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第14話 原作知識でダイレクト襲撃

 俺と帝都で馬を借り、エテルと二人乗りで南部の森にやってきていた。

 馬車が襲われた場所からはけっこう離れている。そのことを奇妙に思ったのか、エテルが


「ご主人、ここでなにをするんスか?」


 と訊いてきた。俺は馬を繋ぐ木を探しながら、


「強盗の拠点を直で叩こうと思ってさ。たしかこの辺りにあるはずだ」


 と答えた。丁度いい木を見つけたので、馬から下りて木に繋いでおく。エテルもひらりと地面に下りると、キョロキョロと辺りを見回している。


「ご主人、なんでそんなこと分かるんスか? 看板を出してるってワケでもないでしょうに」

「あぁ……なんつーか、街道と周りの地形から察するに、大体この辺りかなーって」

「へぇーっ、ご主人はホントにすごいっスね。さすがっス!」


 とエテルが尊敬の眼差しを向けてくる。本当は強盗の特徴を聞いて、ゲームのミニイベントの知識と照らし合わせただけなので、ズルをしているみたいでちょっと気まずい。


「この辺りの洞窟を根城にしてる……と思うんだよな。裏手にある裂け目を探して、そっから入ろう」

「了解っス。そーゆーのはウチ得意なんで、任しといてください」


 そう言ってエテルが俺の前に出る。そして手近な枝に飛び乗ると、さらに上の足場へと移っていく。

 エテルはいわゆる暗殺者(アサシン)盗賊(シーフ)の技能に長けていて、身軽な動きを得意としている。視界が悪い森でも、視点の高さを変えれば違和感に気付きやすくなるのだろう。

 しばらく周囲を見渡していたエテルは、枝から飛び降りると音もなく着地し、


「ここから100歩くらい先の崖に、人が通れそうな裂け目があるっスね。見張りがいるんで、先行して片付けておくっス。ご主人は音を立てないようにゆっくり来てください」


 と報告すると、また枝の上に飛び乗って、


「あ、殺さない方がいいスか?」


 と訊いてきた。ほんのわずかな時間、俺は迷う。相手は強盗の一味で、人を殺している可能性は高い。殺されても文句が言えないヤツかもしれない。

 だけど、俺は、


「……いや、奇襲でカタをつけれるなら、できるだけ殺さずに済ませてくれ。反撃されたら躊躇(ためら)わずにやっていい」


 と答えた。エテルは、にこりと笑って、


「了解っス」


 と木々の奥に姿を消す。それを見送って、俺は小さく溜息を吐いた。


 きっと迷わずに殺せと命令できる方が、指令役としては優秀なんだろう。そう言われれば、エテルは躊躇なく殺す。エテルだけじゃない。シロンも、ハトリも、ウチの実家でそういう訓練を受けてきた。モータロンド家の使用人は例外なくそう(・・)だ。

 かくいう俺も、数年前に暗殺者を返り討ちにして、人を殺している。だけど――


(甘いんだろうな、結局は……)


 と心のなかで呟いて、俺はエテルを追って歩き始めた。


 5分ほどかけてゆっくり進むと、やがて木々の向こうに崖が見えてくる。岩肌の一部には大人でも余裕で通れそうな、大きな裂け目ができている。

 エテルの姿を探すと、裂け目から少し離れた繁みから手を振っていることに気付いた。


(あの様子だと、見張りは排除できたみたいだな)


 足音を立てないよう気をつけながら、姿勢を低くして進む。繁みに着くと、エテルの足元には縄で手足を縛られた見張りの姿があった。ぐったりしているが、生きてはいるみたいだ。

