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第7話 脱獄させていただきます

「ルートは覚えたな?」


「多分大丈夫」


 ジルベールが脱獄の作戦を教えてくれた。

 くすねてきたらしい紙に大体の見取り図と脱出経路が描かれている。

 説明の最中、何本か矢印にバツをつけて新たに引き直していた。

 私が加わったことでルートを変えるからだそう。


「無駄に広い城だ。警備は正門以外大したことはない。落ち着いて進めば問題ない」


「兎に角、ついていけばいいんだよね」


 少なくともジルベールは単独で脱獄して、わざわざ第四地下牢まできて、さらには兵士を眠らせてまで私を連れ出そうとしている。


 ジルベールって何者……?


 私の困惑を知ってか知らずかジルベールが言う。


「まぁ、はぐれたら運がなかったってことだ。準備はいいな。行くぞ」


 頷くとジルベールが牢屋の扉を押す。

 蝶番が小さく鳴きながら、ゆっくりと開いた。


 本当に解錠済みなんだ。

 魔法とかで侵入したわけじゃないってことね。

 あ、魔法で解錠した可能性はあるか。


「鍵はどうやって手に入れたの?」


「兵士から奪った」


「滅茶苦茶だね」


「眠らせた後にな。戦闘は好きじゃない」


 第四地下牢の鍵は当然、彼が持っていただろうことを思い出す。


「ケインさん強そうだったもんね」


 まさかステータスを見たなんて言えないけど。

 そもそもこの世界はステータスを見れるのが当たり前かもわからないもんね。


「なんだ知り合いか? そんなわけないか。よく兵士と話ができたな」


 それは私でも思う。

 ケインさんだったから話ができた。

 あとは情報が欲しくて必死だったのもあるかも。


「真面目そうな人で、聞いたら色々教えてくれたよ」


「おいおい、そいつは不真面目な兵士だ。囚人にペラペラ話すやつがあるか。……まあ人間として真面目なんだろうな、きっと」


「そういうことですよ。眠らせただけでよかった。ケインさん、いい人そうだったから」


「それが本当なら珍しいタイプだ。この国の兵士は怠惰で卑怯なクズばかりだからな」


 吐き捨てるようにジルベールが言った。

 国の事情も何もわからない私は黙って後ろをついて行く。


 間もなくして通路の終点に辿り着いた。

 階段を登った先にある扉の横には、簡素な椅子とテーブルが置いてあるだけ。


「兵士が転がってるから気をつけろ。まだ眠っているはずだが」


 椅子の裏に兵士が横になっていた。

 薄暗くてよく見えないが、恐らくケインさんだろう。

 静かな呼吸が聞こえる。

 よかった。死んでない。

 ジルベールを疑ってたわけじゃないけど、たまに永久に眠らせるタイプの人いるじゃん。映画とかでよく見るやつ。


「扉の内側にいるのによく対処できたね。全然音しなかったよ」


「嬢ちゃんは寝てたろうが。それに詰めている兵士にも隙はある。さて、ここから先は声を抑えろよ。怠惰な兵士でも懲罰よりは働く方を選ぶ」


 そう言ってジルベールが扉を押し開ける。

 眩しさに備えて目を閉じたが、一向に瞼は光を感じない。


 恐る恐る片目を開けると、地下牢が続いてるのかと思うほど暗い廊下が広がっていた。


「階段までは明かりがないからな。転ぶんじゃないぞ」


 先に出たジルベールに続いて、扉をゆっくりと閉める。


 脱獄の手助けをしたら首が飛ぶと言っていたっけ。

 この世界の雰囲気からして、文字通りってことになりそう。

 今回は襲撃からの脱獄だから大丈夫だと思いたい。


 ごめんねケインさん。処罰が軽いことを祈るね。


 窓から射し込む僅かな明かりを頼りに忍び足で廊下をしばらく進むと、ジルベールが手を出して制してくる。


 戻れのジェスチャーに続いて柱の方を指差した。


 誰か来たのだろうか。


 音を立てないよう慎重に足を運び、柱の影まで移動する。

 程なくして気怠そうな声と足音が近付いてきた。


「どうして俺が囚人の飯を運ばなきゃいけないんだよ。魔術師のジジイどもの食事会だかなんだか知らないけどよ、兵士を雑用に使うなよな」


 音はどんどん近くなり、兵士らしき影が目の前を通り過ぎた。


 この先に行くってことは、私の夕食?

