第49話 裏と裏の裏
(いくら強化されたっつっても、俺たちの能力にはまだ届かない……)
魔法で牽制しつつ思考を巡らせる。
〈神聖加護〉は強力な【魔法】だけど、それで〈アダマス〉クラスの連中がみんなアオイくらい強くなるわけじゃない。さっきのような個別撃破は可能だ。
ただし、かかる時間が数倍……いや、十数倍に伸びた。
(しかも、こいつら急に連携を始めやがった。なんで今なんだ? 最初からアオイを中心に陣を組めば隙もないのに……)
もう乱戦にはなっている。あとは俺たちが抜け出すことが、この戦場における大目標だ。
けれど、強化された相手に強引な突破を仕掛ければ、いくら俺たちでも手痛い追撃を喰らって行動不能になるだろう。
「……ああ、そうか。お前の狙いも乱戦だな?」
「ええ、その通りです」
負傷した生徒を回復しつつ、アオイが答える。
「最初から完璧な陣を敷いていたら、すぐに作戦を切り替えたでしょう? 散会されたら追い詰めるのも難しくなりますからね」
「そうしたら各個撃破に動くだけだろ、どうせ!」
前衛の攻撃を魔銃で受け止める。
襟元の通信機がザリザリと鳴った。
『ヴィ! 〈アダマス〉の連中が本陣に来た!』
「数は!?」
『5……いや、6人!』
「死ぬ気で持ちこたえてくれ!」
『あーもう、無茶言いすぎだし! わかった!』
アオイの目的は突破戦力である俺たちを釘付けにして、別働隊で本陣を落とすこと。
「にしても、攻撃隊に6人とは随分と思い切ったな!」
組み伏せた〈アダマス〉生徒に至近距離で【魔法】を叩き込む。強化された耐久力を上回ったのか、生徒は動かなくなった。もちろん死んじゃいない。
アルカとシロンも数人倒しているけれど、まだ乱戦突破の糸口は見えない。
「貴方たちを相手にするなら相応のリスクを覚悟しなければいけません。それに、勝つなら圧倒的かつ完膚なきまでの勝利を掴みたいですからね!」
陣形の中心でアオイは堂々と立っている。
いつだってそうだ。
たとえ誰の思惑があろうと、こいつは臆することも、隠れることも、逃げることもしない。
正々堂々、相手の前に姿を晒して勝つ。
「……俺たちも知ってるよ、それくらい」
そんなアオイが、不意に両手を前に掲げる。
次の瞬間、
ギリリリリリィィィィッン!
異様な金属音が響き、アオイの目の前で白金色の結界が激しく明滅した。
やや遅れてズドンという発射音が届く。
「狙撃……ハトリですね!」
弾丸は結界を貫通せず、やがて力を失って地面に落ちる。
圧倒的な防御力を誇る〈神聖魔法〉の結界を、ハトリの長銃弾は貫通できない。
だけど、間髪入れず
「くっ……!」
2発目が着弾し、また激しく結界と競り合う。
3発目。
そして4発目。
どれもアオイには届かない。
『ご主人ちゃん、見つかっちゃった! カーラちゃんたちの援護に回るね!』
「ああ、頼む」
狙撃でアオイを倒せないのは想定内だ。
ただほんのわずかな時間だけ意識を一方向に集中させればいい。
攻撃を凌いだと判断させれば十分だ。
「……! そういう……」
「どもっス」
いつの間にか、分かっていた俺にすら知覚できないうちに、小柄な影がアオイのすぐ背後に立っていた。
乱戦のなかでエテル・サルバドルの接近を阻めるヤツは、この学院に存在しない。
ナイフが閃く。
結界を解除したばかりのアオイに、それを防ぐ【魔法】はない。
……ない、
……はずだった。
「がっ……!?」
エテルの身体が宙を舞う。
予想だにしない光景に、アオイもシロンも、〈アダマス〉の生徒たちも動きを止めていた。
「ほんとにバケモンだな……!」
アオイは優雅に立っている。
どうしてコイツが無事で、攻撃を仕掛けたエテルが吹っ飛んでいるのか? 【魔法】を切り替える時間はなかったはずじゃないのか?
その答えは至って単純。
「ふぅ……やはり日頃から身体を鍛えておくべきですね」
アオイは徒手でも圧倒的に強かった。おそらくエテルの動きを見切ったわけじゃない。ハトリによる狙撃の意図に気付いた段階で、エテルが来るであろう場所に裏拳を叩き込んでいたのだ。
「……はぁ、自信喪失っス」
空中で姿勢を整えたエテルが、音もなく着地する。
千載一遇のチャンスは、もうやってこない。
「……手札はすべて切った」
「あら、そうですか。もう少し期待していたのですけれど。私は皆さんの力をすべて知っていたわけですから、有利すぎたかもしれませんね」
「はは、そうだな。たしかにちょっとズルかもな」
俺はあらためて魔銃を構える。
「〈装填〉」
【魔法】を装填し、自分に〈付与魔法〉をかける。
「最後まで戦うのですね。それでこそ……」
「勘違いしてもらっちゃ困る。手札はすべて切ったと言ったけど、勝負が終わったとは言ってないぜ」
アルカが、シロンが、エテルがそれぞれの武器を構えた。
この4人が全力を出せば、この乱戦から誰も逃がさないことができる。
「時間をかければ、不利なのは貴方たち……」
アオイの顔がさっと青ざめた。
「ああ。そう思うだろうと、思ってたぜ」
大きな爆発音。
それは俺たちの側ではなく、〈アダマス〉クラスの本陣から響いてきた。
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次で〈アダマス〉戦は終了です。
その後ももう1ラウンド続きます。
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