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第12話 悪役貴族の仕事探し

 入学してから1月あまりが経った。相変わらず〈カッパー〉クラスでは孤立気味で、シロンたちとアルカを除いたクラスメイトとは、ほとんど言葉を交わしていない。しかも――


「げ、モータロンドだ。あっち行こうぜ」

「ああ。ケンカ売られても困るしな」


 と他のクラスの生徒にも露骨に避けられる毎日が続いている。


(独りだったら不登校になってたな……)


 なんて心のなかで呟きながら、俺は新校舎の廊下を歩いていた。そんな俺の隣で、


「ご主人、あの連中ちょっと処してくるっス」


 とエテルが人殺しの目つきをしていた。俺は慌てて、


「やめろやめろ。今度こそ退学になっちまう」

「大丈夫っスよ! きっちり事故に見せかけるんで。暗殺の基本っス♪」

「そういう問題じゃねぇ」


 たぶん本気で言ってるところが怖い。俺に白い目を向けてくるやつを片っ端から消してたら、学院の生徒が7割くらい減っちゃうだろうが。


「ところでご主人、どこに向かってるんスか?」

「ちょっと店がある辺りをぶらぶらしようと思ってさ」

「店? ここ学校のなかっスよね?」


 なんて話しているうちに、教室が並ぶ区画が終わって、小さな店が建ち並ぶ市場のような場所にやってきた。

 学院では、学生が自分の店を持つことが許されている。【魔法工学】や【魔法薬学】のような専門技能を修める学生が、自分の製作物をほかの生徒に売って研究資金を稼ぐわけだ。


(ゲームだと装備品を集めるために走り回ったっけなぁ……)


 俺は懐かしい気持ちに浸りつつ店を見て回る。とはいっても、なにか欲しいものがあるわけじゃない。目当ては店先に出ている張り紙のチェックだ。

 そんな俺に、学生の1人が話しかけてくる。


「なにか探してるのか?」

「商品じゃなくて、アルバイト……いや、店員を雇ってくれるところを探してるんだ」

「あぁ、お手伝いさんね。ウチは商品の仕入れとか手伝ってくれるヤツを――」


 と言って、学生が俺の顔をまじまじとみる。精一杯の笑顔を浮かべてみたら、


「ひぃッ! ないない、ウチは人手足りてるから!」


 と慌てて店に引っ込んでしまった。そんなにダメか、俺の笑顔。


「ドンマイっス、ご主人。つか、仕事探してるんスか? どして?」

「なにかと金が入り用なんだよ。仕送りのおかげで生活には困ってないけど、魔銃の部品代とか、工房の賃料とか、自分で稼がないとな」

「シロンが聞いたら卒倒しそうっスね。ご主人さまに働かせるなどと~! とか言って」

「だからシロンが筋トレしてる時に来たんだよ」

「ハトリは隠しごと苦手ですしねぇ。すぐシロンにバレそうっス」

「そうそう。だから書庫で資料集めを頼んでおいた。できれば今日仕事を決めて、あとは既成事実で押し通すつもりだ」


 と計画を明かすと、エテルは、


「にししっ、ウチは信用されてるってことスかね?」

「エテルはその辺、けっこう考えが柔軟だからな」

「お目が高いっスね。初任給でいいモン食べさせてほしいっス」

「あれ、俺ひょっとして脅されてる?」


 やいのやいのと話しつつ、店を見て回る。

 だけど、残念なことに手伝いを探している店はあまり無かった。見つけても、俺の顔を見てすぐに「お前は無理!」と拒否されてしまう。


(なんかバイトの面接に落ちまくった時のことを思い出すな。きつい……)


