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第11話 大事な人のために

 俺はアルカに白状した。

 アオイとの婚約を止めるために、あの子を焚きつけたこと。

 そのとき、アルカが言うはずのセリフを使ったこと。

 それから、アオイの辞書から自重とか忖度とかの文字が消えたこと。


 アルカは俺の話を黙って聞き終えて、


「……ハァ。そういうことか。安心したよ」


 と息を吐いた。俺は正座で痺れた足をさすりつつ、


「……怒らないのか?」


 と尋ねる。アルカは苦笑いを浮かべて、


「僕の言葉を使ったのはちょっと腹が立つけど、それ以外は別に。親や婚約者に遠慮してるより、自由に生きてる方が、よほどいいよ。皇帝の座を狙うっていうのはビックリしたけどね。大丈夫なのかな……」

「アイツも周りが敵だらけってことは分かってるよ。だから〈強い仲間〉を探してるって言ってた。今のアルカならいい線いけるんじゃないか?」

「えっ? そ、そうかな……でもなぁ……」

「だってお前、実力はもう上級生のトップ層くらいあるだろ」


 と指摘するが、アルカはなんか難しい顔をして考え込んでいる。

 その理由を考えて、俺は――


「お前さ、もしかして話しかける理由が無いとか思ってる?」

「ど、どうしてそれを!?」

「ちょっと考えれば分かるだろ。だって、お前がアオイと知り合うきっかけって、俺がアイツに酷いこと言ってるのを見かねて、割り込んでくるんだもんな」


 と、【熾天のレギオン】を思い出しながら言った。たしか入学2日目くらいに発生する強制イベントで、ヴィオランス・モータロンドとの初戦闘にもなる。

 俺とアオイは婚約者でもないし、仲も悪くない。アルカがアオイと知り合うきっかけは、このままだと永遠に起きないことになる。そこに思い至った俺は、


「そのうち紹介するよ。そっから自分で仲良くなればいいだろ?」

「そんな簡単に言われても……」

「大丈夫大丈夫、アルカならいけるって」


 と励ました。原作主人公カップルなんだから、なんだかんだ上手くいくだろう、たぶん。というか――


「やっぱ、お前ってアオイのことが好きなのか?」

「いっ!? す、すすす、好きというか、大事というか、かけがえのない人というか……」


 だんだん声が小さくなっていく。しばらく黙ったあと、アルカは、


「最初に出会った時――1回目の学院生活でさ、アオイは僕をかばって死んだんだ。僕はそれが悔しくて、悲しくて、彼女の仇をとるために戦い続けた。結局、卒業前に死んじゃったけどね」


 そう言ってどこか遠くを見つめ、


「何回繰り返しても、僕が先に死ぬか、アオイが目の前で死ぬんだ。いつも〈これで最後にするんだ〉って思いながら生きてるけど、なかなか上手くいかないや」

「……そっか。ごめん、茶化すようなこと言って」

「ふふっ、君にそんなことを言われるなんて思わなかったよ」


 と言って、2人で顔を見合わせて笑った。


 それからしばらく、俺たちはお互いが知っていることを照らし合わせた。アルカの知識は俺が持つゲームのプレイ経験と大きく変わらず、かえって俺がいる今の〈周回〉の異質さが浮き彫りになったようだった。

 アルカはじっと何かを考えたあと、おもむろに、


「もしかしたら、今が最後のチャンスかもしれない」


 と言った。俺が言葉の意味を貼りかねていると、


「これまで僕が〈死んでやり直している〉なんて言って、信じてくれる人は1人もいなかったんだ。だけど、今は君がいる。僕のことを理解してくれて、僕よりいろんなことを知っている君がいれば、今度こそアオイを守れるかもしれない」

「俺に協力しろって?」

「そうじゃなきゃ、僕を家に呼んだりしないでしょ?」

「まぁな。俺もお前がいろいろ助けてくれると、とてもありがたいよ」

「うん。僕にできることなら。あ、でもその前に……」


 と、アルカが真剣な表情になる。そして俺に向かって、


「君の目的を確かめなきゃいけない。君は、僕がこれまで会ってきたヴィオランス・モータロンドと全然違うことはわかる。でも、なにを目指しているのか教えてほしい」


 と問いかけてきた。それだったら誤魔化すことは何もない。俺は、


「シロンとエテルとハトリのためだよ。あいつらが安心して生きていける場所を作りたい。そのためなら、どんな努力だってする」


 とはっきり答えた。アルカは目を丸くして、


「……びっくりした。なんかすごく優しいなって思ってたけど、そこまで大事にしてるなんて。いつもの君は――」

「知ってるよ。あいつらを道具みたいに扱ってるんだろ? 俺はそんなのイヤだ。だって大事な家族なんだ。子どもの頃から一緒でさ、母上が死んだ時も一緒に泣いてくれたんだぜ。まだまだ情けないとこばっかりだけど、あいつらのために立派な主人ってのになりたいんだ」

「そっか……うん、やっぱり君となら頑張れる気がする」


 そう言ってアルカは俺に片手を差し出した。


「大事な人に幸せでいてほしい。その想いは一緒だし、きっとそれが実現する世界は同じ姿をしてると思うんだ。僕はもっともっと強くなる。そのために君の力を貸してくれ。僕も君が目指す世界を作るために、力を貸すよ」

「――ああ。最高の協力者だよ、お前は」


 俺はその手を握る。こうして俺たちは密かな同盟を結んだ。自分たちの大事なものを守るため、理不尽や運命をぶっ壊すための、2人だけの同盟だ。


 それから、すっかり温くなった紅茶を飲みつつ、俺たちはこれからの方針を話し合った。まずは俺とアルカの実力を伸ばす成長(ビルド)方針。それから、絶対に乗り越えなければいけない障害(イベント)について……


「やっぱり1年後の昇級テストだね。6回とも、あのタイミングで〈魔神〉を復活させる儀式が起きる。学院中が戦場になるよ」


 〈魔神〉――大昔に神々との戦争に敗北し、この世界の大地に封印された存在だ。帝国内には〈魔神〉を信奉する教団があって、学院内にも根を張っている。

この〈魔神〉信奉者との戦いが【熾天のレギオン】前半の主軸になっている。


「俺の持っている知識と同じだな。1回も阻止はできなかったのか?」

「やろうとしたけど、できなかった。毎回儀式の場所も黒幕も違うんだ。君は絶対に敵になって襲ってきたけどね」

「今回その要素はナシだから安心してくれ。ただ、黒幕は地道に調べて絞り込むしかねぇな。あとは信頼してくれる仲間を増やして、万が一の状況を上手く乗り切る算段をつけておく、だな」

「どっちにしても昇級テストには合格しなきゃいけない。〈カッパー〉クラスのみんなに成長してもらう必要があるね」

「だよなぁ……気が重いぜ」


 アルカとは仲良くなれたが、残りの連中とはどう接すればいいのやら。

 もしかしたら、一番の問題は俺のコミュニケーション能力なのかもしれない。

 そんなことを思いながら、冷たい紅茶をすするのだった。

読んでいただいてありがとうございます!

原作主人公と同盟を組んで新規ルート開拓です。

そして男友達1号ができました。よかったねヴィオランス。


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