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第13話 資材と強盗

「この店、俺と共同で経営しないか?」


 という提案に、ロックは、


「やだよ……」


 とあからさまに引いていた。だけどここで引き下がるわけにはいかない。俺は、


「よく考えてくれよ、ここで意地を張っても良いことないだろ? 俺が資材を仕入れて、お前が物を作る。裏方を任せろって話だよ。お前の物作りに口を出す気はないしさ」

「そんなこと言って、どうせ売り上げの大半を持って行こうって腹だろ? お前らのやり方はよく知ってるんだよ。俺は騙されてねぇ」

「そんなことして何になるんだよ。お前が物を作らなきゃ店が続けられない。そりゃ働いたぶんの金はもらうけど、不当に持って行く気はない」


 と誠意を込めて説得する。それでも「でもなぁ」と渋るロックに、俺は、


「だったら、あとでアルカに証人になってもらえばいい。契約書でも作って、俺とお前とアイツで持てばいいだろ」

「……まぁ、それなら……」

「よし、じゃあその方向でいこう。さっきの人が資材の業者だよな? 店の場所を教えてくれ。詳しい話を聞きに行ってくる」


 と話を聞き出して、さっそく街に出たのだった。



 * * *



 学院を出た俺とエテルは、帝都の南にある工業区画にやってきた。いざこざを起こしたばかりのロックは留守番だ。


 工業区の大通りは、資材や商品を載せた馬車が行き交っている。そこから狭い路地が木の枝のように分かれていて、個人の工房が何百も軒を連ねているわけだ。

 といっても、今の目的地は大通りに面した資材屋だ。店の前につくと、用心棒らしき男がジロリと俺を睨んでくる。


「何の用だ? ここは学生が来るところじゃないぞ」

「店主さんに話を聞きたいんだ。最近、資材の買い付けが上手くいっていないんじゃないかと思ってさ」

「それを聞いてどうする。お前のような子どもが、解決できるっていうのか?」

「できるかどうかは、話を聞かなきゃわからないだろ」


 と笑ってみせる。一瞬ぎょっとした用心棒は、


「……わかった、少し待っていろ」


 と言って店に入り、しばらくして店主と一緒に戻ってきた。俺を怪訝そうな顔で見つつ、店主は、


「私がこの店の主だ。君とは初めて会うかな?」

「話すのはこれが初めてだ。ヴィオランス・モータロンドという。こっちは従者のエテル」

「どもっス」

「モータロンドというと、あの辺境伯かね!?」


 と驚きの声をあげた。そして俺の機嫌をとるかのように愛想笑いを浮かべ、


「ええと、ウチの仕入れについて質問があるそうだね。よければ店の奥でお茶でもしながら……」

「いや、ここで十分だ。さっき、学院の店先で学生と揉めてただろ? 資材の入荷量が減ったから卸せないんだって?」

「あれを見ていたんだったら話が早い。最近、強盗のせいで【魔銀】や【魔石】の入荷量が減っていてね」


 と答えた。俺は記憶を探りつつ、


「そんなに大きな被害が出ているなら軍が動くはずだよな。だけど、そんな話は聞いていない気がするけど」

「いや、強盗が出る範囲はそう広くないんだ。軍が警備をしている大きな街道には出ないんだよ。ただ、その道を使うためには通行料が必要でね。これがなかなか馬鹿にならない。いったん仕入れを絞って様子を見てるところなんだ」


 と言って、商人は困ったように顎髭を撫でる。するとエテルが、


「でも帝都につながる道って、たくさんあるっスよね。大きな街道を使わないにしても、ちょっと迂回すればいいんじゃないスか?」

「そしたら強盗が拠点を移動させて、別の道を襲うだけだろ」

「あ、たしかに。根っこを叩かないと意味ないっスね。軍隊は動かないんスか?」

「そもそも警備してる街道を使わないのが悪いって話になってるんだろ。村に被害が出てるならともかく、襲われてるのが行商人だけじゃな」

「薄情っスねぇ」


 と言ってニヤリと笑う。


「店主さん、ウチらが強盗とっちめたら、またその道使えるんスよね? 生徒への資材も今まで通りになるっスか?」

「そりゃそうだ。私だって別に憎くて渋ってるわけじゃない。さっきは売り言葉に買い言葉だったが、金を出してくれるなら客に違いないさ」

「あー、でもウチらが何もしなかったら、高い金払って大きな街道使うか、別の道使ってまた強盗に襲われるか……商売ってのは大変っスねぇ」

「……何が言いたいんだい?」


 と訝しむ店主に、エテルは、


「ご主人がここで買い付けするとき、いい感じの値段にしてもらえないスか? その代わり強盗はきっちり()ってくるし、この店を贔屓(ひいき)にするっスよ。ね、ご主人」

「ああ、そうだな。俺もなにかと入り用だし、いつも使う店ってのがある方が助かる」


 俺の言葉に、店主は腕を組んでしばらく考え込む。そして、


「……わかったよ。辺境伯の家と繋がりができるのは悪くない。その代わり、きっちり頼むぞ」


 とうなずいた。ことの成り行きを黙ってみていた用心棒が、


「だが、本当に大丈夫なのか? 荷馬車には護衛をつけていたが、全員殺られたって話だ。辺境伯の息子ってなら、騎士かなんか連れてった方がいいぞ」


 と忠告してくる。俺とエテルは笑って、


「いや、2人で十分だよ」


 と返した。そして荷馬車が襲われた場所を教えてもらい、その場を後にしたのだった。

読んでいただいてありがとうございます!

聞き込み→野外探索ってサブクエの王道だよね。


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