 と、〈前世〉のトラウマを刺激されて気持ちが沈み込んだ、その時――


「ふざけるな! ナメてるんじゃねえぞ!」


 聞き慣れた大声が一帯に響いたのだった。



 *  *  *



 エテルと一緒に声がした方へ行ってみると、そこではクラスメイトのロックが、校外の業者らしき男の胸ぐらを掴んでいた。ロックは、


「資材がねぇってならともかく、ほかの生徒に卸して、俺のところに持ってこねぇってのは、筋が通らないんじゃねぇか? あァ?」

「ち、ちがう! 本当に入荷の量が減ってるんだ。付き合いが長くて金払いのいい相手に売るのが当然だろ? な?」

「そりゃあ、つまり貴族の坊ちゃんに売って、平民には売らねぇってことだろうがよ……クソッ」


 と、悪態をついて男を突き放した。男は、


「はっ、そうだよ。お前みたいに親の教育がなってないヤツが多いからな」


 と言って足早に去って行く。それを見送って、ロックは「やっちまった……」と天井を仰いで溜息をついていた。

 俺はそんなロックに近づくと、


「どうしたんだよ」

「うぉっ、貴族サマじゃねぇか。見てたのかよ」

「ああ、バッチリな。ていうか、ここお前の店なの?」


 と言って、ロックが立つ一角に目を向ける。そこには、数は少ないが、剣やナイフや杖などの装備が壁にかけられていた。奥には作業台もある。


(ロックが店を出すなんて、ゲームにはなかったな)


 と考えて、その理由に思い至る。


「……アルカだろ。あいつに何かアドバイスされたんじゃないか?」

「お前、どうしてそれを……」

「なんとなく。お前の武器なら十分に金取れるもんな。ここいらじゃ――」


 と言って、俺は周りの視線に気がつく。今さっきの騒ぎと、俺という問題児と、平民で最底辺クラスのくせに店を出したロックという組み合わせが、ずいぶんと周りの興味を引いているらしい。


「あー、店の中に入れてくれない? さっきのこと、少し聞きたいんだけど」

「なんでお前にそこまでしなきゃ……」


 と渋るロックの首筋に、そっと剣先が食い込む。店先に並んでいた剣を、いつの間にか手にしたエテルが、


「あン? ご主人の気遣いを断ろうつーわけスか?」

「わかった、わかったよ! その剣演習用じゃねーんだよ、本当に死ぬから下ろしてくれ!」

「わかりゃいーんスよ♪ さ、ご主人。狭いとこスけど、どうぞどうぞ」

「なんでテメェが案内してんだよ! あと狭いは余計だ!」


 というわけで、俺たちは店の奥の作業台を囲んで話を聞くことになった。

 作業台の下には、武器を加工するための道具が置かれている。だけど、いろいろな機能を付与するための【魔石】や【魔銀】などの素材が見当たらない。


「……ふん、その様子だと、俺の説明は要らないんじゃねェか?」

「さっきのやりとりと合わせれば、な。基礎になる武器は実家の鍛冶場で作って、ここで加工をしてるって感じか。だけど、加工に必要な素材が入ってこない」

「テメェ、ウチの実家のことまで知ってるのか。なんなんだよ……」

「ちょっと調べ物が得意なだけだよ。実家は頼れないのか?」


 俺の質問に、ロックは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。しばらく黙ったあと、


「親父も最近は資材の仕入れに苦労してるらしい。それでも有るには有るが……頼りたかねェ」


 と言って頭を掻いた。

 たしかロックは武器職人の父親と仲が悪いんだったか。仲直りはもう少し先の時期のイベントだったような記憶がある。

 つまり、ロックは今のところ孤立無援ってことになる。少し考えて、俺は、


「なぁ、資材の仕入れのこと、なんとかしてみるよ」


 と提案してみる。


「はァ? いいよ、貴族サマの慈悲なんざ受けたくもねェ」

「慈悲なんかじゃない。取引だ。資材の件が上手くいったらさ――」


 俺はできるだけ爽やかな笑顔で、


「この店、俺と共同で経営しないか?」


 と提案した。

読んでいただいてありがとうございます!

そもそも笑うの苦手ならバイトできなくない?

それは言っちゃいけねぇ。


「面白かった!」

「続きが気になる!」


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