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第7話 婚約と憂鬱

「ハァ……」


 帝都の街を進む馬車のなかで、俺は溜息をついた。


「ヴィオランス。何がそんなに不満なのだ?」

「まぁ……その、いろいろと」


 不安しかない。なぜなら、これから会いに行く大貴族のご令嬢は、ゲーム【熾天のレギオン】のヒロインなのだ。

 ちなみに、俺はゲームの前半で彼女との婚約を破棄し、それがまたいろいろな問題の火種になる。そしてご令嬢は主人公とくっつくわけだ。

 ならご令嬢とラブラブになって主人公に渡さなければいい。

 ……というわけにもいかない。なぜなら、【熾天のレギオン】は主人公とヒロインがそれぞれ持つ〈特別な力〉を合わせなければ、ラスボスを倒せず世界が滅ぶ。

 つまり、俺と3人の従者たちも死ぬ。

 なんとしてでも、主人公にくっついてもらう必要があるわけだ。


 そんな俺の悩みを知りもせず、父上は向かいの席から身を乗り出すと、俺の肩に手を置いた。


「安心しろ、ヴィオランス。アオイ嬢は優しくて気立てのいい、立派な方だ。14歳ですでに教会の司教位に認められた才媛でもある。それから、幼い頃に一度お見かけしたが、なんとも可憐だったぞ。きっと美しく成長しているだろう」


 俺を安心させようとにっこり微笑む父上。

 それとは対照的に、3人のメイドの雰囲気はずーんと沈んでいた。エテルとハトリはうつむいて「許嫁……美人……結婚……優しい……」とブツブツ呟いているし、シロンはしっかり顔を上げているようでいて、その目にはなんの感情も浮かんでいない。まるで死んだ魚だ。


「……ヴィオランス、この子たちは大丈夫なのか?」

「まぁ、たぶん……」


 婚約者にはいろいろ気を遣わなきゃいけないから、それが心配なんだろう。きっと。



◇  ◇  ◇



 カエルレルム家との会合は、帝都にある大教会の一室で行われる。

 といっても、この手の縁談は親同士が勝手に取り決めるもので、当人たちの顔合わせはすべてが決まった後だ。


 必然的にヒマになった俺は、とりあえず〈聖天教(せいてんきょう)〉大教会の聖堂に向かうことにした。

 〈聖天教〉は墓の前ではなく、聖堂の女神像に死者の安息を祈る。

 教会の大小に祈りの効果は関係ないとは思うけど、せっかく来たのだから母上の安息を祈りたい。そう思ったからだ。


 聖堂に着く頃には、3人の落ち込み方も多少はマシになっていた。


「おわぁ~……おっきな教会っスね」

「帝国で最も古く、最も大きな教会ですからね。礼拝だけでなく、さまざまな叙勲の儀式もここで行われています」

「へぇ、そうなのか」

「あっ、あの天井の梁。下を狙うのに丁度良い足場だねぇ」

「ハトリは発想がナチュラルに物騒だな……」

「えへへぇ、褒められちゃったぁ」

「褒められていませんよ……」


 などと話しながら大聖堂の通路を進んでいく。

 意外なことに、聖母像の前には1人しか先客がいなかった。

 女の子だ。

 深い蒼色の髪の少女が、女神の前にひざまずいて、一心不乱に何かを願っている。

 その後ろ姿には、どこか見覚えがあった。


「……アオイ?」


 思わず漏れたつぶやきに、少女が慌ててこちらを振り向く。

 やっぱりそうだ。ゲームで見た姿より少し幼いが、【熾天のレギオン】のヒロインであるアオイ・カエルレルムで間違いない。

 

「あ、あの……どなたでしょうか?」

「しっ、失礼しました。俺、いや私はモータロンド家のヴィオランスと申します」


 俺の名を聞いてアオイは両目を見開く。そして怯えと警戒心に満ちた視線で、俺の頭から足先までを何度も確認した。


「アオイ様。どうされました?」

「あっ! いえ、大変申し訳ありません。ヴィオランス様がどんな方か、あまりよく聞かされていなかったものですから。てっきり、もっと年上の方かと……」

「あぁ……たしかに、よくある話ですからね」


 14歳の少女が40過ぎの男の後妻になるなんて、貴族社会ではよくあることだ。

 それにしても俺のことをロクに話していないとは、アオイの親は今回の縁談を本当に政略の手段としか思っていないらしい。


「そうだ、ご紹介します。彼女たちは俺の従者の――」


 3人の紹介をしようとしたとき、バァンという大きな音が響いた。

 聖堂の扉を勢いよく開け放ち、数人の男がこちらに歩いてきていた。酔っているだろうか。その顔は軽く上気している。

 くいっ、と俺の服が引っ張られる。

 視線を向けると、アオイが俺の裾を掴み、助けを求めるような眼差しを向けてきていた。


 ……これは、猛烈に嫌な予感がしてきたな。

読んでいただいてありがとうございます!

ちなみにフラグが立ちそうな流れですが原作ヒロイン強奪はありません。


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