水神村
わたしの住む村、“水神村”には、ある古い民謡がある。
――水神村の、水神様は、今宵も今宵で、お探しになる。
シャンシャンシャンシャン、鈴音に合わせ、
カンカンカンカン、水神おわす。
さーて夜の、帷が落ちらば、
水神様いつ、見つけになられる?――
言ってしまえば、ありがちだと思う。
民謡にあった通り、“水神村”は“水神様”を祀っている村だ。
“水神様”を祀っているから“水神村”。なんのひねりもない、我ながら何から何までありきたりな、つまらない村だと思う。
神を祀っているからといっても、生贄を捧げるなんてそんな話聞いたこともない。
“水神村”はその名前以外、大して特徴もない、よく言えば普通。悪く言えばなんの特徴もない村なのだ。
さて、ここまで散々言ってきたけど、わたしだって一応ここの住民だ。
“水神村”で生まれ、“水神村”で育った。
だから愛着も多少はある。
それに、よくよく考えてみれば、小さいながらもいいところはあるのだ。
例えば、水。
この村の裏にある“水神山”の“湧き水”は、とても甘くて美味しい。
わたしにとっては今までもこれからも飲んできた水で、味も慣れたものだったから、これが普通だと思っていた。
だから、他の村からやってきた水を売る商人から、水を試しに飲ませてもらったとき、ひどく驚いた。
全然甘くないし、とても透明なのだ。
ここの“水神村”の水は、飲水でも生活用水でもなんでも、ほんのり赤いし、比喩でもなく砂糖のように少し甘い。
一瞬血だという噂が広まったが、特有の鉄の匂いもしないし、体になんの問題もない。そもそも、“湧き水”に血が混ざっているなんてよくある怖い話だし、この村に限ってそんなことないだろうと、すぐに話は聞こえなくなった。
だけどたまに来る旅人からはひどく不気味だと言われるので、そういうものなのかな、と思っていたりする。
まぁもし危険だとしても、この村にはその“湧き水”しかないわけだから、他に頼る水源もないってものだ。
その旅人はたまたま飲料水を持っていたが、厠や体拭き用の生活用水は、渋々ながらもうちの水を使っていた。
もしかしたら、水が変だからこういう名前になったのかもしれない。
考えてみれば、この村にも色々あったんだな。少し驚いた。
そんな感じで少し変なところがある以外、“水神村”は平々凡々の普通の村ってことだ。
ここまで村の紹介をしてきた。これであなたも少しはこの村のことを知れただろう。
あ。一つ言い忘れていた。お願いだから、この村を冗談でも探さないでほしい。
さんざん村の情報を言ってきたのにって、思っているでしょう?
まぁそれとこれとは別っていうか、流れてやってきた者だったり、偶然来た人なら、この村も受け入れる。
だけど、狙ってやってきた者だったり、ここを目的地にきた人は、なぜかみんな拒むのだ。
そういえば、これもこの村の特徴かもしれない。
わたしでも矛盾していることはわかる。だけど、下手してもこの村は探さないでほしいし、詮索しないでほしい。
もしかしたら、あなたが―――いや、なんでもない。
まぁ、一旦この話はおいておいて。突然だが、今日は大事な日だ。
みんながずーっと待ち望んだ日。
なんてったって、一年に一回しかない行事なんだから。
そう、今日は“水神祭”なのだ。
先程からチラチラ出てきた“水神様”。この祭りでは、そんな“水神様”に供物を捧げる日なのだ。
ああ、先程も言った通り、供物は生贄ではない。
“水神山”に自生している“水神華”を、“湧き水”でいっぱいにした花瓶にいれて、山の奥にある祠に祀るのだ。
そのとき、村中のみんなが灯籠を持って行列を作りそこまで歩く。
そこで鈴も鳴らすのだが、多分それで民謡にも鈴音がどうとかあるんだと思う。
なんでも、長老によれば村ができたときとほぼ同時に、祭りが行われるようになったらしい。
だから結構歴史ある祭りで、そのあとにお楽しみがあるから、村人からも人気がある。
