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第25話 教導部隊

「ねぇ……おねえちゃん、なの?」


 女性兵士の瞳がハトリを向く。だが、すぐ真正面へと向き直った。

 言葉はない。あきらかな無視だった。


「え、なになに? トリのお姉ちゃん?」


 事情を知らないカーラがきょろきょろと2人を見比べ、冷えた雰囲気を察したミジィルに袖を引かれる。


「カーラちゃん、それ以上はダメだよ。ね?」

「え? あ、うん……」


 なんとなく話しづらくなり、黙ってしまう〈カッパー〉の生徒たち。教導部隊の兵士たちは不動で直立しているけど、やっぱりわずかに動揺しているように感じる。


 そんなとき、再び屋敷の扉が開いて1人の男が現れた。


「お、揃ってやがるな。学院のひよっこども」


 ジャケットを肩に引っかけ、シャツの首元は第2ボタンまで外れている。

 歳のころは30代後半。無精ひげを撫でながら欠伸をかみ殺している。


 ユルい。軍人とは思えないだらしなさだ。でも――


(隙がねぇ。さすが教導部隊の隊長……〈銀翼〉のオルスタ!)


 背筋に震えがはしる。

 目の前の男は【熾天のレギオン】でも最強格の1人。しかも本来ならゲーム後半で登場する高レベルユニットだ。こんな時期に会えるような相手じゃない。


「ん……? お前さんが噂の暴れん坊貴族かい?」

「ヴィオランス・モータロンドです」

「ははっ、やっぱりか。アオイの嬢ちゃんと婚約破棄するわ、勝手に〈女神の刃〉になるわ、入学初日に上級生ボコってテストの成績パーにするわ、学院はじまっての問題児なんだろ?」

「ま、まぁ……はい、おおむね事実ですね」


 オルスタ隊長は俺の前に歩いてくると、肩をバシバシと叩いてくる。


「はっはっは! ありがとよ、お前が来るまで歴代問題児ランキングの1位は俺だったからな! やっと歴史から名前が消えたぜ!」

「は、はぁ……」


 ユルいってのは〈原作知識〉で知ってたけど、実際に話してみると予想以上にフランクな人だ。


「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は帝国陸軍・複合戦技教導部隊の隊長、オルスタ・サンルッツだ。階級は少佐だが、そこんところは気にすんな」

「はい! 質問があるっス」


 ぴっと手を上げたエテルに、オルスタ隊長は両手の人差し指を向ける。


「その遠慮のなさ、いいぞぉ~! なんでも訊いてみろい!」

「複合戦技教導部隊ってなんスか?」

「お、そこからね。よし……じゃあキジノメ中尉、答えどーぞ」


 オルスタ隊長に話を振られたのは、さっきハトリが姉と呼んだ女性だった。キジノメという姓はハトリと同じだ。やっぱり2人は血縁者なのだろうか。


「……帝国軍の教導部隊は、分野ごとに分かれています。我々は白兵・射撃・魔法を修めた人員を組み合わせ、組織的な戦術を運用する独立性の高い部隊の教導を担当します」


 女性兵士はよどみなくスラスラと話し、その間まったく視線を真正面からずらさなかった。瞬きすらないような気がするくらい、〈不動〉を絵に描いたような人だ。


「ま、少人数でいろんな場面に対応できるチームを育ててるってこと。アオイのお嬢さんの頼みで、これから俺たちがみっちりとお前らをしごいてやる。頭についた殻くらいは落としてやるから、死ぬ気でついてこいよ?」


 オルスタ隊長が俺たちを見渡し――ハトリの顔を見て「ん?」と首をかしげる。


「ありゃ、そこの君、キジノメ中尉によく似てるな。おーい、中尉。この子もしかして君の家族? 妹とか?」


躊躇(ちゅうちょ)なくプライベートに切り込んでった!?)


 俺は黙ってその様子を見守りつつ、すこしだけハトリの近くに寄る。ちらりと様子を盗み見ると、いつもニコニコと笑ってるあいつが、どんよりと沈んだ表情を浮かべていた。


 キジノメ中尉は、相変わらず正面を向いたまま、


「……回答はご命令ですか?」


 と冷たく答える。


「えぇ~? そんなこと訊くかフツー。じゃあ命令、教えなさい中尉」

「……妹です。幼い頃に生き別れたきりですが」

「マジで!? 奇跡の再会じゃねーか。あとでゆっくり――」


 オルスタ隊長の言葉に、キジノメ中尉の視線が動く。冷たい視線で上官を見すえたまま、


「相手は学生とはいえ、これは教導の任務です。教導部隊の一員として、私情ははさみません」

「いやでも、家族なんだし……」

「これ以上の干渉はハラスメントとして報告しますが?」

「あっハイ、ごめんなさい」


 あっさりと引き下がるオルスタ隊長。意外と部下に弱かった。

 つか、帝国軍にもハラスメント対策とかあるんだな……


 コホン、と咳払いしてオルスタ隊長が場の空気をもう一度引き締める。


「さて、さっそく今日から訓練をはじめる。運動着に着替えて、ここに再集合だ。急ぎ足、いけ!」


 有無を言わさないかけ声を受けて、〈カッパー〉の学生たちが屋敷の中へと入っていく。


 ただ俺はハトリのことがどうしても気になっていた。


「なぁ、ハトリ、大丈夫か? 無理しなくても……」

「ううん、だいじょーぶ」


 俺の言葉に、ハトリはいつもの笑顔を浮かべる。


「ご主人ちゃんのために、もーっと強くならなきゃいけないからねぇ。あたし、がんばるよぉ!」


 でもその笑顔は、どこか不安の陰を帯びているのだった。

読んでいただいてありがとうございます!

捨てられたハトリと家の残った姉、再会を喜ぶ間柄ではなく……

仲良くできるんでしょうか?


「面白かった!」

「続きが気になる!」


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