 しゃがんで確認して、俺は思わず、


「……若いな」


 と呟く。10歳を少し上回ったくらいの少年だ。体つきは細くて、年頃の割には痩せている。服も粗野で薄汚れていた。

 エテルはあっけらかんとした様子で、


「どこぞで買われたか、さらわれてきたんスよ。で盗賊やら強盗やらの下っ端をさせられる。よくある話っスね」


 と言う。もちろん、それくらいは俺も知っている。あえて明るい様子で言ったのは、俺の心を気遣ったのかもしれない。


「ああ……そうだな。洞窟の中にはもっといるんだろうな」

「でしょうね。たいした訓練は受けてないみたいっスけど、捨て身になられたら面倒っスよ。なんだったらウチが1人で行ってくるっスけど?」


 と訊くエテルに、俺は首を横に振った。


「ここで待ってる方がいろいろ心臓に悪い。俺も行くさ。試したいものもあるしな」

「……かしこまりっス。じゃ、さっさと行くっスか」


 俺はエテルにうなずくと、腰から魔銃を1丁引き抜いて崖の裂け目に向かう。

 中をのぞき込むと、しばらく隙間が続いた先に広い空間があることが見てとれた。俺の記憶にある強盗団の拠点のマップと、おおよそ同じ構造だ。


「ウチが先行して奇襲をかけるっスか?」

「いや、俺が先を歩く。広い場所に出たら魔法具を使うから、そっから一気に制圧だ」

「了解ス」


 俺は岩盤の裂け目に足を踏み入れる。いざという時の逃げ道として使うためだろうか、足場が整備されていて、石ころを蹴っ飛ばして音を立てる心配はないのがありがたい。


 しばらく進んで、広い空間のすぐ手前までやってきた。奥をのぞくと、何人かの人影が見えた。


(……7人か。表に出ている見張りを考えても10人くらい。俺とエテルなら十分だな)


 ちらりと後ろを見て、エテルと視線を合わせる。そして「目を閉じていろ」と小声で伝えると、腰から小さな筒を取り外した。


装填(リロード)――)


 筒に【魔法】を封入して、端についたツマミを(ねじ)る。

 そして広い空間の、ちょうど中央を狙って投げつけ、すぐに目をつぶった。

 その直後、まばゆい光が瞬いたことを(まぶた)ごしに感じて――


「ぎゃあぁぁぁぁっ!?」


 という叫びが洞窟に響き渡った。

 俺は2丁目の魔銃を引き抜くと洞窟へと走り込む。


「な、なんだ……ぎゃっ!?」


 顔を歪ませて混乱する男に威力を抑えた〈雷撃弾〉を3発、


「ちくしょおぉっ! ぐぁっ、ぎゃぁっ!」


 目をぎゅっとつぶったまま剣を振り回す女に〈氷雪弾〉を2発当てる。

 盗賊たちは混乱していて、まだ俺たちが2人だけということには気付かれていない。

 しかし――


(やっぱり光だけじゃ効果は薄いか。まだまだ改良の余地ありだな……)


 何人かは武器を手にして、とりあえず応戦の姿勢をとっていた。

 俺が使った道具は、いうなれば【魔法】を使った〈閃光爆弾〉だ。強烈な光を放って相手の視界を奪ったり、混乱させたりすることが狙いだけど、本当なら音と衝撃波も同時に発生しなければ意味がない。


 1発で鎮圧とまではいかなかった。だけど――


「どこ見てるんスか?」

「あ? いまどこから……」


 まばたきを繰り返す男の背後に、音もなくエテルが現れる。そのまま半月状の刃をもつ小型ナイフで男の腕と足を切り裂き動きを止めた。


「くそっ、このチビガキ!」


 近くにいた男が剣を振りかぶってエテルを切りつける。光に背を向けていたのか、その動きは他の強盗に比べるとかなり早い。――でも、それは、


「どこ見てるんすスか?」

「は?」


 エテルにとっては止まっているに等しい速さだ。あっと言う間に背後に回ると、ナイフを首に押し当てて動きを止める。そのまま腿につけたベルトから細い杭を引き抜いて、数歩離れた女に投げつけた。


「がっ!?」


 杭は女の胴に突き刺さる。刺さり方は浅いが、女はそのまま体をガクガク震わせると口から泡を吹いて倒れた。たぶん毒だ。


「はい、オジサンも大人しく寝てるっスよ」


 男からナイフを放したエテルは、そのまま背後から首に腕を回して締め上げる。男はじたばたもがいた後、体から力が抜けてぐったりと倒れた。


 そんな様子を見つつ、俺は物陰に隠れていた男に〈氷雪弾〉を撃ち込んで凍り付かせる。


(これで6人。あと少しだな――)


 そう思った次の瞬間、俺の視界の端でなにかがきらめいた。

読んでいただいてありがとうございます!

閃光音響弾は音(衝撃)もないと効果がないみたいです。


「面白かった!」

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