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第42話 奇妙な死

 突然の訃報(ふほう)を聞いた俺たちは、とてもじゃないが打ち上げ会を続ける気になれなかった。重たい空気のまま皆と別れたあと、俺とアルカはある部屋へと来ていた。


 その扉の上には、魔法灯の光をキラキラと反射する、金剛石(アダマス)のエンブレムが掛かっている。扉を開くと、まだ使い始めて間もない備品特有の、ちょっと薬っぽい香りが漂ってきた。


「……ん、お前らは〈カッパー〉の……?」


 教室に残っていた生徒の視線が、一斉に俺たちに注がれる。訝しむヤツ、あらからさまに顔をしかめるヤツ、チラリと見て興味を失うヤツ。とてもじゃないが、同じ学年の生徒に向ける目つきじゃない。


(さすが〈アダマス)クラスだな)


 あからさまに罵ってはこないが、「生物としての格が違う」とでも言いたげな雰囲気を発している。

 まぁ、こいつらの相手をするのが目的じゃない。目当ては……


「ヴィオランス、アルカ!」


 アオイが小走りでやってくる。そのまま俺たちに廊下に出るよう促して、後ろ手に扉を閉めた。


「キルヤナイン先生の件、ですね?」

「やっぱアオイも知ってたか」

「ええ、先ほど報せが入りました。2人はどこまで聞いていますか?」

「亡くなったということだけ。詳しいことはなにも」

「……そうですか。教室の前だと話しにくいことなので、ちょっと歩きましょう」


 3人並んで新校舎の廊下を歩く。

 遠くの、おそらく野外演習場から、〈青天祭〉の成功を祝う花火の音が聞こえてきた。


「……キルヤナイン先生の死体なんですが、見つかったのは屋内演習場の女子更衣室です。しかも床下から……」

「床下……?」


 さらにアオイは言葉を続ける。


「遺体を調べた結果、死後数ヶ月経っているということも判明したとか」

「ち、ちょっと待て! 俺は〈青天祭〉の手続きで先生と会ってるぞ。何日か前のことだ」

「だよね!? ヴィオランスが会ったのは幽霊……?」

「……あるいは偽物……ってことか……」


 アオイが「ええ」とうなずく。


「この数ヶ月間、キルヤナイン先生はごく普通に暮らしています。他の先生方や生徒ともお話をしていますし、アンデッドの類いとは思えません。とすれば、何者かが本物の先生を殺して死体を隠し、入れ替わっていた……という想像ができますね」

「……どうして、そんなことを」

「さぁな……でも、死体が見つかったってことは、目的を達したか、それに近づいてるかってことだろ、たぶん」

「どういうこと?」

「考えもみろよ。女子更衣室の床下に遺体を放置したら、普通は匂いやら虫やらで見つかるだろ? でも今まで気付かれなかった。てことは【魔法】で隠蔽(いんぺい)してたんだ」

「あ、そっか。〈もう見つかってもよくなった〉か、〈いま見つかることに意味がある〉ってことなんだ」

「私も同じ考えです」


 そう言ってアオイがポケットから小瓶を取り出す。そこに入っている赤黒い破片を見て、アルカが首をかしげた。


「それは……?」

「魔神崇拝者が自害に使った薬だ。消化しかかった欠片だけどな」

「ああ、ヴィオランスが戦ったっていう……」


 宗教団体の地下で会った、ケイと名乗る男。あいつが吐き出した薬を、アオイに頼んで軍に解析してもらっていたわけだ。


「それが先生と何か関係があるのか?」

「ええ。この薬に使われた薬草は、一般の市場では流通していないものでした。密偵を使って探らせたところ、密輸で手に入れた人を何人か特定できたんです」

「……そのなかの1人が先生だったってことか」

「ええ。事情を聞くため身柄を押さえようとしたところ学院内にも自宅にも姿がなく、ちょうど重なるように更衣室で異臭騒ぎがあったので、念のため調べてみたところ……ということです」

「…………」


 数ヶ月もの間、周囲をだまし続けてきたヤツだ。もしかしたら自分に調査が及ぶことも織り込み済みで計画を進めていたのかもしれない。


「慌てて逃げ出した、なんて考えは楽観的すぎるよな」

「だね……アオイの動きに対応したのなら、学院には他にもスパイがいるのかも」

「その可能性も考慮して調査を進めています」

「ああ、なにか分かったら教えてくれ。それから〈カッパー〉クラスのことなんだが……」


 渡り廊下でアオイが立ち止まる。

 ふと見上げた視線の先で、鮮やかな光の花が咲いた。

 わずかに遅れて轟音が肌を震わせる。まだ少し冷たい風が、火薬の香りを連れて通り過ぎた。


「……善処はします。カエルレルム家の発言力と有力な知人を使って教師陣に働きかけてみますが、昇級テストへの参加は約束はできません」

「そんなに厳しいのか」

「ええ。もとから教師陣は〈カッパー〉の生徒が昇級できるなんて考えていません。しかも下手に肩を持てば悪目立ちするので、よほどのメリットがなければ関わりたくないんです」

「くそっ……実力ならあるってのに……」


 それを証明する場が無くては、どうしようもない。

 いつの間にか花火も終わり、辺りは暗闇と沈黙に包まれていた。


読んでいただいてありがとうございます!

雲行きが怪しくなってきた……?

最底辺クラス、どうなっちゃうのか?

ヴィオランスは挽回できるのか?


「面白かった!」

「続きが気になる!」


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