泥棒猫ヒロインを暗殺しましたけれど、浮気王子と結ばれるのは御免ですので、第二王子を王太子にしますわ〜悪役令嬢は子沢山〜
幾つか筋があるので、設定の使い回しがあるかもしれません……。
私に前世の記憶が戻ったのはある朝の事でした。目覚めと共に、今の私とは違う別の女性の記憶が流れて来ました。短い一生を終えた彼女は私の前世。その詳細は割愛しますが、1つ大きな問題があります。それは私が今生きているこの場所、いえ、この世界は前世の私が死ぬ前に読んでいた小説の世界だと言う事です。
その小説は、あるゲームが発売されて20周年を迎えた記念とかで作成された前日譚でした。と言っても私はゲームをプレイをした事がない処か、そのゲームに付いては一切存じません。
偶々面白そうだと購入しただけで、小説を読んだ後でゲームの前日譚だと知った次第でしたから。
最も私はゲーム開始時にはとっくに死んでしまっているのですけど。何故って? この前日譚の終章で処刑されるからですね。家族と共に。
私を処刑したのは国の王太子。私の婚約者です。学園卒業パーティーと言う華々しい舞台で、衆目に晒されながら「君との婚約を破棄する!」と断罪され、牢へ連行されて、処刑日までの数日を過ごし、「未来の王太子妃に危害を加えた一族」として、家族諸共処刑されるのです。
そして王太子はヒロインと結ばれるのですわ……。
ふざけるな!!!!
……物語のヒロインは男爵令嬢。あろう事か彼女は王太子に近付き、婚約者である「私」から王太子を奪うのです。つまりは泥棒猫ですわ。そして王太子は最低の浮気男。どう考えても私が被害者です。
なのに悪役として扱われ、加害者にされ、最後は処刑。
あんまりではありませんか!!
ベッドの中、私は怒りで震える身体を抱き締めます。まだ少し起きる時間より早いので、今の内に気を落ち着かせる必要があります。私は意識的に深呼吸を繰り返しました。
……幸いな事はまだ物語が始まる前であり、私と王太子殿下の婚約も結ばれてはおりません。対策をするならば今の内です。
あら? そう言えば殿下はまだ第一王子であって、王太子ではありませんわね。
だったら……、第二王子殿下が王太子になれば良いのではないかしら。そして私が第一王子殿下ではなく、第二王子殿下と婚約するなら……。
幸いな事に私には選択肢がありました。第一王子と第二王子のどちらと結ばれるのか、決定権は私にこそあったのです。私に選ばれた王子が立太子なさるのです。
尤もそれだけで収めるつもりはありません。第一王子は王族である事に変わりないので、復讐には生温いですからね。ですから何れ失脚して頂きましょうか。
男爵令嬢の方は……、死んで貰いますわ。生かしておいて、今度は第二王子にちょっかい掛けられては堪りませんもの。幸いお父様が私にプレゼントしてくれた、「私のお願いを叶える人達(=時に暗殺も請け負う隠密集団)」があります。それを使えば良いでしょう。
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そうして15年。物語と違い、おべっかを使う第一王子を罠に嵌め、処刑に追い込んだ私。泥棒猫ヒロインもとっくにいなくなった世界で第二王子と結婚しました。ザマァ。
そして初夜。愛しの旦那様はーー、
化け物になりました。
比喩ではありません。本当に化け物です。全身緑色で皺(?)だらけの巨大な化け物です。あれは、そう、魔物……、いえ、まるで魔王ですわ。
歴史の授業で教わる、真偽も定かでない建国伝説。その主人公である勇者は魔王を倒し、建国した。つまり現王族は勇者の直系で……。
城内の人間を殺し、食べる魔王と変じた旦那様は私を殺しませんでしたわ。
「ううむ……、我が可愛い魔物達はやはり勇者に全滅させられてしまったか……。まあよい。我が復活した以上、また増やしてゆけば良いのだ。幸い母体はあるしのぉ……。」
そう言って、魔王は私を見、てーー。
今や私は魔物を生み出す苗床でございます。次から次へと魔王が頑張るせいで魔物が絶えず、生まれて来るのです。最早、死んでしまいたいのに、魔王の術なのかそれも不可能の様で……。
私はもっと記憶に寄り添うべきでした。あの小説がRPGの前日譚である事に注意を払うべきでした。小説の題名が「勇者のルーツ〜身分を超えた運命の恋と魔王復活〜」である事を考えるべきでした。
何を後悔してももう遅い。勇者は誕生しない。その父も母も私が殺した。だから……、この世界は魔王のものとなるのでしょう。
〈小説のあらすじ〉
この国には伝説がある。初代国王が魔王を討伐した勇者だったと言う伝説が。
彼は仲間の1人と結婚したと言う。それが初代王妃だ。彼女の手の甲には痣があった。
ーーこの痣と同じものを持つ女性が現れたなら、それは魔王復活が近い証。必ずや王族に迎え入れ、出来うる限り早く国王又は次期国王との間に子を作れ。その子が復活した魔王を倒す次の勇者である。
そして痣を持つ男爵令嬢が出現した。彼女は異例ながら王太子の側室になる事が決められた。しかしそれに納得いかなかった女性がいる。王太子の婚約者だ。浮気だ、不誠実だと王太子を責め、男爵令嬢に危害を加え続けた。それが度を越し、彼女を処刑せざるを得なかった。彼女の家族をも道連れにして………。
※因みに王太子になれなかった第一王子はおべっかを使ったのではなく、単に未来の義兄として接していただけ。まさか義妹に陥れられるなんて予測していなかった。
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