 第四地下牢以外にも繋がっているかもしれないけど、台を押してるわけでもなかったから一人分だと思う。

 もしそうだとしたら、時間は限られてくるよね。


 音が完全に聞こえなくなってからジルベールが合図を出す。

 二人で静かに階段の先へと進んだ。


「囚人に夕食がでるなんて聞いてないぞ」


「女と要職の男に多いらしいよ」


 暗闇でもわかる。

 ジルベールが頭を掻きむしった。


「畜生、あの野郎。俺だけ特別とか言いやがって。ぶっ飛ばしてくればよかった」


「あれ、ジルは夕食あったんだ」


「残飯を夕食と呼んでいいか甚だ疑問だが、あった。普通は出ないんだから感謝しろと見張りの兵士がふんぞり返っていた」


「ジルは要職についてたの? それとも実は女?」


「どちらでもない。それよりもルートを変えるぞ。想定より早くバレそうだからな」


 元々はこの先にある厨房横の通路を使う予定だったんだよね。

 兵士が来たってことは人がいる可能性が高い。だから避ける。それに、今はジルについていくしかない。


 ルートは大きく変わり、一旦階段を登ることになった。

 二階に上ってすぐに前方を睨む。

 朧げだが大きな扉が見えてきた。


 遠目にはただ大きな扉だったが、いざ目の前に立つと華美な装飾が施されていることがわかる。


「随分と豪華な造りだね」


「成金御用達の客室さ。今日は一切の客人がいないと聞いていたが、間違いないようだな」


 客室内には豪勢な家具と装飾がこれでもかと詰め込まれている。


「インテリアはよくわからないけど、これは悪趣味って感じがする」


「成金どもは金の匂いがすればするほど機嫌を良くするからな。ここの設計者はよくわかってるぜ」


 薄明かりの中でもジルベールは迷いなく壁際まで進むと、淀みない手つきで窓の鍵を外した。


「ここから外に出られる。ちと高いが縄梯子をかければ問題ない」


「捕まってた割に準備が良すぎない?」


「ここは一度来たことがあるんでな。そのソファの裏に縄梯子が括り付けられてるはずだ」


 促されるままにソファの下を覗くと、束ねられた縄がくっついていた。


「本当にあった」


 手を伸ばしてなんとか縄を掴むと想像以上の重量感が伝わる。


「ん、しょっと」


 縄梯子を引き摺り出してジルベールに手渡す。


「それじゃあ先に降りてくれ。風はないが気を付けろよ」


「見回りの兵士がいたらどうすればいい?」


「それならもう騒ぎになってるさ。それか縄梯子に気付かない程度の兵士ってことだ」


「そっか。わかった」


 最悪の場合は《偽りの器》を発動させよう。


 窓から下を見ると、二階とはいえ暗くて地面が近いのか遠いのかわからない。

 短く息を整えて縄梯子に足をかける。


 縄梯子は思いのほか揺れた。

 地面に足がついた瞬間は大きなため息をついた。


 人生初の梯子が縄梯子ってのはカウントに入れていいのかな。

 一歩毎にたわむから最後まで怖かったよ。


 ジルベールを待つ間に辺りを見渡すが、兵士らしい影は見当たらない。

 見取り図では中庭に位置するはずだが、向こう側に見える壁は暗くて殆ど見えない。

 これでは兵士がいても互いに気が付けないかもしれない。


「なに考え込んでるんだ、行くぞ」


 音もなくジルベールが隣に立っていた。


「おわ、ビックリした。縄梯子はそのままでいいの?」


「回収してる暇はない。それより中庭を抜けるには向こうの柱間を潜るしかないわけだが、恐らく兵士がいる。」


 私のせいとはいえ、戦闘は極力避ける方針だとしたら兵士の存在は厄介極まりない。


「どうするの?」


 ここまで迷いなく進んできたジルベールのことだから、こういうときの対処も考えてあるだろう。


 期待を込めてジルベールの言葉を待つ。


「とりあえず近付いてから考える」


 行き当たりばったりだった。

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