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第16話 あの日の続きを

 強盗団の根城を制圧した俺たちは、全員を拘束したあと帝都の軍に連絡をとって後始末を任せた。

 幸いにも強盗は商人から奪った資材を売り払っていなかったらしく、被害は実質ゼロという結果に終わった。

 当然、お得意先になるという話と、ロックの店を共同経営するという話も進み――


「貴族サマ……じゃねぇ、モータロンド、クン……? サマ?」

「ヴィオランスでいいよ。俺もロックって呼ぶしさ」

「おぅ……わかった。お前が筋を通したなら、俺も約束は守らなきゃな。しっかり働いてもらうぜ、ヴィオランス」

「それは俺のセリフだ。お前には店の商品だけじゃなくて、俺の装備の開発も手伝ってもらいたいからな。馬車馬みたいに働いて貰うぞ?」

「あン? なんでお前の装備までやんなきゃいけねぇんだよ?」

「そりゃあ、俺が知る中でロックが一番スゲぇ職人だからだよ。冗談じゃなくてさ。俺がもっと強くなるには、お前の力が要るんだ」

「お、おぅ……そう言われると、なんか悪い気しねェな……」


 という感じで丸く収まったのだった。


 そして共同経営の手続きやら書類作成やらを終えた俺は、約束どおり最初の収入でエテルに〈美味しいもの〉奢っている。


「……で、アイスっスか? しかも外のベンチで」

「仕方ないだろ。まだほとんど物が売れてないんだから」

「はいはい。いいっスよ。ウチは聞き分けのいいメイドなんで、我慢してあげるっス」


 と言いながら、エテルは自分のアイスに口をつけようとして、


「あの子たち、どうなるっスかね……」

「……さぁな。アオイに話をしたら、カエルレルム家が運営してる孤児院に入れるように手配するって言ってたから、大丈夫だと思いたいけどな」

「……大丈夫なんスかね、それ」

「たぶん……」


 さすがに孤児を殺し屋とか使い捨ての兵士に育てることはしないだろう。アオイの志はもっと高いはずだ。


「やっぱり気になるか? あいつらのこと」

「そりゃまぁ、似たようなもんスからね」


 アイスをひと舐めして、エテルは言葉を続ける。


「ウチはご主人に拾われて、奥様や旦那様に大事にしてもらって、シロンやハトリみたいな変な同僚がいて、ものすごく運がよくて恵まれてるっス。でも……」


 ひょっとしたら、と呟いてエテルは口を閉ざす。

 ひょっとしたら、何かが違っていたら、あの洞窟で俺にナイフを向けたのは自分だったかもしれない。

 そう思ってるんだろう。


「ここで、こうやってアイスを食べてるのも、ホントにいろんなことが運良く上手くいってるだけで、なにかの拍子に崩れて全部なくなるのかもな……なーんて思っちゃったっス」

「……ないよ」

「……え?」

「俺はお前を従者にするって決めてたんだから。ここに居るのがエテルじゃなくて他の誰かだったってことはないし、これから先に誰かと立場が入れ替わることもない」


 それだけは自信を持って断言できる。

 ゲームの流れがどうこうじゃなくて、そのために俺は頑張ってるんだから。俺が信じなくてどうするんだって話だ。


「な? 主人が言うこと、信じられないか?」

「……にししっ、仕方ないっスねぇ。信じてあげるっスよ♪」

「仕方ないってなんだよ」


 俺は笑ってアイスを口に運ぶ。話に夢中になっていたせいで、ちょっと溶けかけていた。急いで食べなきゃな、と思ったとき――


「あ、そうだ」


 そう呟いたエテルがぐっと体を寄せてくる。そして、


 ちゅっ


 と唇に温かいものが触れた。


 ……


 …………


 ………………え?


 しばらく固まったあと、俺はエテルに視線を向ける。すると、


「ど……毒味っス。ほら、昔、ご主人もしてくれた……っス、よね?」


 顔を赤くしたエテルが自分のアイスを囓っていた。


「あぁ……うん、毒味な。うん、校内のアイスに毒が入ってるかもしれない……よな、うん。何があるかわからないからな」

「そ、そうッスよ」


 俺たちはなんとなく言葉が出なくなり、しばらく学院の中庭を眺めながらアイスを味わう。

 そうしていると、エテルが再び口を開き、


「ねぇ、ご主人」

「……な、なに?」

「もしあの子が口の中に毒を仕込んでて、ご主人が下に解毒の【付与魔法】かけてたら……やっぱ、ウチと同じことするんスか?」


 と訊いてきた。俺はあまり深く考えず、


「うーん、どうだろう。やるかもしれないけど、エテルの時みたいに迷わずってのは、難しいと思う」


 と答えた。そしてエテルの方にちらりと目を向けると、


「えへへ、そうっスか。えへへ、ふふふっ」


 となにやら上機嫌だ。そして、


「だったら……もう1回して欲しいっス。ほら、ウチのアイスにも毒、入ってるかもしれないっスから……」


 と言って目をつぶった。


(……や、それは毒味じゃなくて……)


 エテルは従者で、家族みたいなものだ。

 ずっとそう思ってきた。それ自体は変わってないし、これからも変わらないと思う。


 だけどそれ以上に、いま目の前にいる彼女が特別な存在のように思えて。


 俺は――


「あぁ~~~! 二人でアイスたべてるぅ~。ずるいずるいずるい~~!」


 中庭に響き渡った大声で身を引く。

 エテルを見ると、あっちも姿勢を正して、ほんの少し俺から距離をとっていた。


 ぷんすか怒ったハトリが「ご主人ちゃん、あ~んしてぇ」と言って近づいてくる。その後ろにはあきれ顔のシロンも続く。


 いつもと同じ、俺とメイドたちの日常風景。

 その色合いがほんの少しだけ変わったような気がした。



 *  *  *



「……てことがあったんだけどさ」


 強盗団の拠点に踏み込んだ数日後、俺はアルカと2人で会っていた。アジトで遭遇した暗殺者の子どもだ。もちろん、中庭でのエテルとのくだりは秘密にしている。


「うーん……強盗団に君の隙を狙える子どもがいるなんて、信じられないな」

「だよな。お前、強盗団の相手はしたことあるか?」

「うん。最初の時はともかく、〈2回目〉からは大した相手じゃなかった。その程度の相手だよ。だけど、いま(・・)はそうじゃない。子どもとはいえ、暗殺者がいるのは見たことがない」

「そうか……」


 放課後の〈カッパー〉の教室には、わずかな夕日が差し込んでいる。すぐにそれは消えさって薄暗い闇に満たされた。


「君だけじゃなくて、なにか(・・・)が違う。もしかしたら、この学院の教団も……」

「そうだな。注意して調べを進めていこう」

「うん。みんなで生き抜くために」

「ああ、絶対に生き抜こう」

読んでいただいてありがとうございます!

エテルが一歩距離を詰めました。

でも他の2人の担当回もあります。ハーレムですんで。


「面白かった!」

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