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第37話 暗黒魔法

「おい、ヴィオくん……なんの冗談だ?」


 ケイは顔を引きつらせつつ、じりじりと後ろに下がる。


「冗談なんかじゃないですよ。アンタ、いったいどこ(・・)の誰だ?」

「俺は、こういう目に遭っている子たちを保護する団体に所属している。嘘じゃない」

「……ぁ……ぅ……?」


 突然はじまった仲間割れに巻き込まれ、痩せた子どもは戸惑ったように俺たちの顔を見比べている。

 ケイはその肩に手を置いて、俺とシロンに言葉を投げかける。


「それに、君たちの方こそ怪しいじゃないか。いったい、なんの理由があってここに来たんだ?」

「俺たちは偶然だよ。この団体のことを調べていたわけじゃない。探してたのは身元のわからない子どもじゃなくて、アンタだ」

「……俺だって?」

「ええ、そうです。ケイさん、貴方は……もしかして、私の……」


 シロンの言葉が途切れた。

 その先を口にして問う勇気がでない。答えを得たとして、それでどうすればいいか、自分でも答えが出ていないのだろう。

 だが……


「……なんだ、そういうことか」


 目の前の男の雰囲気が変わる。

 それまで浮かべていた笑みがすっと消えて、代わりにひどく不快そうな表情が浮かぶ。出来損ないのガラクタを眺めているような目つきが、本当は俺たちをどう思っていたのかを十分に語っていた。


「こんなところで会うなんて奇妙な偶然もあったものだと思ってたが、俺を追ってきたのか。まったく、よく覚えているもんだね。感心するよ」

「やはり……貴方は私の父……なのですか?」

「……は」


 シロンの問いかけに男が言葉を失う。

 しばらく彼女の顔をまじまじと見るうちに、その表情が嘲りを含んだ笑みに変わっていった。


「はははははははっ! なんだ、そんなふうに思ってたのか!? そうかそうか、父親だと思ってたら、そりゃ追いかけてくるよな!」

「……違うのですね」

「そうだよ! ああ、アイツも可哀想に。まさか顔も覚えられていないなんて。クククッ、こいつは傑作だ。シロン、君は父親に似だねぇ」

「…………」

「本当に、馬鹿なところがそっくりだ」


 無言で【魔法】を発動させ、ケイと名乗っていた男を撃つ。

 炎の弾丸が髪をかすめ、後ろの壁に当たって弾けた。


「おっと! 危ない危ない。気をつけないと、この子に当たるじゃないか」


 男は子どもをぐいっと引き寄せると、自分の前に立たせた。

 まるで、盾にするかのように。


「卑怯だな。子どもを保護するんじゃなかったのかよ」

「何事もなければ保護するよ。だが替えは利く。危険を退けるためなら、いかようにでも使うさ」

「……私の目が節穴でした。貴方のような人の本性も見抜けないとは」


 シロンが拳を握りしめる。


「改めて問います。貴方は何者ですか? その子をどうするつもりですか?」

「さっきから言っているだろう。保護して大事に育てるのさ。こんなに痩せてしまって可哀想に……これじゃ〈捧げもの〉にならないよ」

「は……?」

「この子は大事に大事に育てたあと、神の愛に導かれ、その御許(みもと)に行くんだ。そして俺たちは神の恩寵を授かる。そして、この国に真実の希望を与えるのさ」


 男の瞳は俺たちを見ていない。どこか遠くの、いつか到来すると信じてやまない輝かしい未来を、うっとりと見つめていた。


「……魔神崇拝者か」


 俺がぽつりと呟くと、男の瞳がふっと焦点を結ぶ。そして、また見下して嘲るような顔つきに戻った。


「それは〈聖天教〉の連中が勝手につけた呼び名だ。国の始祖というだけの人間を神として祀る〈聖天教〉の方がよほど邪教じゃないか」

「少なくともこっちは子どもを生贄に捧げたりしないけどな」

「見解の相違だな。昔からそうだ。だから結局、こんな手段に頼ることになる」


 男は子どもを盾にしながら俺たちに掌を向ける。

 その掌の前の空間が赤黒く染まり、凝縮して球体となった。

 あれは……!


「〈腐壊弾(イロードバレット)〉」

「! シロン、避けろ!」


 とっさに横に跳んだ瞬間、直前まで立っていた空間を赤黒い光が貫いた。それははるか後ろの石壁に突き刺さると、ジュゥッという音を立てる。ちらりと目を遣ると、長い間にわたって地下道を支え続けてきた石が、どろどろに溶け落ちていた。


「っ!? ご主人さま、あれはまさか……!」

「……【暗黒魔法】だ。あいつ、魔神と契約してやがる」


【暗黒魔法】とは、魔族のみが扱える特別な【魔法】だ。しかし、魔族の最上級である魔神は、自分が契約を交わした相手に【暗黒魔法】を扱う能力を与える。


(【暗黒魔法】と()るのはもう少し先の予定だったけど……)


 呼吸を整えて思考を落ち着かせつつ男を観察する。

 圧倒的な力を持っている自覚があるんだろう。こちらを見下した笑みには、はやくも勝利を確信したかのような余裕が新たに混ざっていた。


「聞きたい山ほどある。あの子を助けて、アイツをぶっ倒すぞ。」

「承知いたしました」


 と言うなりシロンが前に飛び出す。

 俺もまた次の【魔法】に備え、全身の【魔素】に意識を集中した。

読んでいただいてありがとうございます!

ここから第2ラウンドです。ファイッ!


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