第27話 キジノメ姉妹
訓練2日目。俺たちは似た武器や戦い方を得意とする隊員に、より実戦的な戦い方を学ぶことになった。
俺とアルカの担当はオルスタ隊長だ。まさか直接に指導をもらえるなんて思ってもいなかった。俺たちは意気込んで挑んだのだが――
「せやぁぁぁぁぁっ!!」
アルカが双剣を横薙ぎに振るう。
だが、隊長は片手持ちの剣でそれを簡単に受け止めた。
「はい、力みすぎ」
そのまま力を受け流すと、アルカの腹に蹴りを入れる。
俺は足が戻る一瞬の隙を狙い、両手の魔銃から〈炎熱弾〉を放つ。
「お、目ざとい。でも残念」
隊長は片脚の力だけで跳ねあがり、空中で体をひねる。炎の弾を走り高跳びのような形で避け、そのまま俺に片手を向けた。
「〈炎熱弾〉」
「くっ……!?」
こぶし大の火球が俺めがけて飛ぶ。俺は体勢が崩れないように避け――
バァンッ
至近距離で弾けた炎と衝撃波をまともに食らった。
「ぐぁぁっ!?」
吹っ飛んで地面に叩きつけられる前に〈加速〉を使って体勢を制御。なんとか足から地面に着地し、魔銃から次の〈氷雪弾〉を放つ。
それは隊長が放った次の〈炎熱弾〉とぶつかって、盛大な爆発音を起こして対消滅した。
「お、ちゃんと読んでたか。感心感心、大したもんだ」
隊長がにやにや笑ったまま剣を下ろす。
どうやらこの手合わせは、これで終わりらしい。
「ハァ、ハァ……ありがとうございました」
「おう、お疲れさん。アルカは大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
息を切らした俺たちに対して、隊長は汗ひとつかいていない。
(勝てるなんて甘い考えは持ってなかったけど、まさかここまで実力に開きがあるなんて……)
魔銃を握る俺の手に、思わず力が入る。アルカも蹴られた腹を押さえたまま、唇をかみしめていた。
「そんな顔すんなって。前にも言ったが、その年で俺についてこれるヤツなんざ、そうそういねぇ。お前らに足りないのは経験だけだ。それを積みゃ帝国でもトップクラスになれるさ」
隊長の言葉に、俺は顔を上げる。
そうだ。この程度で心が折れてちゃ、この先を戦い抜くことなんてできない。
「おし、ちっと休憩すっか。反省点を洗い出したらもう一本いくぞ」
「はい、よろしくお願いしま――」
ガシャンッ
そう言いかけた俺の目の前に何かが吹き飛んでくる。
拾い上げて確認すると、それはハトリが使っている模擬戦用の長銃だった。
* * *
長銃を掴んでハトリの訓練場へと向かう。
そこで俺が目にしたのは、地面に尻をついて姉を見上げるハトリの姿だった。
どうやら銃剣の模擬戦をしていたらしく、【結界魔法】は張られていない。
「……どうしたんですか? 手を抜いて勝てるような相手だとでも思ったんですか?」
「そんなこと……」
「では、先ほどの戦いが全力だったと? 本気で言っています?」
「…………」
ハトリは言い返さない。キジノメ中尉の言葉に、どこか思うところがあるのだろうか。
「ハトリ、これ」
「あ……ありがとう、ご主人ちゃん」
差し出した銃をハトリが受け取る。手の甲にアザが出来ているのが見えた。
「……まだ、やるか?」
「うん、大丈夫」
俺はそのまま2人から離れる。近くに来ていたオルスタ隊長の隣に立って、キジノメ姉妹が再び向かい合う様子を見守った。
「……荒療治、上手くいくといいんだがなぁ」
「ハトリの……ですか?」
「どっちも、さ」
隊長が呟いた瞬間、ハトリが中尉の喉を狙って銃剣つきの長銃を突き出す。
速く、狙いも正確だ。だが――
「シィッ!」
体の軸をずらして突きを避けたキジノメ中尉は、体を反転させながら長銃の銃床をハトリの肘に叩きつける。
「きゃっ!?」
伸びきった腕を強打され、ハトリの手から銃が離れる。
中尉は手元でくるりと武器を反転させ、ハトリの喉元に銃剣の切っ先を突きつけた。
