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第34話 地下へ

 声に主に振り向く。

 そこには40代半ばくらいの、目つきの鋭い男が立っていた。服装は茶色いベストに柄の入ったシャツ、そして薄い灰色のズボン。そのどれもが、何度も繰り返した洗濯によって色落ちし、彼の印象を全体的にくすんだ(・・・・)ものにしていた。


「……すみません、ちょっと……」


 迷ってしまって、と言いかけて、シロンが大きく目を見開いていることに気付いた。


「どうした? もしかして……」

「ええ、この人です」

「……?」


 状況が飲み込めず眉根を寄せる男性。

 だが、その表情は次第に驚きに変わっていく。


「……その顔、まさか……ダイヌンの……?」

「私の家をご存じなのですか!?」


 ダイヌンはシロンの姓だ。

 顔を見てそこまで分かるということは、やはり血縁者なのか?


「あ、ああ……ちょっとな……いやまて、それよりもこっちの話だ。君たち、ここで何をしている?」


 男は話題を切り替えようとする。やや強引のようにも思えるが、ぺたぺたと壁を触っている俺を見たら、不審者だと考えるのが自然だ。でも……


「……ちょっと、面白いものを見つけてしまったもので」

「ほぅ、どんなものかな?」

「【魔法具】で隠された扉ですよ。けっこう高度な〈隠蔽魔法〉で隠されている……」

「扉だって?」


 男の眉がぴくりと動いた。


「……あなた、教団の人じゃないみたいですね」

「なぜそう思う?」

「幹部なら施設の扉くらい知っているでしょう。信者でも、わざわざ行き止まりにまで来る理由がない。だったら外部の人か、信者だとしても新参者だ」

「…………」


 男は黙る。

 俺たちも口を開かず、互いの動きを観察し合う。木箱の向こうから低い祈祷(きとう)の声が、まるで遠くの潮騒のように響いてくる。

 しばらくして、男はフゥと溜息をついた。


「黙って探り合っていても仕方がないか。俺はちょっと事情があって、この教団の〈裏〉を調べてんだ。君らもだろう? 本気で入信しに来たとは思えないからね」

「……まぁ、そんなところです」

「じゃあ協力といかないか。単独潜入ってのも心細くてね」


 シロンと目配せして、俺はうなずいた。


「わかりました。では〈裏〉がとれるまで力を合わせましょう。名前を教えてもらっても?」

「……ケイと呼んでくれ。そっちは?」


 まぁ、偽名なんだろう。

 こっちも適当に名乗ってもいいんだが……


「……俺はヴィオ。この子はシロンです」

「ヴィオと……シロン、ね」

「聞き覚えが?」

「……友人の娘と同じ名前だ。まぁ、その辺は道すがら話そう。どこまで覚えているか怪しいがね」


 ケイはそう言うと、俺が調べていた壁に触れ、探り当てた取っ手を左右に動かす。

 地面と金属が擦れる重い音がして、幻の壁の向こうから(かす)かな風が吹いてきた。


「俺が先に行こう」


 足を踏み出し、壁の向こうへと姿を消すケイ。数秒遅れて俺たちも入る。

 そこは煉瓦造りの小さな空間で、右手に地下への階段が続いていた。薄暗く視界が悪い。


(見つかるリスクもあるが、ここは仕方ないか……)


 俺はポケットから小さい筒を取り出すと、光の【魔法】を〈充填〉して発動する。筒の先端から投射された光が、壁に当たって円を描いた。携帯の魔法灯……つまりは懐中電灯だ。


「こいつは助かるよ。さ、下りてみよう」


 相変わらず先頭はケイ、その後ろに俺とシロンが続く。

 階段は意外と長く、体感で3階分ほど下りてようやく石造りの地下空間へとたどり着いた。


「地下道……こんな古いところに……?」

「ああ。だいぶ古いな。もともと帝都の地下には遺跡があって、そいつを発掘するときにいろんな横穴を掘ったって話だ。百年前の戦争では、帝都決戦に備えて兵士を動かすために使われたって噂もあるな」


 天井までの高さは3メートル、横幅も10メートルはある。これなら重装備の兵士を歩かせることができるだろう。あながち都市伝説ってわけでもなさそうだ。


「ヴィオくんは物知りだねぇ」


 なんて言いつつケイは地下道の曲がり角から奥を覗いている。壁にはところどころ〈魔法灯〉が置かれていて、俺の携帯灯がなくても最低限の視界は確保できていた。


「……ヴィオランス、あの人は……」

「お前のことは知ってる。けど、俺のことは知らない。あれが演技じゃないと仮定すると、お前のお母さんが亡くなった後のことは分かってないみたいだ」


 それはシロンの父親の条件と一致する……と考えるのは、さすがに強引すぎるか。


「それでも、話を聞けるなら……聞きたいです。私、元気だったお母さんのこと、あまり覚えていないので……」

「……そうだな」


 小声で話をしつつ、ケイの後に続く。死角をカバーするため、ときおり携帯灯で物陰や曲がり角を照らす。……と、その光に照らされ一瞬だけ人影が浮かび上がった。


「誰かいる」


 俺の声にケイが振り返る。そして躊躇(ちゅうちょ)なく、俺が照らしている方向へと走っていった。

 そして物陰に腕を突き入れ、引っ張り出したのは――


「……子ども……?」


 おそらく10歳にも満たない、痩せた子どもの姿だった。

読んでいただいてありがとうございます!

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