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第17話 ギャルと勉強と悪役貴族

 学院の屋内演習場で、俺はアルカと向き合っていた。

 向こうは双剣、俺は二丁の魔銃。武器は相変わらず。だけど、その形が前と少し違っていた。


「いくよ――」


 アルカが姿勢を低くした瞬間、俺は魔銃の引き金を連続で引く。


 ドッ、ドッ、ドッ!


 立て続けに発射された炎の弾丸は、風のような速度で駆けるアルカの一歩先(・・・)に放たれ、着弾した。


(当たった! だけど……)


 ダメージはない。弾はアルカに届く直前、透明な壁に防がれていた。防御に特化した【防壁魔法】だ。アルカは〈加速(ブースト)〉で俊敏性を上げつつ、別の【魔法】を行使していた。


 アルカは速度を落とさず俺の間近に踏み込んで――


「せやぁッ!」


 気合いと共に下から双剣を振り上げる。狙いは首だ。たとえ使っているのが模擬戦用の武器でも、直撃すれば大けがを負う。そのくらい本気の一撃を、


「ぐっ――ぬ!」


 魔銃を振り下ろして弾く。改良された魔銃は銃身の下に婉曲した刃が取り付けられていて、それが俺の手を守る役割を果たしている。


 つまりは、魔銃を接近戦用の武器としても使えるようになったということだ。


「食らっとけ!」


 もう一丁の魔銃をカウンターパンチの要領でアルカに突き出す。これも直撃すれば打撲じゃ済まない攻撃だが、


「こ、の――!」


 アルカは体をひねってかわし、そのままステップを踏んで俺から距離をとった。そして再び向き合い――


「……こんなところかな?」

「ああ、そうしよう」


 と互いに武器を下ろす。合図を送って【結界魔法】を解除してもらうと、パチパチという拍手と「はあぁぁぁぁぁ」という大げさな安心の溜息が聞こえてきた。


「お前らさァ、マジでやりすぎだろ。怪我したらどうすんだよ」


 たっぷり息を吐き出したロックが、安心半分、呆れ半分といった表情を浮かべて近づいてくる。それを小走りで追い越したシロンが俺にタオルを渡して、


「ご主人さまがあの程度の模擬戦でお怪我を負うことなど、あり得ませんよ」


 とどこか得意げに答える。ロックはげんなりした顔で、


「へいへい、どうせ俺の目は本気の程度も見抜けない節穴ですよ」


 とふてくされつつ、俺たちから武器を受け取った。アルカは、


「そんなに拗ねないでよ。目が節穴はともかく、工学の腕はすごいんだから、自信持って」


 とフォローし、俺もロックの肩をポンポンと叩いた。


「そうだな。まさかここまで上手く機巧を埋め込むなんて思わなかった。元気出せって。目は節穴かもしれないけど」

「だぁーっ! 節穴節穴うるせぇ! もう武器作ってやんねェぞ!?」


 キレるロックに二人してゴメンと謝る。そんな俺たちの様子をエテルとハトリも笑ってみている。


 ロックと店を共同経営するようになって数週間が経ち、コイツともだいぶ打ち解けた。最近は武器の改造も引き受けてくれるようになって、アルカの剣に魔銃と同じ〈魔法装填〉の機能を組み込んでくれたわけだ。

 身体に関する【付与魔法】しか装填できないけど、武器としての機能はほぼ変わらない。ゲームで言うところの〈追加効果つき武器〉だ。


「ヴィオランスの方はどうだ? 強化ついでに武器の重心を変えてみたんだが」

「ああ、すげぇいいよ。ダッシュしてるアルカの動きを簡単に追えたからビックリした」

「うん。僕も驚いたよ。あれならエテルさんが相手でもいい線いくんじゃない?」


 アルカの言葉を受けて、エテルが腕を組んで胸を張る。


「いーや、本気のウチは目で追えないっスよ? 捕えたかったら反射速度じゃなくって先読み力の方を鍛えなきゃダメっスね」


 そして「ま、ご主人にだったら捕まってもいいスけど」とウィンクしてくる。

 おいばか、やめろ。


「あはは……仲がいいね……?」

「あーあー、これだから貴族はよォ」


 あきれ顔を浮かべる男子たちはまだいい。


「…………」

「ふぅん……」


 なんかシロンとハトリの視線が怖い。強盗を退治した一件から、なんかエテルはこんな感じだし、シロンとハトリの俺への距離感もなんだか近い。なにより、


(あーもう、なんか調子が狂うな……)


