第30話 さらなる成長を
いろいろあった強化合宿も、気がつけば最終日になっていた。
あの模擬戦から、ハトリと中尉は互いに距離感を探りつつも、前よりずっと柔らかい雰囲気で話をするようになった。
俺やアルカは隊長にみっちりしごかれ、体中をアザだらけにしつつも、成長の手応えを感じていた。
最後の模擬戦を終えた隊長は、
「おし、こんなところか! お前らよくついてきた。初日から大したもんだったが、短期間でかなり伸びた。こりゃ冗談抜きで卒業後はスカウトもアリだな」
「ははは……ありがとうございます。結局、隊長の〈銀翼〉は使わせられませんでしたけどね」
「バカ言うな。ありゃ〈殺し技〉だ。訓練でほいほい使えるかよ」
と苦笑いを浮かべる隊長。だが、
「……いや、まぁ見せるくらいならいいか」
と言って俺たちから数歩離れた。俺の隣に並んだアルカが問いかけてくる。
「ねぇヴィオランス。〈銀翼〉って何なの?」
「【魔素】を剣の形に凝縮させる超高等【魔法】だよ」
「ん? 剣にする? 【魔素】で何かを斬るんじゃなくて?」
「ああ――すげぇもんが見れるぞ」
オルスタ隊長が軽く手を掲げると、その周囲に光が集まり次第に長細い形をとっていく。
やがて十数本もの銀色の剣が隊長の周囲に浮き上がった。
「……すごい……」
アルカが思わず声を漏らす。
【魔素】を火や雷の形で〈出力〉するのと、物質として〈形成〉するのとでは、必要の技量のレベルがまったく違う。
(あんな数の剣を〈形成〉できる人間が、帝国どころか世界中でも何人いるか……)
そのとき、ざぁっと強い風が吹き、森から木の葉や花びらが大雪のように舞った。
「……いけっ!」
隊長の声に応じて銀の剣が宙を飛ぶ。
閃光が縦横無尽にはしる。次の瞬間には、あれだけ舞っていた木の葉や花びらのすべてが微塵に斬られ、消え去っていた。
「これが〈銀翼〉……!」
「んな大した名前で呼ばれるもんじゃねぇよ。【魔法】の基礎の延長線上だ。死ぬ気で努力すりゃ、似たようなことは出来るようになる」
剣を消した隊長がニッと笑う。
「特にヴィオ。お前は昔っから【魔素】の操作をバカみてぇに練習してきただろ?」
「……はい。よくわかりますね……?」
「見りゃわかるさ。お前なら俺よりもコイツを習得できるだろうが……」
隊長はそこで言葉を切り、顎に手を当てて考える。
「……たぶん、お前には向いてねぇ」
「……でしょうね。俺には剣の才能がない。たとえ剣を〈形成〉できても、それを使って実戦で戦うのは無理です」
【魔法】戦は一瞬の状況を見極めて想像力を働かせる必要がある。
さっき見た隊長の技は、言うなれ想像上の腕を十数本同時に操っているようなものだ。〈形成〉だけじゃなくて、その操作もまた神業といっていい領域にある。
たぶん100年かかっても、俺にはできない。でも――
「応用はできる。そんな気がしました」
隣のアルカも、
「僕も、なんか掴めそうな気がしました。ありがとうございます、オルスタ隊長」
と頭を下げる。隊長は俺たちの肩をバシバシと叩き、
「はっ! 生意気なこと言いやがって! それでこそ見せた甲斐があるってもんだ!」
と機嫌がよさそうに笑った。そして俺たちの顔を交互に見ると、真剣な顔になって、
「……アオイの嬢ちゃんには強い仲間が必要だ。次の帝位を奪い合う戦いだけじゃない。魔神を崇拝する連中やら、隣の国やら、キナくさい動きが後を絶たねぇ。お前らが強くなって嬢ちゃんを支えてやってくれ」
と言った。そして俺たちがうなずくと、再びニッと笑うのだった。
* * *
その日の晩、俺が邸の廊下を歩いていると、テラスにハトリの姿を見つけた。
「ハト――」
声をかけようとして止める。隣には中尉……実の姉がいたからだ。
合宿が終わればまたしばらく会えなくなる。せっかく仲直りのきっかけを掴んだのだから、今日はゆっくりと話してほしかった。
(どんな話したのか、帰ったら教えてもらおうかな)
そう思いつつ部屋に向かったとき、
「おや、ご主人さま」
ちょうどシロンが廊下を歩いてきた。彼女はテラスに目を向けて、ハトリの姿に気付いたようだった。
「お話されないんですか?」
「いまはお姉さんと一緒だからさ。俺らは帰ってからいつでも話せるし、家族との時間は大事にしてもらおう」
「……そうですね」
そう答えたまま、シロンはテラスの2人に目を向け続けている。
「どうした?」
「……いえ、なんでもありません。家族の時間は大事にしてほしいですからね」
そう言ってシロンは小さく笑う。
俺はその表情に、どこか寂しそうな翳りを感じたのだった。
読んでいただいてありがとうございます!
これにて強化合宿編(ハトリ担当回)は一段落。
次はついにシロンの番です。お楽しみに!
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