第48話 悪役貴族vs最強ヒロイン
長い髪を風になびかせ、アオイ・カエルレルムは道の真ん中に堂々と立っている。左右に〈アダマス〉の生徒が並び立ち、次の【魔法】の準備に入っていた。
「……読まれてたか」
「ふふ、賭けでしたけれど。貴方たちが迂回して忍び寄る作戦をとっていたら、今頃すれ違いになって本陣を奇襲されているところでした」
「なら、どうしてこっちを選んだんだ?」
「迂回は遭遇の可能性が下がりますけれども、時間をかければ先に私たちが〈カッパー〉の本陣に着く可能性があります」
「攻めない可能性は?」
「人数が劣る側でも防衛なら持ちこたえられるかもしれません。でも、それでは昇級に相応しい評価は得られない。つまり〈カッパー〉に専守防衛という選択肢はありません」
「さすが、よく俺たちをご存じで……っ!」
言い終わる前に魔銃の銃口を跳ね上げ、アオイに向けて雷の弾丸を放つ。
だが、それは彼女に届くことなく弾け散った。
「ええ。私が見込んだ方たちですから」
アオイは微動だにしない。その目の前にうっすらと光を放つ幾何学模様が浮かんでいる。アオイの固有能力【神聖魔法】……ゲームでも随一の防御力を誇る、最強の盾だ。
「さすがアオイ、反応が早いな!」
ならば、と道幅いっぱいに展開する〈アダマス〉の生徒たちへ魔銃を向ける。
〈装填〉した【魔法】が空になるまで雷と氷を発射。数人が攻撃から防御への切り替えに遅れて被弾する。
浅い。この程度じゃ戦闘能力を奪えないだろう。
だが、俺の目的は十分に果たされた。
「はあぁぁぁぁっ!」
相手が一斉に意識を防御へと向けた瞬間、アルカが俺と反対方向に走っている。目指すは横陣の端、アオイから最も遠い位置だ。
標的になった生徒はすぐさま長剣を構えて白兵戦に移る。
さすが〈アダマス〉クラスだけあって、反応が早い。
「遅いよ!」
「ぐぁっ……!?」
アルカは双剣で相手の武器を跳ね上げると、空いた胴に渾身の蹴りを叩き込んだ。
反応できただけじゃ、アルカの攻撃は防げない。
吹き飛んだ生徒が地面に落ちる前に、アルカは次の標的へと移っている。
「させません!」
アオイが生徒たちの援護に移る。彼女の反応速度と〈結界魔法〉ならアルカの攻撃を完全に防ぐことができるだろう。
「失礼いたします」
「!?」
アオイが片手を突き出す。その掌の前に展開した白金色の魔法陣が、風を巻いて迫った斧を受け止めた。
「これに耐えますか……さすがです、アオイ様」
「シロンこそ、いい踏み込みです。私の足を止めるとは……!」
シロンは横薙ぎに振った斧槍を、渾身の力で押し込もうとしている。対するアオイは結界魔法ごと吹き飛ばされないよう、全力で踏みとどまる。
(【魔法】で身体能力を強化したシロンと互角に競り合うとか、いったいどんな鍛え方をしてるんだよ!?)
二人の状況を確認しながら、俺は魔銃に次の【魔法】を〈装填〉。すぐにアルカと反対側の生徒たちに乱射して、シロンの側面を突かれないようにする。
人数は不利。だけどアオイの動きを制限すれば、他の生徒を倒すことで陣形を崩すことができる。
アオイが俺たちに対策を立てているように、俺たちもまた彼女と遭遇した時のプランは考えている。
「アルカ! 引っかき回せ!」
「わかってる!」
乱戦状態に持ち込んだ上で、1人か2人が抜け出せればいい。
本陣を落とすのは1人でも足りるんだから。
……ということは、アオイも想定しているだろう。
「……ふふ、いいですね。あくまでも勝利を狙う姿勢。そうでなくては、私の同志には相応しくありません」
アオイは笑っている。
そう、彼女は俺たち個人の戦闘力が〈アダマス〉を上回っていると知っている。だったら何の対策もなく、ただ人数だけ引き連れて妨害に来るなんてことはあり得ない。
「力比べ、楽しかったですよ」
「っ!?」
斧を遮っていた障壁がフッと消える。跳んで後ずさったアオイの目の前を斧が通りすぎた。一瞬遅れたら頭を両断されていたところだ。恐ろしい身体能力と【魔法】制御の腕だった。
「ちっ! アルカ、シロン! アオイを狙え!」
どんな対抗手段かは分からないが、【魔法】を使うことは確かだ。
だったら防御に専念させて阻止するしかない。
アオイの足留めを2人に任せて、俺が突破するという手も……
「舐めるなよ、〈カッパー〉クラス!」
「なにっ!?」
これまでアオイの援護に入っていなかった〈アダマス〉の生徒たちが、シロンとアルカの前に立つ。もちろん俺の前にも数人が位置どって射線をふさいでいた。
十秒……いやもっと早く突破できるだろう。
だけど、この状況でそれは致命的な時間経過だ。
刃を打ち合わせる。
力尽くで突破しようと大きく踏み込む。
射線を確保するために数歩動く。
その時間でアオイは次の一手を打つことができる。
「〈範囲拡大〉、〈神聖加護〉」
その言葉が唱えられた瞬間、目の前の生徒たちが白金色の光を帯びた。そしてアルカの剣が、シロンの斧が、そして俺が放った炎の弾丸が弾かれる。
「はは……マジかよ……」
〈神聖加護〉……それは対象の攻撃・防御・速度すべてを底上げする、【神聖魔法】でも最上位級の〈付与魔法〉だ。
しかも、その対象を拡大して、この場にいるすべての味方に付与した。これがゲームなら不正を疑うレベルの技術だった。
「さぁ、次は何を見せてくれるのですか?」
最強のヒロイン、アオイ・カエルレルムは楽しそうに笑っている
読んでいただいてありがとうございます!
〈アダマス〉との攻防、もう少し続きます。
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