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第24話 悪役貴族と強化合宿

 学院に入学してから、そろそろ半年が経つ。

 中間試験は無事終わり、〈カッパー〉クラスはなんとか全員が及第点をとることができた。

 いつものように俺とアルカは教室で秘密会議をしていた。俺はノートに書かれたここ半年分の戦績を確認しつつ、


「とりあえずお互いの成長はそこそこってところか」


 と訊く。アルカは、


「うん。マッケルが力を貸してくれるおかげで、装備もかなり充実してきた。もう帝国軍の部隊と戦っても勝てるんじゃないかな」


 と言ってにこりと笑った。


(……たぶんレベルはゲーム中盤の敵と渡り合えるくらいになってる。装備は後半級のものが手に入っていると思っていいだろう。でもそれだけ(・・・・)だ)


 押し黙った俺を見て、アルカはもまた小さな溜息を吐く。


「……問題は僕ら以外だね。アオイはともかく、〈カッパー〉のみんなはよくて学年の平均より少し上ってくらいだ」

「ああ、俺も同じことを考えてた。うちのメイドたちも、得意分野で競っていいところ学年上位ってところだ」


 言葉だけなら十分に思えるかもしれない。だけど、それは「より上の実力を持つ者と戦えば低くない確率で負ける」ということだ。

 そして、この先そんな相手に遭う可能性は十分に高い。俺はつい、


「いいレベリングの方法があればな……」


 と呟いてしまった。


「ん? れべ……なに?」

「あー……そうだな、特訓みたいなもんだよ。地道なことを繰り返し教えて実力を底上げするって感じ……かな」

「ああ、なるほどね。でも僕らも教える専門家ってわけじゃないし、みんなを連れて実戦訓練を繰り返すわけにもいかないよね」

「だよなぁ……」


 これがゲームだったらフリーミッションをひたすら繰り返したり、地道にクエストをこなしてユニット全体のレベルを上げられるんだけど、生身の人間を相手にそれをやるのは難しい。

 人はボタン1つで言うことを聞かせられないからな。


 アルカと2人で「うーん」と(うな)った、そのとき――


「その話、聞かせてもらいました!」


 と勢いよく教室の扉を開いてアオイが入ってきた。


「あ、アオイ……さん!?」

「さんは不要と言っているでしょう、アルカ」

「う、うん……」


 アオイに微笑まれてモジモジするアルカ。

 お前、まだこのアオイ(・・・・・)に慣れてないのかよ……


「で、なんでアオイが〈カッパー〉の教室にいるんだ? 俺たちの話、盗み聞きしてたのか?」

「まさか。アルカとヴィオランスがたまによからぬ話をしているという情報を得たので、〈感覚強化〉で扉ごしに確認していたのです」

「それを盗み聞きっつーんだよ」


 恋バナだったらどうするつもりだったんだ。


「まぁまぁ、いいではないですか。その〈れべりんぐ〉というもの、私にお手伝いさせてください」

「そりゃ助かるけど、なにかいい方法あるのか?」

「ええ、つまり〈カッパー〉の皆さんを過酷な環境におけばいいのでしょう?」


 アオイはぐっと拳を握って宣言する。


「やりましょう、〈強化合宿〉を!!」



 *  *  *



 教室でのやりとりがあってから10日ほど経った、ある日――


「さぁ、つきましたよ!」


 アオイに促されて、俺たちは馬車から降りる。土と木々の匂いをたっぷり含んだ空気が鼻をくすぐった。

 目の前には煉瓦(れんが)造りの立派な屋敷がそびえ立っている。深い森のなかに立つ洋館を見あげて、思わず〈前世〉で遊んだホラーゲームを思い出した。


「おゥ、どーしたんだよ。貴族でも別荘ってのは珍しいもんなのか?」


 とロックが声をかけてくる。振り向くと、〈カッパー〉クラスのみんなが別の馬車から降りてきていた。慣れない馬車に半日も乗っていたからか、何人か調子が悪そうなのがいる。


「なんかまだユラユラするしぃ……」

「カーラちゃん、ほら、お水飲んで?」

「あんがとー。うぇぇ」

「今のうちにしっかり休んでおいてください。今日からさっそく特訓ですからね!」


 アオイのテンションはやたらと高い。そんな彼女に、荷物を出し終わったシロンが、


「アオイさま、ご自身のクラスはよろしいのですか?」


 と訊く。それは俺も気になっていたことだ。たぶん〈カッパー〉クラスの全員が思ってるだろう。「なんでここまでしてくれんだろう?」と。

 でも、アオイはフッとどこか小馬鹿にしたような笑みをこぼして言った。


「放っておけばいいのです。〈アダマス〉クラスのみなさんは、たしかにいま(・・)の実力こそ学年最上位ですけれど、それに甘んじている方がほとんど。卒業後は仕官、出世、安定した生活がどうとか――」


 彼女の目がすっと細まる。


「本当に、つまらない」


 その言葉の冷たさに、〈カッパー〉のクラスメイトたちは目を見開いていた。

 俺は慣れたものだけど、明るく元気な優等生というイメージからかけ離れた発言には違いない。


 そんな周りの戸惑いをまったく気にせず、アオイはにっこりと笑った。


「そんなわけで、私は〈カッパー〉の皆さんが学年の序列をひっくり返して、学院の目を覚まさせてほしいのです」

「ま、まァ……偉そうにしてるヤツらはムカつくけどよ……」


 と言って、ロックが困ったように頬をかく。


「さすがに学年トップの〈アダマス〉を見返すってのは……なぁ?」


 うつむいたり、顔を見合わせたり、その問いかけに対する反応はさまざまだ。だけど、沈黙がみんなの不安と自信のなさを代弁していた。


「大丈夫です、そのための強化合宿ですから。みなさん、死ぬ気で強くなりましょう!」

「気持ちだけで強くなれたら苦労しないし……」

「ご心配なく。ちゃんと特別講師をお呼びしていますから」

「え? だれだれ?」


 ちょうどそのとき、屋敷の扉が開いて数人の男女が出てきた。

 扉の前に整列した彼らは、黒を基調とした帝国軍の制服に身を包んでいる。

 その胸には交差した剣とドクロを象ったエンブレムが縫い付けられていた。それが意味するものは――


「教導部隊……!?」


 アルカが驚きの声をあげる。それはいわゆるエースが集まった、訓練のプロフェッショナルと呼べる特別な部隊だ。

 だが、それよりも、俺はそのなかの1人から目を離せなかった。


 濃い緑色の髪の女性兵士。その顔立ちは――


「おねえ……ちゃん?」


 ハトリによく似ていた。

読んでいただいてありがとうございます!

ここから合宿編です。ハトリ担当回です。

お姉ちゃんとの関係はどうなるのでしょうか?


「面白かった!」

「続きが気になる!」


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