第2話 クズ男の過去がバレる(元婚約者 vs 女騎士!?)
「お久しぶりね、ユウマ」
それは唐突だった。ミアとのほのぼの(?)冒険生活に慣れはじめた矢先。
次の街で宿を探していた俺たちの前に、絹のような金髪に完璧すぎるスタイルの女が現れた。
「……誰?」
「(オレも知りたい)」
ミアが身構える。俺は脳内で過去の女遍歴を高速検索――まて、心当たり多すぎる。
「……お前、まさか、リアナか!?」
「正解。元婚約者ってところ、忘れてもらっちゃ困るわよ?」
「うわああああああ!? なんでここに!?」
彼女の名前はリアナ・セリシア・フォン・グランゼル。
王都屈指の大貴族の令嬢であり、俺が異世界転生直後に「おいしい話」と思って婚約した相手だ。
が、当時の俺は超絶調子に乗っていて――
「……私が目を離した隙にメイドに手を出し侍女に手を出し、はては馬小屋の掃除婦まで……」
「ちょっ、おい! 語弊! それ語弊だろ!?」
「証人、10人以上いるけど?」
ミアがじわじわ距離を取ってるのが見える。やばい。
「それで私、婚約破棄しようとしたのよ。でも……、あの時のあなたが言ったのよね」
「……オレ、なんか言った?」
「“お前が悪い。俺に惚れたお前が”って」
「クズゥ――ッ!!!!!」
ミアが素手で俺の顔面をフルスイング。宿の看板が俺の頭上でスローモーションに落ちてくる。
「うわあああ!? オチるの!? オレの好感度どこまで下がるの!?」
◆◇◆
結局その夜は、宿の倉庫で俺だけ別部屋に隔離、ミアとリアナはなぜか酒を飲み交わしていた。
「……アイツ、昔からあんな感じだったの?」
「ええ、もっとひどかったけど。顔だけはいいのがタチ悪いのよ」
「わかる。たまに『……悪い奴じゃないのかも?』って勘違いしそうになるの、マジで危険」
おい、なんで意気投合してんだ!?
オレ、死ぬ? 明日あたり死ぬ?
「で、リアナさんはなんでこんな所まで?」
「ふふ、探してたのよ。アイツが本当に“終わった男”かどうか、見極めにね」
「……つまり、未練あるってこと?」
「ないって言ったら嘘になるわ」
ミアの表情がピクリと動いた。
俺は倉庫の隙間から、何も見てないフリしながらガクブルしていた。
◆◇◆
翌朝――なぜか3人で依頼に出ることになった。
「なあ、なんでこうなった!?」
「お試しよ、ユウマ。どっちの女が似合うか試されてるの」
「ヒロイン枠争いで命かけんな!!」
向かったのは《魔狼の巣窟》。中ボス級の魔物がウヨウヨいる危険地帯だ。
「――来たわよ、群れ!」
「ミア、右から回り込め! リアナは俺と挟み撃ちだ!」
「(あれ、指示がまとも……!?)」
「(成長してる……? いや、まさか……!)」
俺はクズでも、逃げ足と判断力だけは一流。
戦場では割と役に立つのだ。しかも今回はミスなし! 珍しく!
