備考・見た目はそこそこ中身は漢』
「見た目そこそこで悪かったな!?」
何この映像っ、私が漢な訳が無いでしょ!
しかも何この精って熊ってなんだよ!
弱々熊さん犬に負けじと雀の涙って意味分からないでしょ!?
あぁぁぁ何か苛々して来たわ。
「こんなふざけた映像早く消しなさいよ!!」
っ、急に消えた!?
音声認識で映してたのあの映像……こんな危ないホテルには居られないわ、違うホテルを探しに行かなきゃ!!