そのお楽しみというのが――またしても水だ。
なぜだかわからないが、祭りの後の水はとても甘くなるのだ。
少しなんてもんじゃない。すっごく、それこそ砂糖水のように。
それと比例して、色も濃くなる。
まぁつまり、真っ赤っ赤になるってことだ。
祭りの後、村人はささやかな宴を開き、みんなでそれが入ったグラス片手に乾杯する。
「お疲れ様」「お疲れ様」と、みんなでお互いを労い合うのだ。
ある意味、“湧き水”のほうが酒より人気があるかもしれない。
そして話を戻すが、そんな感じで“水神祭”は開かれる。
今日は“特別な”日なので、男も女も子供も総出で準備する。
男は宴の机や椅子を出したり、女は料理を作る。そして子供は“水神華”を摘みに行く。
わたしはまだ13歳の子供だ。だから花を摘みに行く役目。
他の子供達もみんなきれいに着飾り、列を作って山へ入っていく。
当然、列にはわたしも含まれる。
お目付け役の大人は二人。だけど大体は若者だ。
この年も例に漏れず、今年成人したての男二人が選ばれた。
口うるさい両親でもなんでもないので、子どもたちはほとんどが羽目を外して遊び回る。
花冠を作ったり、寝そべったり、花遊びをしたり。
それがこの祭りのお楽しみの一つでもあるので、大人たちも黙認しているらしい。
そして今。わたしは友達と一緒に花屋さんごっこをしていた。
こういうのは、いくつになっても案外楽しい。
だけどきれいな花を求めて探し回っていたら、迷子になってしまった。
困ったなぁ……。
――いや、嘘だ。これっぽちも困っていない。
ごめんなさい。嘘。嘘。わたしは安心しているんだ……あの村から少しでも離れられて。
わたしだってわかっていた。この村はおかしいって。
子供ながらに、気づいていたつもりだ。
だって、不気味なんだもの。みんなが赤い液体を「うまい」「うまい」って飲んでいる光景。
……思えば、あれも“罠”だったのかな。
わたしみたいな奴を、探し出すための“罠”。
わたしだって言った。友達に、ここはおかしいって。みんなで出ようって。
だけど怪訝そうに眉を寄せて、こう言ってくる。
――ここ以外に、いいところなんてあるはずないじゃん。
おかしいよ。みんな。
なんでそう断言できるの?
……お願い。そこの、この話を読んでいるあなた。
――みんなを、たすけて。
探さないでなんて嘘。探してほしい。見つけ出してほしい。
――ここから出して。
怖いの。だって、前に見ちゃったの。
あの“祠”。気づいたら、もう遅かった。
“wき水”は、あの“ほkr”の裏側から湧いている。
それで、昔、扉の隙間を覗いたら……
――死tいが、あったの。
女の人の――sい体。
そこから絶えずtいが出て、それが雨水や雪解け水と混ざって。
“■kあm村”に……降りてたんだ。
おかしいよ。色々。
なんでみんな平気そうにみzうを飲むの?
わたしなんて、吐き気がしたのに。
こんなbあsyお。もう嫌だ。
だけど、村の外へ行ける場所には有刺鉄線があって、出られない。
だったら、商人や旅人は、どこから来たの?
“みzうかx山”?
もう、なんなの?
お願い。ここからだsいw。
わtあsを――みんなを、たwxて。
aれ……?もう、knんなに暗い。
よr?早くnzい??もうsおnな時間?
あ。
まsか……。
――ガサガサッ。
ひっ。いmxの、なに?
まさか……“■■様”?
あの■■は、hおnn当だったnだ。
!?……いy!嫌だ!!
wtsけて!
ごmえなさい。“■■■”!ごめnnいwい。
あaも!逃gwてr
探しnやっtuる!
kとそっちn
――水神村の、水神様は、今宵も今宵で、お探しになる。
シャンシャンシャンシャン、鈴音に合わせ、
カンカンカンカン、水神おわす。
さーて夜の、帷が落ちらば、
水神様いつ、見つけになられる?――
みつけた
※この話はhぃクションです。