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第26話 オルスタ・サンルッツ

 教導部隊の訓練は控えめに言って――


「じ、地獄だぜェ」

「しんど……死ぬぅ~」

「ひぃ、ひぃ……」


 ロックたちの言葉どおり厳しいものだった。とにかく休息なしで基礎的な白兵、射撃、魔法の使用方法を体にたたき込まれる。


 とはいえ、俺とメイド3人、アルカ、アオイは日頃から体力作りをしているので、なんとかついていけている。

 1日目が終わった段階で、俺たち6人はそれぞれの得意分野を伸ばすため特訓に移り、残りの3人は基礎能力を底上げする特訓を続けることが決まった。


 訓練後のストレッチをしていると、オルスタ隊長がやってきて、


「アオイのお嬢さんはともかく、ヴィオとアルカがここまでやるとはな。お前らもう軍に入ってもやっていけるぜ。学年でも〈ゴールド〉くらいには余裕で勝てるんじゃねーの?」


 と声をかけてきた。俺は前屈しつつ、


「今の俺たち、教導部隊に入れますか?」


 と訊いてみる。オルスタ隊長は無精ひげを撫でながら、


「そりゃ無理だ。俺が言うのもなんだが、うちの隊はけっこう精鋭ぞろいだぜ? 実力も経験もまるで足りねぇよ」


 と笑った。俺も本気で訊いてみたわけじゃない。学院の何番目ってくらいじゃまるで足りないことを再確認したかっただけだ。そして話を本題に移す。


「俺のメイドたち……シロン、エテル、ハトリの3人はどうでしょう。まだ伸びしろはありますか?」

「んー、そうだなぁ。どの子が本命なのか教えてくれたら、答えてやろう」

「いや本命とかないですから。家族みたいなもんですよ」


 訊かれたくない質問を受けて、自分でもむすっとしているのが分かる。隊長はニヤニヤしつつ、


「んー、そんなことないんじゃねーの? なんつーか、お前とあの子らの距離感ってさぁ……」

「だとしても! 誰が一番とかはないですって!」


 思わず大きな声を出すと、シロンたちがこっちを振り向く。なんとなく恥ずかしくなって、俺は視線をそらした。


「ははっ、悪い悪い、からかいすぎたな。でも3人ともってのは大変だぞ。甲斐性つけろよ、〈女神の刃〉サマ」

「そのために頑張ってるんですよ……で、どうなんです、あいつらは?」

「……伸びしろはある。本人たちも自分の強みを理解してるからな。そのぶん短所もはっきりしてるが、それを補うのが集団の戦術ってもんだ。うちの隊と相性いいよ、お前ら」

「そう、ですか」


 思わずほっと息を吐く。それと同時に、頭の隅に除けていたことが思考に戻ってきた。


「あの、オルスタ隊長。訊きたいことがあるんですが……」

「キジノメ中尉のことだろ。まぁ、なんとなく事情は想像できる。あのハトリって子、変わった〈眼〉してるもんな。おおかた、それで家族といろいろあったんじゃねーの?」

「……まぁ、そんなところだと聞いています」


 ハトリの両眼は普通の人間と違う見た目をしている。そして、それが原因で幼い頃、家族に捨てられたのだ。


「中尉は一般入隊からのたたき上げでな。元は猟兵部隊の所属で、優秀な狙撃兵だってんで俺が引き抜いてきた。実家が猟師で、小さい頃から猟銃触ってたんだってな」

「ああ、そこはハトリと同じですね」

「だろうな。今日の訓練を見てビビッときたぜ。ありゃあ……」


 何かを言いかけて隊長が口を閉じる。そのまま考えこんでしまった。


「……どうしたんですか?」

「いや、ちょっとな。ヴィオ、お前、あの子のこと大事か?」

「え!? そ、そりゃあ……大事、です」

「なにかあっても支えてやれるか?」

「……はい、支えます。絶対に」

「……そうか」


 俺はオルスタ隊長の目をまっすぐに見てうなずく。隊長はにやりと笑って、俺の肩をぽんと叩いた。


「いい返事だ。お前のこと信じて、ちょっとハードにいくぞ」



 *  *  *



 その日の晩、食事と風呂を終えた俺は、夜風に当たりたくなって屋敷のテラスに出た。そこにはメイド3人の姿があった。


「あ、ご主人ちゃん!」

「ご主人、どしたんスか?」

「こちらへどうぞ。寒くありませんか?」


 シロンに手を引かれてテラスの縁にやってくる。手すりに体を預けて外に目を向けると、月に照らされた森が広がっている。山に近いせいか、吹いてくる風は少し冷たかった。


「たしかにちょっと寒いな。お前ら風邪ひかないように気をつけろよ?」

「お? んじゃご主人に温めてもらうっス」


 と言ってエテルが体を押しつけてくる。


「なるほど、たしかにいい考えです。押し合って体温を上げましょう」


 もう一方の側からシロンも体を押しつけてくる。


「おおおいシロンはちょっと手加減してくれ。潰れる潰れる」

「そうっスよ、ウチめっちゃ押されてるっスからね!」

「なるほど、でしたら両手でがっちりホールドしましょう。これなら動きませんね」

「はァ~!? なにさらっと抱きつこうとしてんスか!?」


 俺をはさんで騒ぐ2人。だが、こんな時に喜んで入ってきそうなハトリは、森の方に目を向けてぼんやりしている。


「……ハトリ。やっぱり、心配か?」

「えっ、うん……ちょっとね。でも大丈夫、お昼も言ったけど頑張るから! ものすごく強くなってご主人ちゃんを守るからねぇ」


 ハトリがそう言ったとき、ちょうど雲が月にかかる。

 その表情は夜の闇に隠れてうまく見えなかった。

読んでいただいてありがとうございます!

メイドたちもボディタッチが増えてきました。

書いていて楽しいです。


「面白かった!」

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