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第2話 快適な地下牢で情報収集

 第四地下牢は予想外に快適だった。

 実家のリビングより広い空間に生活必需品と思しき家具が一通り揃っているのだ。

 テーブルや椅子にソファはもちろん、ベッドまで置いてある。

 寝心地は期待できないけど、この世界ではマシな方ではないだろうか。


 連れてこられる間に随分と歩いた。

 転移した塔から見えた城下町や、城の敷地を見た感じでは現代には程遠い景色だった。

 文化レベルはファンタジーでも、囚人の扱いは先進的なのかもしれない。


「それにしても、困ったなー。夢にしてはリアルだし、異世界転移を楽しもうと思っても牢屋の中だもんなー」


 これがゲームだったらどうするか考えてみよう。

 うん、とりあえず探索だよね。牢屋脱出のヒントが見つかるかもしれない。


「樽も壺もないのが残念だけど」


 実際に樽があったとて、割るのか漁るのかは派閥が分かれるとこだろう。私は割る派。

 他人の家に侵入して躊躇なく樽を割りまくる系の大ヒットRPGが大好きだから。


 一通り探索してみたが、収穫はなし。

 家具以外は何もなかった。タンスの裏とか嬉々としてみたけどダメだった。


「こんないい部屋、もとい牢屋に入れられるくらいだから食事は出るよね。とはいえ、黙って捕まってるのもゲーマーとしてはどうよ」


 探索はした。これで何も起こらないとしたら、あとは時間経過で看守が食事を持ってきて物語が進むのがお決まりかな。

 ただ待っているのも退屈だよね。そういえばさっき見たステータス画面をチェックしてなかった。


 念じると先ほどの画面が視界に浮かび上がる。


 名前:桐島楓

 レベル:1

 種族:人間(女)