「……動きが硬すぎる。いったい学院とやらで何を学んできたんですか?」
言葉に劣らない冷ややかな眼差しを向けたまま、中尉が武器を下ろす。
似たようなやりとりを何度も繰り返していることが、その様子から簡単に想像できた。
「なぁヴィオ。ハトリちゃんの銃剣技は我流か?」
「ええ。〈カッパー〉にはまともに戦技教官がつかないので、ぜんぶ自分たちの我流です。ハトリのあれは教本を読んで自分なりに再現しているみたいですが……」
「ふむ、なるほどねぇ……こいつは思ったより重症だな」
オルスタ隊長は2人の方に歩いて行くと、その間に立つ。
「おし、2人の訓練はいったんここまでだ。ハトリちゃんは休憩な。腕、アザだらけだろ。ちょっと冷やしてきな」
「……はい」
「で、中尉は頭を冷やそうな」
オルスタ隊長がキジノメ中尉に視線を向ける。それはいつになく厳しい眼差しだった。
「お言葉ですが、私は私情を交えず指導を――」
「いいから、ちょっと休んどけ。隊長命令だ」
「……了解」
中尉は敬礼して踵を返す。表情には出さないものの、不服に思っていることがありありと伝わってきた。
「おし。じゃ、あっちは頼んだぜ。しっかりやれよ、〈ご主人ちゃん〉?」
「……わかりました」
俺はオルスタ隊長に軽く頭を下げ、ハトリを追って屋敷へと向かった。
だが――
「なぁ、ハトリみなかったか?」
「いいえ、こちらには来ていませんね」
「そっか、ありがと」
シロンに手を振って裏庭から離れる。
屋敷のなかにも、その周りにもハトリの姿はなかった。
(どこに行っちまったんだよ……)
居場所を探り当てたくて、ハトリのことを考える。
ハトリはいつも明るくて、抜けているところがあって、ちょっと物騒で、俺やシロンやエテルのことをいつも大事にしてくれて……
(ほんと、うちに来たときからだいぶ変わったよな)
ふと初めて会ったときのことを思い出したのは、屋敷の周りの森があの時とよく似ていたからかもしれない。
(……あ、そうか。もしかして……)
ある可能性に思い至った俺は、自分に〈感覚強化〉の【魔法】をかける。
そして、森のなかへと足を踏み入れた。
* * *
鬱蒼とした森を十数分ほど進んだ先に、その場所はあった。
木々の間が離れていて、背の低い草花が太陽の光を浴びている。小さな広場のような花畑の端に、ハトリが膝を抱えて座っている。
木陰にいるせいか、その姿はどこかくすんでいるように見えた。俺が、
「どうしたんだ、こんなところで」
と声をかけると、ハトリははっとした様子で顔を上げる。どうやら俺の気配に気付いていなかったらしい。こいつにしては珍しいことだ。
「隣、座っていいか?」
「う、うん……」
俺はハトリの隣に腰を下ろす。目の前では金色の花たちが風に揺れていた。
「金日草、こんなところにも咲いてるんだな」
「……うん。あたしもビックリしちゃった。モータロンド領だと幻の花って感じなのにねぇ」
「そうそう。あの森にもけっこう咲いてたよな。みんなで摘んで持って帰ってさ、父上に褒められるって思ったのに、すっげー怒られたし」
目を閉じるとハトリと出会った頃のことを鮮明に思い出す。
「父上の部屋から出たらさ、母上とハトリが待ってたんだよな。ハトリ、ずっと母上の手を握ってたっけ」
「うん……奥様、ほんと優しかった。奥様だけじゃない。シロンちゃんも、エテルちゃんも、ご主人ちゃんも本当に本当に本当に優しくて……」
ハトリは泣きそうな顔で、
「あたしがバケモノなんだってこと、忘れちゃってたなぁ」
と笑った。
読んでいただいてありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と少しでも思ったら★★★★★を押していただけると励みになります!
ブックマークもぜひお願いします!




