第56話 〈原作〉知識
「うふっ」
ライリア・ウェンバーの身体が前に傾い……
「もっと触れ合おう、ヴィオランス君」
耳元に吐息混じりの声。
カンで斜め前に身体を投げ出す。
「っ!?」
左腕に鋭い痛みがはしった。
ちらりと視線を落とすと前腕が裂けている。
(斬りつけられた……後ろから……っ!?)
この程度で済んだのは単純に運が良かっただけだ。
ライリアの動きを俺は目で追えなかった。
たぶん【魔法】ではなく、〈契約〉で底上げされた身体能力だ。
「だったら……〈疾速〉……!」
〈付与魔法〉発動。周囲の景色が歪んでいく。
普段使っている〈加速〉より一段上の速度強化〈付与魔法〉だ。【魔素】の消費が大きいから温存しているけれど、出し惜しみしている余裕はない。
「イイね、その判断! 君はいつもいつも私と同じ世界に居続けてくれる!」
「じゃないとあっという間に殺されるでしょうが……!」
超高速の世界でライリアと言葉を交わす。
剣筋を見切って、蹴りを放ち、魔銃で殴り、裏拳を受け止める。
「先輩は……どうして、俺と戦うために〈魔神〉なんかと〈契約〉したんだ……! もっと強い相手と戦う機会なんて、この先いくらでもあるはずなのに!」
「そうかもしれない」
「だったら!」
「でもそれは君じゃない」
上段からの切り下げ、
を釣りにした切り上げ。
とっさに受け止めた魔銃の半ばまで、剣が食い込む。
息がかかるほどの至近距離でライリアがどろりと笑った。
「あの日、この場所にいた君は……君だけは、周囲とは違うものを見ていた。遠くて高い目標に向けて挑戦する気力を持っていた。誰よりも本気だった」
「でも俺は……」
「ああ、君はそう強くない。個人の力ならアオイ君の方が上だろう。だけどね、私は思ったんだ。君なら、敵に回った私を形振りかまわず殺しに来るだろうって」
「でも君は優しい。敵といっても半端な立ち位置じゃ捕縛しようとするだろうね。だから、殺さざるを得ない相手になったんだよ」
無理矢理に魔銃を押し込んで、ライリアの胴に炎の弾丸を叩き込む。
肉が爆ぜて骨が露わになった。
けれど、それはすぐに元の綺麗な肌へと戻る。
〈回生〉は、無限に等しい再生能力をもたらす〈契約〉だ。傷を負うたびに強くなる〈狂化剣士〉との相性は最高だ。
「先輩は……もし俺を殺したらどうするつもりなんだ」
右の魔銃はもう動かない。投げ捨てて左の小型魔銃を構える。
「君との戦いが私のすべてだよ。生き残ったら〈契約〉どおり〈魔神〉を復活させるだけさ」
「それで大勢の人が死んでもいいのか」
「かまわないよ。もう私は帝国の……いや、人間の敵だ。だから頑張って、ヴィオランス君。もっと全力で私を殺しに来てくれないか」
「……ああ、そうだな。先輩……」
俺は魔銃を持った手を緩める。
「その言葉が聞きたかったよ」
小型魔銃が落下をはじめた。そして、入れ違うように落ちてきた片手剣を掴む。
「……っ、それは……!」
「友達に借りた」
剣の柄に埋め込まれた魔法具から〈加速〉の【魔法】を起動する。
ライリア・ウェンバーの動きが、動画を0.5倍で再生したように遅くなった。
俺が彼女の速度を上回った証拠だ。
〈疾速〉+〈加速〉。
同じ【魔法】の効果は重ならないけど、同じ特性の【魔法】の効果は重複する。それがゲーム【熾天のレギオン】のルールだ。
「あああああああっ!」
無我夢中で剣を振り抜く。
剣士じゃない俺では、完璧な攻撃にはならない。それでも剣はライリアの肩から胴まで真っ直ぐに切り裂いた。
は目を閉じた――
読んでいただいてありがとうございます!
場面がちょっと長くなったので分割投稿です。
次回でラスボス戦終わり!
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