「やるじゃない、ユウマ」
「……ちょっと見直したかも」
「ふっ……伊達に前世でブラック企業勤めしてなかったからな」
「それ関係ある?」
◆◇◆
依頼は無事成功。帰り道リアナがぽつりと呟いた。
「……本当に、変わったのね。昔よりは」
「……そりゃまあ、色々あったしな」
「でも、まだ信用はしないわ。今度こそ、私を裏切ったら――」
「殺す、ってか?」
「ふふ……殺すだけで済むと思ってる?」
「こええええよ!!!」
◆◇◆
夜。宿に戻るとミアが真顔で俺を呼び止めた。
「……ねぇ、ユウマ。はっきりして」
「え、何を?」
「リアナのこと。好きだったの? 今でも?」
……まっすぐな目だ。逃げられねぇ。だから俺は、正直に答えた。
「……昔は、いい女と付き合うことで自分の価値を測ってた。でも今は違う。
俺がクズだって、何回でも顔を殴ってくれるやつの方がありがたい、と思ってる」
「……変な告白?」
「違う!?」
ミアの顔がちょっと赤くなった。が、すぐリアナが割って入る。
「なら、次は私とデートしてもらうわ。昔とは違うあなたを見たいもの」
「え、ちょ、どっち!? なにこのヒロインバトル構図!? オレの心臓はひとつしかねえ!!」
……かくして、俺を巡る修羅場はまだまだ続く。
◆◇◆
「今日から私たち、夫婦です」
「え、マジで!? 今の、正式!? ノリじゃなくて!?」
まさかの勢いと流れで、女騎士ミアとの結婚が成立した。
異世界に転生してからいろんな女に追われ、追われ、殴られ、詰められた挙げ句――なぜか俺は合法的に女騎士の夫になった。
いや、嬉しいよ? でもさ……
「この書類、偽造とかじゃないよな?」
「どれだけ信用ないの!? 王国認可の正式な婚姻届けよ!」
ガチだった。
◆◇◆
「じゃあ、まずは“夫婦の寝室”を――」
「!?!?」
「って言っても、別々よ? まずは“信用”からスタートでしょ?」
「ふぅ……(ガチで死ぬかと思った)」
その日から始まった俺とミアの新婚生活は、笑いあり、涙あり、死亡未遂ありの地獄絵図であった。
◆◇◆
【事件その1:朝食クライシス】
「ほら、今日は私が作ったわよ!」
「おお、サンキュー。……って、え、黒い?」
「これは“焦がしパンケーキ”よ。騎士団式の訓練食!」
「訓練食!? 食べる訓練!?」
まるでレンガ。フォークが折れた。でも……頑張って食べた。泣きながら食べた。
――すると、ミアがポツリ。
「……本当に、前の女にはこんな顔見せたの?」
「いや、むしろ全部逃げられてたな」
「……そっか」
それだけ呟いて、ミアは背を向けた。
その横顔が、ほんの少しだけ嬉しそうに見えた気がした。
◆◇◆
【事件その2:クズ、バイトに出る】
「家計、赤字です」
「!? 結婚したら幸せになれるんじゃないの!?」
「あなたが稼がなきゃ、誰が食わせるのよ!?」
ってわけで、俺は冒険者ギルドで“低ランク依頼”の連打。
ゴブリンの鼻毛収集、スライムの粘液絞り、老犬の散歩(なお凶暴)……クソみたいな依頼ばっかだが、やるしかねぇ。
でも、そのたびにミアが弁当を作って持たせてくれる。
「……今日の弁当、ちょっと柔らかいじゃん」
「文句あるの?」
「いや、めっちゃ嬉しいッス!!」
――不覚にも弁当の卵焼きで泣きかけた俺は、かつてのクズ男とは思えないくらいに、更生の道を歩み始めていた(気がする)。
◆◇◆
【事件その3:元婚約者、再襲来】
「ごきげんよう、新婚さん」
ドアを開けたらリアナが立っていた。
「何でまた来るの!? ストーカーかよ!?」
「違うわよ、これは定期観察よ。“本当に反省してるか”の」
「なんで監視されてるの!? おれ、仮釈放中の犯罪者!?」
しかも何が恐ろしいって――
「今日の夕飯、私が作るわ」
「いや、それはミアが――」
「対決よ、ミア。私と料理で、勝負しない?」
「のった!!!!!」
地獄が始まった。
◆◇◆
【料理バトル:決戦、キッチンの陣】
ミア:『煮込み肉団子爆裂スペシャル』
リアナ:『王都式トリュフバター焼きステーキ』
「さあユウマ、どっちが美味しかったか正直に言いなさい♡」
「え、地雷しかない選択肢!?」
「命を賭けて選んでね」
俺は震えながら、ミアの団子を口に入れた。……うまい。
どこか素朴で、雑だけど、あったかい。
「……俺は、こっちが好きだ」
ミアの顔がぽっと赤くなった。リアナはふっと笑って肩をすくめる。
「ふふ、今回は譲ってあげる。でも次は負けないわよ?」
「次あるんかい!!」
◆◇◆
【エピローグ:ベッド争奪戦】
そして夜。
「ねぇ、そろそろ……。一緒のベッドで寝てもいい?」
「え、マジで!? って、冗談じゃないよな!?」
ミアが頬を染めてうなずく。俺の理性は、残りHP1。
――が、直後に窓の外から声が。
「今夜はここに外泊するわ。新婚さんの監視が任務よ!」
リアナァァァァァァア!!!
「おいストーカーか!?」
「ふふ、ゆっくり“夫婦らしく”しなさいな」
俺の新婚生活は、まだまだ波乱の渦中だった。