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第31話 シロンを追って

 シロンの様子がおかしい。

 そう思い始めたのは合宿が終わって1月あまりが経った頃だった。


「それでは出かけてきます」


 その日もシロンは俺に深々と頭を下げると家を出て行った。

 出かけること自体はおかしくない。走りに出たり、買い物に行ったり、なにかと用事はあるだろうし、俺も行き先をいちいち確認したりはしない。

 だが、しかし、


「……なんかおかしいっスよね」

「なんかおかしいねぇ」


 と首を傾げる2人と同じく、俺もまたシロンの行動に疑問をもっていた。

 なぜなら、


「なんか……ちょっとオシャレしてたよな? 俺の勘違いじゃないよな?」

「「してたしてた(っス)」」


 普段から制服、運動服、メイド服のローテーションで過ごしているシロンが、最近は珍しく年頃の女の子が着るような服で出かけているのだ。

 それは、つまるところ……


「こりゃあ……デートっスかね」

「デートかなぁ? デートかもねぇ?」


 エテルとハトリの言葉が、俺の心中を代弁していた。

 そんな2人は揃って俺の方を、興味津々といった様子で見る。


「ご主じ~ん、ね? ね? どうスか? 気になるっスか?」

「い、いや別に……」

「素直になろうよぉ。ね、ご主人ちゃん?」

「…………」


 正直に言って、めっちゃくちゃ気になる。ソワソワする。平気だったらシロンが出て行った玄関でその行き先に気を揉んだりしていない。


「ぐ……ぐぬぅ……だけどさぁ、だけどだよ」


 俺は腕を組み、目をぎゅっとつぶって言葉を絞り出す。


「シロンのプライベートを探るなんて、主人としてどうかなって思うわけだよ、俺ぁさ!」

「ホントは?」

「どこで何してんのか突き止めたーい!」


 無様な強がりは一瞬も意地できなかった。

 口に出してしまうと、モヤモヤとした行き所のない感情が胸を満たしていく。

 足元がぐにゃりと歪んで世界の上下と左右がズレていくような錯覚に陥る。

 時計の針の音が、チッチッチッチッとやけに大きく聞こえた。


 背伸びをしたエテルが俺の耳元で(ささや)く。


「ね、こうなったら……ヤっちゃいません?」


 反対側からハトリが俺の腕にそっと抱きついた。


「ガマンしたらぁ……体に悪いよぉ? ねっ?」


 俺はごくりと唾を呑み込んで、問う。


「な、なにを……するって……?」


 両耳からメイド(あくま)が誘惑する。

 湿り気を帯びた甘い吐息が耳と心をくすぐった。



 *  *  *



「……尾行ってコレでいいのかねぇ……」


 俺は街灯の陰から、二十歩ほど先を行くシロンの様子をうかがっていた。

 夕方の中央区画は人通りが多い。ときおりシロンの姿が隠れるのは困るが、向こうに気付かれる心配が少ないのはありがたい。


 昨日、俺はエテルとハトリに尾行と追跡の基礎をみっちり叩き込まれた。「自分たちでやればいいじゃないか」と言ってはみたが、2人とも俺がすることに強くこわだっているようだった。


(エテルに行かせて報告を待つってのも、なんだか据わりが悪い感じするしなぁ)


 シロンのプライベートを暴こうというのだから、自分で動くのが筋というものだろう。そう納得して、俺はシロンの尾行についている。


(それにしても、どこに行こうっていうんだ?)


 シロンは中央区の広場でしばらくベンチに座ったあと、おもむろに立つと西へ歩き始めた。急いでいる風でもないが、ゆったりと散歩をしている様子でもない。なんとも心中を察するのが難しい足取りだ。


 誰かと待ち合わせをしているのなら、もう少し楽しそうに歩くだろう。なにかトラブルを抱えている相手なら、もう少し肩に力が入ったり、歩みに重さを伴うはずだ。


 歩き方ひとつでシロンの機微にはおおよその見当がつく。そんな事実に、今さらながら気がついた。


「…………」


 俺は黙って人混みを縫って歩く。

 歩きながら、考える。


(もし、本当にシロンが誰か特別な人と会っているなら、すぐに引き返そう。で、帰ってきたら正直に謝ろう)


 今すぐ帰ろう、と思えない自分が情けなかった。


 そうこうしているうちに景色が少しずつ変わっていく。商店が建ち並び人通りの多かった中央区から、住宅が多い地域を抜けて、帝都のさらに西へ。

 いつしか人がまばらになり、建物は老朽化が進んだものばかりになる。

 スラムとまではいかないが、かなり所得が低い層が住んでいることは明白だった。


「……しまった……!」


 気付かれないよう距離をおいていたのが裏目に出た。街並みに目を遣っていた一瞬の間で、俺の正面からシロンの姿が消えていた。

 慌てて最後に確認した彼女の位置まで移動する。だが、その姿はどこにもない。


「どこへ行ったんだ……」


 周りを見渡すと、ある場所に気がつく。それは倉庫と思しき建物で、装飾も看板もないにも関わらず、ぱらぱらと断続的に人が中へと入っていた。

 なにかの取引なのだろうか。

 それにしては警戒心が薄いようにも感じるが……


「あの」

「ひゃおおおぅ!?」


 思わず軽く飛び跳ねる。

 暴れる心臓を落ち着かせながら振り向くと、


「ご主人さま、どうされたのですか?」


 尾行していたはずのシロンが後ろに立っていた。

読んでいただいてありがとうございます!

ここからシロン編が開始です。

はたしてどうなるのか!


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