 HP:50/50

 MP:20/20

 職業:なし

 魔法:なし

 スキル:なし

 固有スキル:《偽りの器》


 設定、ヘルプ、ログアウトなんて文字は流石になかった。当然か。

 何度見ても弱すぎる。このまま追放されたら即デッドエンドでは。


 気になるのは固有スキルだ。《偽りの器》とは一体何だろう。


 画面に重なるようにして細長い画面が表示された。


 固有スキル:《偽りの器》

『種族分類:人型』の個体に変身する。

 接触した個体のみ使用可能。記憶上限1体。

 消費MP0

 効果時間60分

 クールタイム300分


「これまた癖の強そうなスキル引いちゃったね」


 とりあえず使い道はありそう。

 直近なら看守に変身して脱獄かな。牢屋の鍵さえ手に入ればクリアだし。


 固有スキル:《偽りの器》からわかったことがいくつかある。

 まずは『種族分類:人型』について。

 やはり人間以外にも人型の生き物が存在するということ。エルフやドワーフに会える可能性がグッと高まった。

 そして単位がゲームのように設定されていること。

 個人の認識に合わせて翻訳されているだけの可能性もあるが、恐らく現実と同じ感覚でも通用するはず。


「消費MP0はありがたいけど、クールタイムが5時間もかかるなんて使いどころが難しそう」


 ゲームならとりあえず使用してみるところだが、今はまずい。

 ここぞという場面でクールタイムでは目も当てられない。

 そもそも変身対象の欄は空欄のまま。接触の条件も不明瞭だ。


「やれることもなくなったし、これからについて考えますかー」


 無駄に広い牢屋の中で呟いてみる。

 ソファは意外と座り心地がよかった。


「あの爺さんたちが言うにはこの世界には魔王がいて勇者がそれを退ける、予定だった」


 王への報告とかも言ってた気がする。


「召喚に失敗した爺さんたちは叱責を免れるために次の行動を起こすはず」


 私を地下牢にぶち込んだのは時間稼ぎだと思う。

 もう一度儀式を行うか、誤魔化すために偽物を用意するか。いずれにしても女の私が召喚されたと知られたくないだろう。


「何をするにも情報がほしいなー。食事を運んできてくれた人に色々聞いてみよう。まさかご飯抜きってことは、ないよね?」


 看守が囚人の質問に答えるとも思えないけど、一言くらいは返してくれることを願って。

 食事があることはより深く願おう。


「さっき歩いた感じだと、もうすぐお昼だとおもうんだよね。待ってる間に武器でも調達しますか」


 家具ばかりの牢屋を見渡して武器になりそうなものを探す。

 自衛のためというよりは、武器欄が空白なのがなんとなく嫌というゲーマー魂からだ。


 木製の椅子がよさそうだ。

 円筒状の脚が綺麗に四本ついている。

 多少重いが持ち上げられないほどではない。


「よっと」


 背もたれを持ち、角度をつけて地面に叩きつける。

 メキッという音とともに椅子の脚がへし折れた。


「ひのきの棒ゲットだぜ」


 腕よりやや短い程度の、片手で持てる棒が手に入った。

 正規ルートを進める前に寄り道して武器を見つけたときのような高揚感がある。


「下着にローブ羽織った女が棒持ってるなんて、ヤバいね」


 適当にぶんぶん振り回してみる。

 結構腕が疲れた。


 特にやることもなくなってしまったのでソファに身を預けて目を閉じる。

 すぐに眠気が襲ってきて、意外と疲労していたことを自覚した。

 思えば突然のことだらけで当たり前といえば当たり前だった。


 目を覚ましたらどっちの世界になるだろう。

 私は期待とほんの少しの不安、そして焦燥感を持ちながら短い眠りについた。



 幸か不幸か目を覚ましたのは地下牢の中だった。


「おい、起きろ。食事だ」


 鉄の扉の向こうから男の人の声がする。

 慌てて近寄り返事をしてみた。


「すみません。寝てました」


 扉の中ほどにある窓を開けと、兵士に指示された通り開ける。

 鉄の擦れる音は好きになれない。


「呑気なもんだ。食事は日に三度ある。朝昼晩、呼ばれたら同じように扉の小窓を開け。そうしたら死にはしない」


 ぶっきらぼうな声とともにトレーが差し込まれる。

 皿が三枚。パン、肉、スープだ。


「ありがとうございます。結構もらえるんですね」


「……お前は女だからな」


 含みのある言い方だ。女性優位の国なんだろうか。それを快く思っていないとか。


「どういうことですか?」


「ここにぶち込まれた経緯は知らんが、他の兵士たちが噂していた。使い道があるとな」


 使い道。つまり「女」としての、そういうことだろうか。

 全然女性優位ではないようだ。むしろその逆。


「な、なるほど。嫌っていったら、どうなります?」


「当然無駄だろうな」


 即答。ですよねー。現実では欠片もなかった貞操のピンチ。

 始めてはこうじゃなきゃダメなの、なんて幻想は抱いてないけど無理矢理は嫌だ。


 私は永久追放の身で特例措置中なんですって言ったらどうなるかな……かえって悪くなりそう。


 なんと返そうか逡巡する私を知ってか知らずか兵士が続ける。


「だが、すぐではないだろうな。わざわざ第四にぶち込んだんだ。まずは金持ち共が値踏みに来るだろうよ」


 嫌すぎる。凌辱エンド待ったなしですか。

 わざわざ第四に、ってことはやっぱり家具が充実してるのも食事がまともなのも特別なんだ。

 残念ながら囚人に優しい先進国ではなかったみたい。


「ここから出してもらえたり、しませんよね」


 ダメ元の交渉は当然一蹴された。


「駄目だ。俺の首が飛ぶ。運がよければまともな金持ちに拾われる。そうしたらあまり苦しむこともないだろうな」


 あまりなんだ。人身売買するような人間がまともなわけないか。

 永久追放ってことは国は関与しないってことだろうし、いないことにされたら人権も何もなさそう。


「そろそろ食え。一時間後にトレーを回収しにくる」


 そう言って兵士が扉から離れる気配がした。

 私が何かを言うよりも早く、足音が扉越しに遠ざかっていった。


「腹が減ってはなんとやら、悩んでいても仕方なし。ありがたくいただきますかー」


 とりあえず情報は手に入った。

 嬉しくない情報だけど、悠長にしていられないことがわかっただけマシ。

 追放されるのは仕方ないとして、その前に酷い目に遭うのは御免被りたい。


 幸いご飯も食べられるし頭も回る。

 ゲームだってやり込めば頭脳スポーツよ。栄養補給は欠かせない。

 流石にゲームと同じとはいかないけど、やれることはやろう。


 なんとかして脱獄する手立てを考えなくちゃ。

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