表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/68

第43話 解散

 校舎から正門に続く煉瓦(れんが)造りの道。暗闇を魔法灯が点々と照らしている。


「……なぁ」

「ん?」

「……いや、ごめん。まとまらねぇ」

「……うん」


 頭のなかで固まったように思われた考えは、口を開くと輪郭を失って消えてしまう。俺の〈原作知識〉にも、アルカのループ経験にもない事態だ。小さな戸惑いと焦りが、頭の中で渦を巻いて思考を乱していた。


「あ……」


 アルカが声をあげる。いつの間にか下に向いていた視線を上げると、いくつかの人影が正門の明かりで浮かび上がっていた。


「よォ」

「お前ら……」


 ロック、カーラ、ミジィル、そしてエテルとハトリが俺たちを待っていた。先に帰れと言ったのに。


「アオんとこ行ったんでしょ? どーだった?」

「……動いてくれるってさ」

「でも確実じゃない、と?」

「ああ。そんな感じだ」


 みんなの表情に落胆の色が浮かぶ。ぜんぶ上手くいくことはないとしても、もう少し希望のある報告を聞きたかったんだろう。


「……悪い」

「なんでヴィオランスが謝ってンだ」

「そーそー。ヴィを責めるつもりはないよ。ゴメン」

「とりあえず明日は自習?」

「それはいつものことっしょ」

「うーん、登校できるのかな。自宅待機かもしれない……」

「んじゃ誰かん()で勉強会する?」

「いいねェ。俺ン家は狭いからダメな」

「ウチも。やっぱヴィん家じゃない? 広そうだし。シロたちが毎日掃除してるから綺麗そうだし」

「言っとくけど掃除なら俺も毎日手伝ってるからな?」


 みんなにつられて、つい軽口が滑り出る。頭のなかで渦巻いていた重苦しい悩みが、ほんの少し薄れたような気がした。


「エテル、ハトリ、明日みんな家に遊びに来てもいいか?」

「もちろんっス。歓迎っスよ!」

「あ、でも一応シロンちゃんの許可をとった方がいいかも~」

「それもそうだな……って、シロンはどうした? 先に帰ったか?」

「うん。先に買い物しておくって」

「……ま、俺から頼めば大丈夫だろ。明日は……」


 と言いかけたとき。視界の端に、学院に続く大通りを全力疾走してくるメイドの姿が映った。


「あれ、シロンだ」

「ほんとだぁ。忘れ物かなぁ?」

「にしちゃ様子が変っスね」


 そんなことを話しているうちに、シロンが俺たちのもとに到着する。彼女にしては珍しく、ペースを考えずに全力で走ってきたのだろう。荒い呼吸を整えながら、俺に何かを差し出した。


「手紙……父上から?」

「は……はい……使者から、簡単に……用件を、うかがいました」


 シロンの表情が険しいのは、激しい運動のせいばかりではなかった。


「至急、辺境伯領に戻れという……旦那様からのご命令です」



 *  *  *



『隣国との境で軍事行動の兆候がある。

 辺境伯領に戻り、辺境伯領軍に加われ』


 送られてきた手紙には、おおよそこんなことが書いてあった。

 〈モータロンド領襲撃〉。

 本来ならゲーム後半で発生するサブイベントだ。


「よりによって、こんな時に……」


 つい手紙を握り潰しそうになって、寸前で思いとどまる。あらゆることが悪い方向に転がり始めているように感じた。


(……いや、本当に偶然なんだろうか。先生の死が明らかになってクラスが身動きとれなくなった日に、隣りの国の軍が動くなんてこと、あるのか……?)


 中庭のベンチの背もたれに体重を預けて空をあおぐ。明るい帝都では、一番明るい星すら簡単には見つけられなかった。


「……マジで帰って来いって言われてンのか?」

「ああ。マジのマジだ」


 俺はベンチの隣に立っているロックに手紙を渡した。それを横からカーラとミジィルがのぞき込む。アルカも少し離れたところに立っていて、結局〈カッパー〉クラスの生徒全員が学院の中庭に残っていた。


「ヴィの実家、そんなにヤバいの?」

「いや、それならもっと大騒ぎになってるはずだ。たぶん長男も軍議に参加させて、あわよくば戦果をあげさせて経歴に(はく)をつけてやろうって親心だろうさ」

「ふぅーん」

「ま、俺たちが帰っても帰らなくても、戦力的に大した差はないからさ。俺はこっちに……」

「いや、帰った方がよくない?」


 俺の言葉を遮ってカーラが言った。


「……は?」

「だってさ、もし実家に帰ってワンチャンすごいことしたら、ヴィの将来なんとかなるってことでしょ? そしたらシロもエテもハトも安心できるじゃん」

「まァ、確かにな。実戦たたき上げの士官もいるって話だし。それこそ教導隊に入ンなら、学位よりも実戦経験の方が大事そうだよなァ」

「いやそうかもしれないけど。辺境伯領に戻ったら、いつ帰ってこられるかわからないんだぞ? 昇級テストまでそんなに時間ないし。つーか、みんな揃って昇級テスト受ける方法を考えなきゃいけねーだろ!?」


 なんで俺を帰らせたがるんだ。

 もう諦めたのか。

 それとも、俺がいると何か不都合があるのか。

 いろんな疑問が頭を巡るなか、とにかく浮かんだ言葉を投げかける。

 だけどクラスメイトたちは気にする様子もないどころか、顔を見合わせると正門に向かって歩き始めていた。


「おいお前ら、まだ話終わってないだろ!」

「いいンだよ。俺らは俺らで何とかするって。お前らは実家に帰れよ」

「そうそう。何でもヴィに頼りっきりじゃかっこ悪いし」

「何とかするって……」


 それ以上の言葉が浮かばず立ち尽くす俺に、アルカが振り向いて笑いかける。


「ヴィオランス。気持ちは嬉しいけどさ、友達には大事なものを優先してもらいたいんだ。たとえば、家族とかさ」

「…………」


 アルカの視線は俺ではなくて、後ろに控える3人に向いている。まだ1年も経っていない付き合いなのに、コイツは俺の大切なものが何なのかよく分かっていた。


「それじゃ、またね。ヴィオランス」


 去って行くクラスメイトたちの姿が正門の明かりに照らされて、影のなかに消えていく。俺はその様子を見ていることしかできなかった。

読んでいただいてありがとうございます!

このまま〈カッパー〉クラスと別れてしまうのか?

ヴィオランスの決断は次の話で……!


「面白かった!」

「続きが気になる!」


と少しでも思ったら★★★★★を押していただけると励みになります!

ブックマークもぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