EP.25 恐怖の一日.3
『いらっしゃいませー! 二名様こちらの席へどうぞー!』
ぬぅ……やっぱりこの人が離れないから、二名様扱いされたんだよ。
「これは僕の所為では無いよね。仕方無いから一緒に座ろうか」
満面の笑みが解せぬぅ……本当にこの人、私と同い年なのかな。
背は高いし、すらっとした細身で、私を(ひょい)っと持ち上げるぐらい力持ちで、何で私を膝の上に座らせるんだよ……怒るよ?
「離して下さいセクハラです!」
「御免よ花乃歌、この方がメニューを見易いだろうと思ってね」
取り敢えず対面席に……動けない?
腕を腰に回されて、ガッチリホールドされてるんだよ!?
「ふんっ、ふんっ、ぬぐぐぐぅっっっ」
「はっはっはっ、花乃歌は力強いなぁ! 僕が本気で押さえてるのに、そんなに動けるんだね」
本当にっ! 全力だしちゃうんだよっ!
「ふんっっっ(バチィッ)」
今のうちに(もそもそ)対面席へ移動なんだよ!
「つっ、痛いな、手首が外れたじゃないか」
一瞬だけ全力出して、手首を叩きました!
外れたにしては、全然痛そうにして無い……寧ろ笑ってる?
「やっぱり花乃歌は、トレーニングが趣味なのかなっ(コキッ)と。うん、ちゃんと動くね」
うへぇ、自分で簡単に治しちゃった。
何かのスキルかなぁ……さっちゃんの様な圧は感じないけど、不気味過ぎるんだよ。
ここは一旦無視をして、タッチパネルでモフモフ召喚しよう。
「ふんふん、大型犬から小型犬、子猫ちゃんから太猫ちゃんまで居るんだね……」
「花乃歌は犬ならコーギーで、猫ならラグが好きだろうね」
くっ、当たってる……短足モフモフわんちゃんに、ふわふわの猫ちゃんなんだよ!!
今日はわんちゃんの気分なので、コーギーの尻丸君を指名して、尻丸君おやつと、私のお昼をポチポチ操作完了。
「僕はドリンクだけで良いかな、紅茶にしよう」
好きにしたら良いと思います、私はモフモフに集中するので。
はい、至福の時間でした。
犬耳のコスプレした女性が、尻丸君を抱っこして連れて来てくれて、私にそのまま渡してくれたの。
尻丸君は、私の匂いを(すんすん)と嗅ぐと、牙を剥き出しにして威嚇後直ぐ、私の右腕に噛みついたんだけど、私はそのまま尻丸君の背中に顔を埋めて、モフモフを満喫しました。
右腕を噛まれたままお昼を食べて、そのまま尻丸君におやつを近付けると、私の腕とおやつを交互に噛んでいたの……可愛い!!
店員さんが謝罪して来たけど、私の腕には傷は無いから、問題無しなんだよ。
尻丸君も途中から、まるでワニの様に身体を回転して、私の腕で遊んでいたけども、私が優しく(ニコッ)って微笑むと、最後はお腹を見せて来て、仲良くなれたの。
また来たら、尻丸君を指名するんだよ!
指名料、お昼代、おやつ代、合計一万円様だから、頑張ってアルバイトします!!
因みに何故か、他の席のわんちゃん猫ちゃんは震えてました。
冷房付いてたかな?
「はあぁぁぁ、一万円様の価値が有るお店だったよおぉぉぉ。今度はさっちゃんとレオンちゃんを連れて来よう」
「ふふっ、相変わらず花乃歌は動物が好きだね。小さい頃……今も小さいから、小学生の頃も、よく犬に噛み付かれていたよね」
この人はいつ迄ついて来るんだろぅ。
しかも今小さいって言ったし、喧嘩なら買いますよ? 女の子だからグーじゃ無くて、ちゃんとパーで顔面ビンタします。
体育の授業でバレーボールを(シュボッ)って消し飛ばした、私のビンタをお見舞いしちゃうんだよ?
「そんな怖い顔をしないで……元々そんな顔だったね。御免よ花乃歌、僕はそろそろ戻らないといけないんだ」
やっぱり喧嘩売ってる……買うよ? 買い叩いて引っ叩くよ?
手を(ブゥンッブゥン)って振り回して、準備万端発射準備良しだよ?
「音が凄いな……それじゃあね花乃歌、また後で」
「さような、後で?」
行っちゃった。
しかも、何故かスキップしながら、楽しそうに行っちゃった。
うぅっ、何か寒気がするんだよ!?
早く家に帰って、のんびり勉強タイムだね。
癒しの後の苦行です。
はい、のんびり勉強タイムです。
のんびり?
出来る訳無いんだよ!!
うぬぅうううっ、頭が爆発しそう。
文系は何とかだけど、理数系がやっぱり苦手なんだよぅぅぅ、微分積分良い気分にならなぁあああい!!
「さっちゃんやレオンちゃんに教えて貰うと、絶対泊まり込みで詰込み作業されるから、何とかして覚えないとなぁ」
あぁ……毎日モフモフに癒されたい。
ウリ坊ちゃんを捕まえて、お迎えしようかなぁ……さっちゃんに処されるから駄目かぁ。
「気分転換にスマホをぽちろ……ニュースが更新されてるんだよ」
なになに、『本日オープンしたコスプレ喫茶、ケモ娘の宝箱にて、不気味少女現る』……モザイクかかってるけど、私だよねこの写真。
しかも丁度、尻丸君に右腕噛まれながら、お昼ご飯を食べてる時だ。
『犬に噛まれながらも、無表情でわんにゃんらぶらぶオムライスを食べ続けるこの少女は、一体何者か!?』
商品名そんなだったの!?
オムライスの画像が有ったから、何も見ずにポチりとしたけど、わんにゃんらぶらぶオムライスって……誰が考えたのさ。
「削除依頼だしとこう。盗撮は犯罪ですっと、これで大丈夫だよ」
────『ビーッビーッ』────
「っ!? インターホンの音かぁ、鳴る事殆ど無いから、びっくりしたんだよ」
────『ビーッビーッ』────
「はいはいっと、誰ですか……返答無し?」
────『ビーッビーッ』────
「どなたですかー?」
そっと覗き穴を確認……見えない。
何か塞がれてて、姿を確認出来ない。
不審者?
それとも、新手の訪問販売?
────『ビーッビーッ』────
チェーンロックは掛けてるから、変な人が居ても大丈夫だよね……良しっ!
「(ガチャッ)どなたですか!」
「やぁ花乃歌、隣に引っ越して来たから、挨拶に来たよ」
「(バタンッ)ふぅ、怪しい人が居たんだよ」
────『ビーッビーッ』────
ひぃっ!?
何でさっ、何で南雲さんが居るのっ!?
しかも隣に引っ越して来た!?
私の家知らないよね!?
じゃあ何で扉の向こうに居るのさ!?
────『ビーッビーッ』────
「迷惑ですのでお帰りください!!」
大至急さっちゃんにっ、(ガチャガチャッ)ドアノブ弄ってるぅうううっ!?
さっちゃんにメッセージを──っ良し送信完了しました。
「不法侵入は犯罪です! お帰り下さい!!」
入って来ようとしたら、加減無しで扉ごと吹っ飛ばすんだよっ!