 ちょっと自分の体温が上がる感じがして落ち着かない。

 その理由は、あえて深く考えないことにしている。答えが出たら、なんかいろいろ変わっちまいそうな気がしているからだ。


 そうこうしていると、演習場の扉が勢いよく開かれて、色白で金髪の女子生徒と、眼鏡をかけたうつむき気味の女子生徒が入ってきた。派手な方がカーラ・フラッデ、地味な方がミジィル・エルマン。2人とも同じ〈カッパー〉クラスの生徒だ。


 カーラは演習場を見渡すと、


「あ、いたいた。貴族サマ。あんさー、お願いがあんだけど」


 と金髪の先をいじりながら俺に近づいてくる。数歩後ろをついていくミジィルが眼鏡の位置を直しながら、


「か、カーラちゃん。やめようよ、絶対ムリだよ」


 と止めるが、カーラはかまわずに歩いてくる。

 しかし、そんな彼女と俺の間に割り込む影があった。


「どんなご用件でしょうか。よろしければ私が代わりにうかがいますが?」

「は? メイドは引っ込んでろって。あーしは貴族サマの方に用があんの」

「貴方のような品のない方をご主人さまにやすやすと近づけるわけにはいきませんので」

「もしかしてケンカ売ってんの? この脳筋ゴリラメイドが」

「ふっ……」

「いや褒めてねーからな。あーし悪口言ったからな、いま」


 カーラの言葉に目を見開くシロン。珍しく表情が大きく動いている。


「馬鹿な……ゴリラは森の賢者様ですよ……? それに脳みそまで筋肉でできているというのは至高の褒め言葉では!?」

「あー、うん、やっぱあんたじゃ話にならないわ。貴族サマ、ちょっといい?」


 と声をかけられ、俺はショックで固まるシロンを横にどかす。ちなみにカーラは服装も派手で露出が高めの、いわゆる〈白ギャル〉だ。俺が苦手とするタイプの女性である。


「な、なにかな?」

「うわっ……」

「カーラちゃん、ダメだよ。人の顔見て〈うわっ〉とか言っちゃ。たしかに気持ち悪い笑顔だけど、モータロンドくんも一生懸命なんだよ」

「あー……そだね、キモいけど我慢するわ。ごめん」


 ごめんで済んだらスクールカウンセラーは要らねぇんだよ!?


「ぷっ……くくく……」

「言われてやがる……くくっ」


 横で笑ってやがる男2人、あとで新魔法のテスト台にしてやるからな……

 なんて思いつつ、俺は息を吐いて心を落ち着ける。相手はクラスメイトなんだから緊張する必要なんてない。平常心、平常心。


「で、俺に何の用事だ?」

「うん。あーしとミジに勉強教えてくんない?」

「別にいいけど」

「やー、そう言わずにさ。ね、ミジも頼みなって」

「で、ででで、でも、モータロンドくんは私たちなんて――」

「だから教えるって。人の話聞けよ」


 という俺の言葉に無言で顔を見合わせる派手少女と地味少女。


「マジ!?」

「ほんと!?」


 きれいにハモった声が演習場に響いた。

 仲いいな、こいつら。


読んでいただいてありがとうございます!

ここからテスト勉強(?)編に入ります。

ちなみに女性クラスメイトは主人公とメイドの間に入ったりしません。

ギャル子と地味子で百合ップルです。


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