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第54話 最悪のIF

「……よりによって……」


 思わず呟きが漏れる。

 もしかして、俺の代わりに誰かが魔神崇拝者側についているんじゃないか……とは思っていた。だけど、それがライリア先輩というのは流石に想像の斜め上だ。


「ふふ、いいね。みんな文字通りの真剣だ。ゾクゾクしてしまうよ」


 先輩の頬はほのかに赤みを帯びている。整った顔に笑みを浮かべつつ、全身から物理的な圧力と錯覚するほどの濃厚な気配を放っていた。

 ぞわぞわと全身の毛が逆立ち、冷や汗が滲んでくる。

 これが……本物の殺気というものだろうか。


「どうして……」


 つい問わずにはいられない。


「ライリア先輩は、魔神崇拝者だった……」

「いいや、違うよ」


 先輩は即座に否定した。


「ヴィオランス君のことを調べていたら、どうやら学校に魔族が入り込んでると突き止めたの。そして考えたんだ……」


 そう言って先輩は左手を自分の頬に添える。

 淀んだ瞳が潤を帯びる。

 うっとり、という表現がふさわしい表情だった。


「こいつらの仲間になれば、きっと君と本気で殺し()える……ってね」

「……それは、どうも……」


 ぜんぜん嬉しくない。

 まさかクラス分け試験の奮闘が、この展開のフラグになるなんて。予想外にもほどがある。


(落ち着け……いくらライリア先輩でも、教導隊と一緒にかかれば……)


 心を落ち着けるため深く息を吐いたとき、襟元の無線魔法具がザリリと鳴った。聞こえてきたのはオルスタ隊長の声だ。


『ヴィオランス、学院周辺の市街地に魔族が出た。俺たちは市民の避難誘導と魔族の掃討を始める。そっちは任せ……』


 通信の最後はノイズ混じりでほとんど聞き取れなかった。

 たぶん先輩か、その配下の魔族が【魔素】通信を妨害しているんだろう。


「……根回し、いいですね」

「それはそうだよ。私はずっと待っていたんだから。言っただろう? 次はもっとイイ戦いをしようって」


 ライリア先輩が剣を軽く振る。それは慣性に流されることなくピタリと止まる。今度は試験じゃない。俺を殺すための力だ。


「さあ、ヤろう。君の血の一滴、肉の一片、髪の一筋に至るまで……私との死闘に捧げてほしい」


 狂気的な笑みを深くした先輩は、俺に向かって


「させません」


 飛び込んだ影が、手にした斧槍を振り下ろす。

 それは確かに先輩の身体を両断した。

 ……はずだった。


「こらこら、飼い犬はご主人様がシているところを、黙って見てなきゃだめだよ?」

「!?」


 シロンの後ろに立った先輩が、その耳元に顔を寄せている。

 いつの間に移動したのか。

 離れていた俺でも視覚で捉えることができなかった。


「ふざけんなっス……!」


 そのさらに背後からエテルが斬りかかる。先輩の重心を計算して、避けるためにはシロンから大きく離れなければいけない角度から攻撃している。

 だが……


「粗野だね。それじゃあヴィオランス君も困るだろうに」


 ちらりと後ろを見た先輩が、逆手に持ち替えた剣の切っ先を後ろに突き出す。


「ぐっ……!」


 剣はエテルの腕を切り裂いた。

 ただし、それはエテルが超人的な反射速度で身をひねった結果だ。反応が遅れたら喉を貫かれていただろう。


 ダァン!


 銃声が鳴る。

 ハトリの射撃は先輩をシロンから引き剥がすことに成功したが、


「ぐっ!?」


 避けざまに投げた小さなナイフが、シロンの右肩に刺さっていた。


「エテル! シロン!」


 命に関わる怪我じゃない。

 だけど、魔族を圧倒した2人にほんの一瞬で傷を負わせた。その事実が、先輩の規格外の強さを物語っていた。


「ぁ、ぅ……」


 その呻くような声は、俺の後ろから聞こえた。


「ハトリ……!?」


 振り向くと、そこには右手で顔を押さえたハトリがうずくまっている。指の間から真っ赤な血が流れていた。


「どうした!? 大丈夫か!?」

「大丈夫、おでこを切られただけ。眼は、無事だから……」


 重傷じゃないことに安心する一方で、背筋を震えが這い上がる。

 おそらくは遠距離攻撃〈飛燕斬(ひえんざん)〉の応用だ。

 弾丸を回避する一方でシロンにナイフを当てつつ、剣を振ってハトリにごく小さな斬撃を飛ばしていた。


 ライリア・ウェンバーはゲームでも最強のユニット。

 そんな理由だけでは説明できない、桁外れの技だった。

 思い当たる理由は1つしかない。


「先輩……まさか、〈契約〉したのか……」


 魔神崇拝者が得る最高の栄誉。

 それは魔神と契約を交わし、魂の束縛と引き換えに加護を得ることだ。


「あは」


 先輩の笑みが一層深くなる。

 まるで顔に刻み込まれたかのように。


「あはははははは、あっはははははははははは!! あははははははははははははははははあははははははあはっははあははははははははははあははははははははあはっははあはははははははははは」


 哄笑は壊れた楽器のように続き。

 ピタリと止んだ。


「そうしたら私を殺すしかなくなるよね?」


 笑みの形に歪んだ顔。

 ふたつの瞳は、光すら逃がさない暗黒を宿していた。

 ああ、この人は……


「ついでに言うなら、私を殺せなければ、この場にいる全員を殺すよ。それでどう? ヤる気になってくれた?」


 ……もう、本当に手遅れなんだ。

 胸の奥に、ひどく冷たいものがすとんと落ちる。


「……わかりました」


 両手の魔銃を構える。


【魔素】の残量、

 腰に下げた魔法具の数、

 相手との距離、

 周囲の味方の位置、

 そのすべてを感じとれ。


(一手間違えれば、誰かが死ぬ……)


 目の前にいるのは最強で最悪の障害(ボス)だ。

 それでも勝たなきゃいけない。

 全員が生き残る未来のために……!

読んでいただいてありがとうございます!

最終戦、最後までお付き合いください!


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