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第18話 テス勉・トゥ・中間試験

 俺たちはカーラとミジィルの話を聞くため、いったん〈カッパー〉クラスの教室に戻ってきた。といっても、


「中間試験の対策だろ?」

「そーそー。ミジは古文とか帝国史とか薬学は得意なんだけどさ。工学とか魔法力学とか苦手なんだよね」

「じゃあ……フラッデさんは何が得意なんだよ」

「カーラでいーよ。貴族サマに〈名字さん付け〉で呼ばれるとか変な感じだし」

「わ、わかった。じゃあカーラ……」


 刺すような視線を感じて横を向くと、シロンとエテルとハトリが冷たい目で俺を見ていた。


「……さんは何が得意なんだ?」

「あーしは音楽! あと運動な!」


 にっかり笑うカーラ。俺も知ってて訊いたんだけどね。

 カーラ・フラッデは歌で魔法を発動させる【歌唱魔法】を得意とする。一定範囲の味方に強化(バフ)をかけながら、自分は格闘で近接戦をこなす、前線構築の要になるユニットだ。


「ご、ごめんね。私がもっと勉強頑張れば、モータロンドくんに迷惑かけずに済んだんだけど……」


 そう言ってうつむくミジィル・エルマンは、治療系の【魔法】が得意な、いわゆる回復職(ヒーラー)だ。結界魔法もできるから、後ろから前線を支援するタイプのユニットと言える。


(よく一緒にいると思ってたけど、ここまで仲がよかったとはなぁ)


 ゲームでは2人の関係性を掘り下げるイベントはなかったから、けっこう新鮮な驚きがあった。それを表に出さないように気をつけつつ、


「じゃあ俺はミジィルさんが不得意な分野を教えればいいんだな?」


 と訊く。ミジィルはうなずいて、


「はい、よろしくお願いします。反対に得意分野のことだったら教えられますから」


 と言ってくれた。俺は、


「そりゃ助かるよ。古文はちょっと分からないところがあったしさ。魔法力学は俺が詳しいけど、工学はロックに教えてもらった方がいいかもな。だよな、ロック?」


 とロックに話を振ってみる。だがロックは、


「別に教えるのはいいけど、中間試験っていつなんだ?」


 と首をかしげていた。

 はい?


「お前、それ冗談……だよな?」

「いや。アルカは知ってたか?」

「うん。シロンさんたちも知ってたよね?」


 アルカの問いかけに、我が家のメイドたちは揃って胸を張る。


「初耳です」

「いつなんスか?」

「中間試験ってなぁに?」

「ウソだろお前ら……」


 なんでそんなに堂々としていられるんだ。


 それはともかく、緊急の対策が必要だということはよくわかった。

 勉強会、するか……



 *  *  *



「残念だねぇ、この実習室は僕らが借りていくよ!」


 ぎゃははは、と下品な声が事務室に響き渡った。職員の皆さんが一瞬だけ顔をしかめ、我関せずといった無表情に戻る。


 ここは学院の事務棟にある施設の受付窓口だ。俺は魔法工学は実演しながら説明した方が楽だ、というロックの意見を受けて工学実習室を借りに来た。だけど、手続き中に後ろから割り込んできた〈ゴールド〉クラスの生徒に、たったいま横取りされた。


「ご主人ちゃん、あの人たち処す~?」

「やらんでいい」


 胸元から小型の拳銃を取りだしたハトリをなだめつつ、俺は整髪剤で頭をテカらせた同級生に話しかける。


「あのさ、一応訊くけど俺が先に予約してたの、知ってるよね?」

「もちろん知ってるさ」


 と答えて、いやらしい笑みを浮かべる。


「だけどさぁ、〈ゴールド〉は〈カッパー〉より優先して施設を使う権利があるんだよなぁ~~!」


 と言うと周りの取り巻きたちがまた笑い声をあげた。遠くで見ていたロックがムカついた様子で近づいてくるが、俺はそれを手で制した。


「……わかった。じゃあ、工学実習室はお前らが使えばいいよ」


 と言って窓口に向き直る。学院には魔法工学の実験に使える場所が他にもあるはずだから、そっちを使えばいいだけの話だ。


「おやおやぁ? モータロンド伯のご子息は気に食わない相手を叩きのめすって話だが、さすがに〈カッパー〉で問題を起こしたらもう後がないことくらいは分かってるみたいだなぁ」


 隣で勝手に盛り上がっているボンクラ貴族どもを無視して、俺は手続きを終える。そのまま鍵を借りるとクラスメイトたちの方に戻った。


「おい、言わせといていいのかよォ? やるってんなら俺も混ざるぜ」

「あーしも、あいつらクソ腹立つわ。蹴りくれてやるし」


 言葉には出さないけど、うちのメイドたちも随分殺気立っている。俺は、


「いいんだよ。あんな挑発に乗っても意味ないって」


 と言ってみんなに部屋を出るよう促す。


「お前、まさかホントにビビってるのか? 〈カッパー〉で問題起こしたら退学かもってさ」

「んなわけないだろ。あんな安い悪口じゃ、俺の大事なもんは何も傷つかないってだけだよ。ほら、行こう。勉強の時間、なくなるぞ」


 事務棟から出ると、いつの間にか空がどんよりと曇って辺りが薄暗くなっていた。「げ、傘忘れちゃったし」とカーラが顔をしかめる。ミジィルが、


「教室は借りられたんですよね? どこなんですか?」


 と訊くので、俺は鍵を確認して


「旧校舎の第2実習室だってさ。設備は古いけど、まぁ使えるだろ――」


 と答えた。最後まで言葉を言い終えなかったのは、ミジィルが後ずさったからだ。


「あの、ミジィルさん……?」


 ふと他の連中を見ると、カーラもロックもなにやら怯えた表情をしている。


(この反応はもしかして……)


 俺は思い浮かんだ言葉を口にした。


「もしかして……出る(・・)の?」

読んでいただいてありがとうございます!

みなさんの学校には怪談ってありました?

ウチは小中高大ひとつもありませんでした……


「面白かった!」

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