第55話 悪役貴族vs学院最強(強化版)
右手の魔銃をライリア・ウェンバーに向ける。
「まずはこいつだ……!」
〈火炎弾〉を2発。灼熱の弾丸が空気を裂いて飛ぶ。
「あはははっ、そうこなくっちゃね!」
ライリアは前方に踏み込んで【魔法】をかわしつつ俺を剣の間合いに収める。
いつかの試験と同じ流れ。だけど、あの時と違うことがある。
「こっちもあるんですよ!」
腕を交差するように、左手の魔銃を先輩に向けて【魔法】を発動した。
〈電撃弾〉。剣で払われる。
「イイよイイよ、ヴィオランス君の本気が伝わってくる!」
「先輩の殺気もね!」
【魔法】を弾いた剣がピタリと止まり、俺へと迫る。
(〈加速〉で間合いをずらす。一歩下がれば……)
ぞくり、と背筋が震えた。
直感に突き動かされて、俺は後ろではなく下を選ぶ。
ジャッ!
伏せるように屈んだ頭上を、刃が通り過ぎた。空気を灼くほどの一閃を、くらっていたら間違いなく真っ二つにされていただろう。
(〈飛燕斬〉……あんな体勢から!)
離れた相手を断つスキル。どんな姿勢からも放てるというのだろうか? だとすれば、空振りすらも必殺の一撃ということだ。
「ほんと、メチャクチャだ……!」
「ふふ、照れるよ」
「褒めてませんけど!」
「素直になっていいんだよ。君だって愉しいだろう?」
ライリアは俺との戦いを心から楽しんでいる。
正真正銘の殺し合いを望みながら、少しでも長く俺と戦いたいと願っている。
(だったら……)
右の魔銃を連射しながら、左の魔銃を〈装填〉した。
そのままライリアに向け……
「シェアァッ!」
鋭い呼気を吐き、剣の切っ先が突き込まれる。
かろうじて身をひねり、頬を浅く斬られるだけで済んだ。
けど、
(これは……まずいっ!)
剣を握ったライリアの腕は伸びきっている。追撃のためには一度剣を引いて、次の攻撃に移る必要がある……というのは、常人の話だ。
(ライリア・ウェンバーなら、この姿勢から強引に攻撃をしてくる!)
ぐん、と剣を握る腕に力が込められた。
このまま刃を横に向けて薙いだら、俺の首は落ちる……!
「く……のぉっ!」
「!!」
ライリアの身体がわずかに傾く。その前髪を、俺が投げた魔銃が掠めていった。
「いい反応だね。でも君は武器を1つ失った。ああ、十全じゃないのは残念だけど、片羽をもがれた小鳥のようで可愛いよ、ヴィオランス君」
「あいにく、そんな可愛げはないので……!」
空いた左手を下ろす。腰に下げた魔法具を取り外して、2人の間に投げ落とした。
「お……?」
バァンッ!
すさまじい光と音が、視覚と聴覚を麻痺させる。衝撃で半ば停止した意識の代わりに、身体が何度も繰り返した動作を忠実に再現した。
腰の後ろから小型の魔銃を引き抜き、構えて、撃つ。
「こいつで……!」
装填された魔法は〈雷電槍〉。
直撃すれば人間ひとりを消し炭にできる一撃を、実戦用の魔銃から放った。
電撃が俺の身体にまで伝わる。
光が焼き付いていた視界が、少しずつ回復していく。
俺の目の前には……
「ぐ、ふ……」
右の脇腹が黒く炭化したライリア・ウェンバーの姿があった。
胴も腕も大きく火傷して煙をあげている。
ただ、その表情は……
「ふふ、ふふっ……ふふふ……」
まだ笑っている。
唇から血があふれていた。
顔にも火傷を負って、肉が露出していた。
それでもライリア・ウェンバーは笑っている。
「イイ……最高にイイよ、ヴィオランス君……こんなに痛くて、身体が冷たくなって、それなのに奥が熱いのは初めてなんだ」
「…………」
言葉が出なかった。
イカれているという表現すら生ぬるい、彼女の言葉が原因じゃない。
(治ってる……?)
ほぼ瀕死だった彼女の傷が、少しずつ癒えていく。
「先輩が交わした〈契約〉は……!」
「ご明察、〈回生〉さ。君と少しでも長く、命の深くて敏感なところを触れ合いたいからねぇ」
ライリア・ウェンバーには、ある素質がある。
〈狂化剣士〉。
傷を負うほど昂り、自分の潜在能力を開花させていく才能だ。
読んでいただいてありがとうございます!
ラスボス戦、次回で決着予定です。
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