EP.26 気になるあの子は鋼鉄の乙女
きっかけは何だっただろうか。
幼稚園の頃、小学生の頃だろうか?
いつの頃からか、あの子から目が離せなくなっていた。
いつも無表情で、何を考えているのか分からない女の子。
男の子がちょっかいを出して、良く股間を潰していた女の子。
見た目はまるで、お人形の様だった。
背が小さく、茶色の髪は伸ばし放題。
瞳はまるで、ガラス玉の様に輝いていて、唇はふっくらと艶やか。
そして、一切笑わない。
本当に笑わない。
いや、笑うんだけど……あれは笑顔じゃ無くて、ただの狂顔だ。
だけど、普通にしてたら可愛いから、男の子は狙ってその女の子にちょっかいを出す。
女子達はそれが気に入らなくて、その女の子をグループには入れなかった。
だからずっと、その女の子は一人ぼっち。
声をかけたかった。
友達になりたかった。
女の子の後を付け、家族構成を調べた。
お父さんの詳細は分からなかったけど、お母さんは時々、パートで働いていた。
趣味は……トレーニングジムのポスターを見ていた事から、運動だろうか?
後は、動物が好きな様だ。
野良猫ちゃんを見つけたら、捕まえるまで追っていたし、散歩中のわんちゃんを見つけると、吠えて噛まれるまで撫でていた。
同じ中学校に行く為、進路も調べた。
血液型、スリーサイズ、病歴、服の趣味、好みの食べ物、苦手な物、一日に何回御手洗いに行くか、病院送りにした男の子の数等々、調べれるだけ調べた。
その後、友達になれる様身体も鍛え、ペットに子猫ちゃんを迎えた。
準備は万端だった。
同じ中学校に行って、友達になって、家に遊びに来てもらって、同じ高校に行って、同じ大学に行って、その後──そんな関係になれたならと、思っていた。
そう思っていた矢先に突然、女の子が居なくなった。
本当に突然だった。
先生からその言葉を聞いた瞬間、直ぐ学校を抜け出して、女の子を探した。
探した。
探した。
探した。
学校の記録にアクセスしたけど、転校先の情報が無かった。
探した。
探した。
探した。
役所のサーバにアクセスさしたけど、何故か女の子の記録だけ消されていた。
探した。
探した。
探した。
国のサーバにアクセスしようとしたけど、突破出来なかった。
それでも諦めずに、何度も、何度も、何度も、何度も、ありとあらゆる情報を集め、何度も何度もアクセスに挑戦して、ようやく突破出来た。
膨大な情報の中から、あの女の子の転校先を探した。
そして──ついに見つけた。
女の子が消えてから、四年が経過していた。
『児童養護施設 愛情会』と言う場所に、女の子が居るらしい。
会いに行こう──会って話をしよう。
そう思い、行動に移そうとした瞬間、襲撃を受けて拘束されそうになった。
勿論抵抗した。
フェイスガードごと顎を砕き、目を潰し、鼻を折り、プロテクターごと膝を割り、全力で抵抗した。
銃を向けられたけど、それでも抵抗した。
脚を撃たれたけど、それでも抵抗した。
胸を撃たれたけど、それでも抵抗した。
声を上げながら、血反吐を吐きながら、全力で抵抗した。
抵抗しながらも観察し、その襲撃者が何者なのかを知った。
胸当てに取り付けられたそのプレートに、スコップとピッケルの刻印────国の機密データに、その刻印の情報が有った。
────『部隊名・探索者』────
疑問に思った。
警察では無く、何故こんな──裏の特殊部隊みたいな奴等が襲って来たのかを。
それでも、余裕が有った。
あの女の子と友達になる為に、ただひたすらに鍛えて来たのだ。
石を割り、岩を割り、コンクリートを割り、鉄板を凹ませ、鉄塊を叩き割り、ただひたすらに鍛えて来たのだ。
突入して来た特殊部隊員目視で十名。
鉄塊を叩き割るよりも、簡単だった。
だけど────『良い人材ですわね』
アレには敵わなかった。
急に動けなくなり、その間に別働隊が来て、呆気なく拘束された。
国は、甘く無かった。
彼女は言った。
『生きるか死ぬか、選びなさいな』
「……僕は…死ねない」
即答した。
だって、死ぬ訳にはいかないから。
まだあの女の子に会えてないんだ、死ねる訳が無いだろう。
『そう……なら、貴女を一年間拘束します。その後、終末の刻研究所の一員として、地区長を任せますわ。精進なさい』
後に彼女は教えてくれたが、どうやら別の特殊部隊が、僕を抹殺する為に動いていたらしい。
国の情報を盗み見て、それを数年間気付かれずに行っていたのだから、当然の事だろう。何の情報を盗み見たのか彼女は知らず、ただ有用であると、誰かに告げられたらしい。
一年間拘束。
隔離施設内で、監視付きの生活。
それでも、一年耐えさえすれば、あの女の子に会いに行ける。
今直ぐ行きたかったけど、施設からは逃げ出せそうに無く、我慢するしか無かった。
だから一年後に────あの女の子に会いに行くんだ。鋼鉄の乙女と称された、あの無表情な女の子に。
待っていておくれ、『桐藤花乃歌』……僕のこの想いを、必ず伝えるからさ。
『南雲! 南雲智人! 訓練だ!ついて来なさい!』
「今更僕に訓練なんて……、教官が何人潰れる事でしょうね」
『大丈夫だ! 貴様が倒した者など、単なる補欠組だ! ……それよりも、何故貴様は女隊服を着ている?』
「なっ、僕は女だっ! 見て分かるだろ!」
どこをどう見ても女にしか見えないだろ!
どこをどう見てもだっ!
『そうか、女だったのか、すまんな』
「どこ見て言った……絶対に潰すからな」