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第51話 死亡確定イベント

「……キルヤナイン先生……?」


 〈アダマス〉の生徒がポツリと呟く。観客席のざわめきが一層大きくなっていた。


「マジか……」


 ロックが後ずさる。偽物だろうとわかっていても、見知った人間が目の前に現れたら動揺するのが当たり前だ。


「先生……マジ……?」

「そんな……」


 本陣から追いついてきたカーラもミジィルも、その表情はこわばっていた。

 ざわざわざわ、と観客席の声が大きくなっていく。先生の姿をしたものは、戸惑いと混乱に包まれていく様を、かすかな笑みを浮かべて見回している。

 その視線が俺でピタリと止まる。


「ヴィオランス・モータロンド、アルカ・シエルアーク。キミたちはあまり驚いてないね?」

「そう来ると思ってたからな。ここまで堂々と出てくるとは思わなかったけどさ」

「君たちは、この昇級テストの段階で仕掛けてくる。集まってきた人間を殺して、〈魔神〉を復活させるためにね」


 俺たちはこの展開を知っている。

 欲を言えば実行前の段階で潰せるのがベストではあった。だけど、俺たちが変則的に動いたことで別の場所が狙われたり、時期がズレたりしたら余計にタチが悪い。


 だから、この場で迎え撃つ。アルカと一緒に決めたことだ。


「ふ……ふふふ……ふははは……」


 俺たちの言葉を聞いて、先生の姿をしたもの……魔族が唇の端を吊り上げる。


「ははは、ははははっ! ぐ、ぐあはははは、ぐぐ、ぐはははは……」


 その声は次第に低くくぐもり(・・・・)、めきめきと音を立てて身体の輪郭が変化していく。服もまた歪んで皮膚と一体化して、なめらかで光沢のある質感へと変わっていく。まるで虫の甲殻みたいだ。


「あれって魔族か……?」

「アレ含めて出し物ってことなんだろ?」

「〈カッパー〉が勝つなんておかしいと思ってたんだよ」

「いやいや誰か軍を呼べよ、早く!」


 現在の帝国に魔族が現れることは滅多にない。

 それでも目の前で異様な事態が進行していることは理解できるんだろう。観客の混乱が少しずつ加速していく。〈アダマス〉の生徒ですら「ひっ」という小さな悲鳴をあげていた。


「分かった上デ、それでも昇級の望ミを捨て去れナいとは……本当に救いガ無い愚か者共ダ」

「昇級する。お前らの悪巧みも潰す。両方やりゃいいだけの話だろ」

「フフフ、そレは蛮勇と言うんダ。授業で教えれバよかったかナ?」


 魔族が片手を空に掲げる。

 どこからともなく集まってきた雲が、それまで晴れていた空を覆い尽くした。すぐさまゴロゴロと不気味な響きが地上にまで響いてくる。


「お前たチは、ここで死ヌ。供物となレ……!」


 ズガァァァンッ!


 すさまじい音で肌が震え、視界を埋め尽くす光で目が眩んだ。


「っ……」


 何度も瞬きして、光で焼き付いた視界を回復させようとする。

 状況を把握しなきゃいけない。

 次の行動に移るために。


「グウゥルルルゥ……」

「……出たな……」


 怪物がいた。

 全身むき出しの筋肉にキノコが生えたような、グロテスクな見た目の四足獣。鋭く巨大な牙の間からは薄紫の粘液がこぼれ落ちている。

 低級魔族の一種で、たしか腐獣(ふじゅう)という種類だ。


「ご主人ちゃん、周りにいっぱいいるよぉ!?」

「ああ、わかってるさ」


 長銃を手にしたハトリが合流した。

 その言葉通り、腐獣は俺たちの周りに何体も出現している。観客席のいたるところにも、その姿がある。


「お、おい……なんだ、これ……」


 ようやく観客たちも緊急事態だということが理解できたらしい。腐獣から距離をとって、とこどろころ観客席に空白地帯ができはじめていた。


(動き出せば恐慌状態になる。すぐにそうしないのは余裕の表れってところか……)


 両手の魔銃を握る。

 俺たちでは観客席の腐獣まで対処することはできない。

 それを見越しているのだろう。

 魔族はゲラゲラゲラ、と不愉快な笑い声をあげた。


「これヨり始まルは狂乱と混迷。さア、儀式を始メ……」

「ああ。始めようぜ」


 魔族の言葉が途中で途切れる。

 視界の端で、観客席の腐獣がどうっと音を立てて倒れた。


「な、ニ……?」

「悪いな。喋るのが遅えから、勝手にやらしてもらったぜ」


 演習所の端、観客席を隔てる壁に1人の男が立っている。

 だらしなく首元を緩めたシャツ。高級ではあるけれど、どこかくたびれたジャケットとパンツ。帝国陸軍教導部隊のオルスタ隊長は、私服もどこかユルい。


「どうイうことダ……なぜ帝国軍がここにイる……!?」

「そりゃ最初から作戦通りだってことだ。そこにいるボウズどものな」


 観客席では武器を取り出した教導部隊の隊員たちが、腐獣に対処しながら観客を出口に誘導している。そして、


「失礼いたします」


 シロンの斧槍が腐獣の前脚を叩き斬る。

 エテルのナイフが首筋を切り裂き、ハトリの銃弾が眼から後頭部へと突き抜けた。


 〈アダマス〉の生徒たちも武器を手に戦い始めている。

 狂乱?

 混迷?

 魔族が口にした様相とはまったく逆の、秩序だった攻撃が始まっていた。


「……最初かラ、罠だったといウのカ」

「ああ、そうだ。ここでお前らの計画は潰す。そのための狩り場だ」


 〈原作〉の先に行くために。

 最後の戦いが幕を開けた。

読んでいただいてありがとうございます!

vs魔族戦、ファイッ!


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