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第45話 期待されない俺たちは

 新校舎の廊下に靴音が響く。

 窓から差し込む日差しが白い壁に反射して、朝の爽やかさを際立たせていた。

 生徒たちは廊下で立ち話をしたり、教室で入念に道具の確認をしたり、どこか落ち着かない様子だ。でも、彼らは俺たちを見ると、例外なく驚いた表情を浮かべている。視線が集まっていることが、肌でありありと感じ取れた。


「なんか懐かしいっスね。この感じ」

「たった30日(・・)ほどしか離れていないでしょう?」

「いやいや、そーじゃなくて。なんか入学式の時もジロジロ見られてたなーって」

「そういえばそうだねぇ。ご主人ちゃん、なんだか具合悪そうだったっけ」


 後ろの暢気(・・)な会話を聞きつつ、俺は足を止める。

 目の前には立派な装飾が施された大講義室の扉があった。

 ドアノブに手をかけて、ふぅ、と息を吐く。


「……いくか」


 ドアノブをひねり、力を入れて重い扉を押し開けた。

 とたんに、百を超える視線が俺に集まる。

 驚き、興味、警戒、嘲り、敵意。

 それらが籠もった眼差しは、まるで物理的な圧力を発しているように感じられた。

 だけど、


「ヴィオランス!」


 俺が来たことを喜んでくれるヤツらがいるなら、そんな視線はもう苦にならない。

 片手を軽く上げてクラスメイトたちに近づく。


「よ、久しぶり。だいたい一ヶ月くら――」

「なァにが『久しぶり』だ、こンの野郎!」

「いっづ!?」


 ロックの拳が肩に当たって、骨まで響く痛みがはしる。

 見ると、カーラもミジィルもアルカも、喜んでいるような怒っているような、あるいは困っているような、なんとも分類しにくい表情を浮かべていた。


「あれ……歓迎ムードって感じじゃなさそう、だな?」

「いやヴィたちが戻ってきたのは嬉しいけどさ、いきなり集まれとか言われてビックリするし」

「ヴィオランスくん。ここ(・・)に集まるっていうのは……その、分かって指定しているんですよね?」


 ミジィルが不安げな表情で周りを見渡す。

 大講義室に集まっている生徒たちは、相も変わらず俺たちに奇異の視線を向けていた。

 まぁ、それは仕方ない。

 なぜなら、ここは今日(・・)行われる昇級テストの控え室だからだ。

 ……なんて周囲を見渡していると、〈シルバー〉の校章をつけた生徒が1人、こっちにやってきた。


「おい、〈カッパー〉がなんでこの部屋にいる。見学なら野外演習場の席取りでもしに行けよ」

「なんでって、昇級テストに参加するために決まってるだろ」


 俺が言い返すと、〈シルバー〉の生徒は哀れむような笑みを浮かべた。


「忘れたのか? キルヤナイン先生が亡くなって、お前らに担任はつかなかった。手続きもできないし、そもそも教師の許可がなきゃ昇級テストには参加できない。お前らは自動的に退学手段だよ。クズどもが」

「丁寧に説明してくれて、どーもどーも」


 この生徒が言うことは正しい。

 俺が約一ヶ月にわたってモータロンド領に帰っている間、アルカたちは〈カッパー〉クラスが昇級テストに参加する手段を見つけられなかった。

 それはアオイと連絡をとって把握していたことだ。

 でも、


「それでも、今日俺たちは昇級テストに参加する。正式に、堂々とな」

「は……?」


 俺の言葉に、他のクラスの生徒だけじゃなく、アルカやロックたちもぽかんと口を開けている。

 いつの間にか大講義室は静かになっていて、間近の仲間と交わすひそひそとした小声だけが細波のように耳をくすぐっていた。


 そんななか、


「彼の言うことは本当だ」


 と、凜とした声が響く。

 見れば、学院長が講義準備室から出てきたところだった。


「学院長、どういうことですか? 僕たちが聞いていた話とは違います」


 食ってかかる〈シルバー〉の生徒を、学院長はじろりと一瞥(いちべつ)する。それだけで彼は押し黙ってしまった。平静を装っているけど、学院長もイレギュラーな事態に少し苛立(いらだ)っているのかもしれない。


「昨夜、モータロンド辺境伯および複数の貴族から、〈カッパー〉クラス生徒の昇級テスト参加を推薦する書状が届いた。学院はこれをもって教員許可の基準を満たしたと判断し、彼らの昇級テスト参加を認める」


 シン、と大講義室が静まりかえる。

 そして、


「ふざけるな! 親のコネじゃないか!」

「そんなこと許されるんですか!?」

「いくら積んだんだ、賄賂野郎!」


 と怒りの声でいっぱいになった。

 それに負けじと学院長も声を張り上げる。


「静かにしろ! これは皇室の認可をとった正式な書面による推薦だ。南東で起きた国境侵犯事件においてヴィオランス・モータロンドは多大な功績を挙げ、帝国の領土防衛に貢献した。彼はこれを個人の能力ではなく学院で学んだことの成果であると主張し、同じ水準の実力を持つ同級生の審査を進言したのだ」

「なっ……」

「ヴィオランスくん……?」

「いいから学院長の話を聞いてくれ」

「昇級を約束するのではなく、あくまで審査の機会を与える。これならば学院としても異存はない。無論、学外からの推薦は成績に加味しない。これから行うテストの内容のみで合否を判断する。いいな?」


 学院長にここまで言われたら、生徒としては黙るしかない。飛び交っていた怒号はいったん治まり、部屋には静けさが戻ってきた。

 それを確認して、学院長は俺たちに視線を向ける。


「〈カッパー〉、お前たちの実技試験の相手は〈アダマス〉だ」


 学院長の言葉に、今度はクラスメイトたちがぽかんと口を開ける番だった。


「……へ?」

「力を持つというのなら、見せてもらおう」

「い、いや……ええと……?」


 動揺する皆を眺めつつ、俺は安堵(・・)の息を漏らす。

 大丈夫、計画は順調だ。


読んでいただいてありがとうございます!

ここから最終試験&死亡イベント回避戦はじまり。

ラストまで駆け抜けていきます!


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