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第一章 一「悪役として殺してくれ」

「ふふ、あはは、あははははは!これで良い!俺は殺される!まさに悪役!悪魔どもが暴れようと関係なし!」


 牢屋の中で高笑いを響かせている齢17の青年は、明日の朝には処刑される。罪として立てられる罪状は青年の知ったことではないが、盛大に首を飛ばされようと民衆が歓喜の声を上げるのだと予想できた。


「鈴が上手くやるか不安だったが、あのおバカは見事思い通りに動いたわけだ。くっ、あはは、愉快愉快」


 鈴とは彼が拾った男だ。年齢も名前も、顔さえも知らない男。見分けはつかないがキャンキャン犬のように鳴いて引っ付くのはその男ぐらいなので、「鈴」つきの犬で「鈴」と呼ぶことにした。


「だが、まぁ、彼奴に世話になったのは確かだ。処刑はされない手筈だが、痕跡は残しておくか」


 情がわいた、と口が裂けても言えないほど口の端を上げた悪役の笑のまま、彼は使役している悪魔の名を呼んだ。


「フォカロル」


「…………………」


「フォカロル」


「…………………………」


「………フォカロル!三度目の正直などで出てくるベタはもういらんぞ!」


「……………主が、悪い」


「フン、いつまで拗ねている。俺との勝負に負けたのはお前だ。悪魔の唯一の礼儀も払わん気か?」


「死ぬ、のは、聞いてない」


 影の中から出てきた悪魔フォカロル。黒い翼を畳んだ少女。口数は少なく弱々しく掠れた声を発する少女の眼差しには言動とは裏腹の怒りがあった。


「何訳のわからないことを、死んだとてお前にはメリットしかないぞ?鎖は解除され、お前の愛しの兄様の元にも帰れる」


 何が不満なんだとフォカロルの主は冷たい地面に座ったままいう。それを見て少女は少し考えた後、翼を広げモゾモゾ滑り込ませるようにして青年の足元に翼を敷いた。


「おい、チクチクするぞ」


「…………………」


 少女の気も知らない青年は、フォカロルが今の今まで翼のケアを忘れるほど悩んでいたことを知らない。ムッとしたものの、彼に伝えたいことを辿々しい言葉で言うには今しかないと違う言葉のために口を開く。


「鈴、もう、逃亡」


「はぁ?」


「鈴、追われる、身」


「チッ!あぁそうか!彼奴はやっぱそういうやつだよ!」


 少しは手心をと考えていた青年は、少女の拙い言葉で全てを察し苛立つように頭をかく。


「なら、あいつに伝えろ。隣国にではなくラキアの方に行けと」


「ラキア…病、流行る」


「頑丈だけが取り柄のやつだ。逃げるならそこしかない。騎士道精神といっておきながら、呪いを何より嫌うこの国だ。捜索の手さえ伸ばさないだろう」


「風、飛ばす、でも、鈴来る」


「……足止めしろ、俺が死ぬのを邪魔されるわけにはいかん」


 ラキアへ行くかどうかはあいつに委ねるが、処刑を邪魔するのは絶対に許さない。

 フォカロルが不満そうにしていても、こいつに邪魔などできるはずがないのだから、これで一安心だ。


「俺の呪いはさぞかし苦しいだろうよ」


 青年の名は、名無し。呼び名として正すなら「ナナシ」。


 青年に名を与える存在などこの世にはいない。いや、目の前の少女や今この場に駆けつけようとしている鈴であれば、青年に名がないというなら与えようとしただろう。壊滅的な名ができあがりそうだが………………


 「ナナシ」と名乗った青年のことを1人は素晴らしい名だと褒めちぎり、1人は何度も雛のように呼び続けた。分からないのだ。この名が表す意味を。


 2人だけに限らず、この世に生きる人間に対し違和感を与えることなく名乗ることができた。だから、捻くれた青年は変えなかった、偽名を考えなかった、……というわけでもない。


「ナナシ、……どこか可愛らしい名前ですね!」


 あの人が笑ってそう言ってくれたから青年は、





 ギィィ、


「主、人、ころっ、!」


「フォカロル」


 人が来たと風の音を拾ったフォカロルが紡ぐ言葉を切り捨てる。いつかの自分を思い起こさせる少女の表情を切り捨てる。


「礼を言う。今まで助かった」


 これが最期だからと、意地悪な笑みは浮かべず……………いいや、彼はその時も愉快そうに悪役が浮かべる笑みでいった。


「兄様に勝つには翼を折れ」


 ハッとしたように驚愕の表情を浮かべたフォカロルを見て青年は満足そうに手を払いのけた。




「処刑の時間だ」

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