第10話 原作知識とループもの
朝から夕方までぶっ通しの自習が終わり、俺は家にもどってきた。
もちろん1人じゃない。3人のメイドとお客さんも一緒だ。
「おかえりなさいませ、ご主人さま。お客様も、ようこそお越しくださいました」
一足早く家に入ったシロンたちが、メイド服で出迎えた。
扉が閉まってから出てくるまで、約10秒。どうやったらその短時間で着替えができるのか、俺にもさっぱりわからない。
丁寧に一礼する3人に、アルカは軽く会釈する。居心地が悪そう……というか、完全に気味悪がっていた。
「お、お邪魔します……」
「応接間にご案内いたします」
「いや、俺の部屋に行くよ。こいつと2人きりで話がしたいんだ」
「は……承知しました。では後ほどお茶をお持ちします」
「よろしくな」
シロンに軽く手を上げて、俺は自分の部屋に向かう。
父上が帝都に用意してくれた家は、貴族の邸宅にしては小さな一軒家だった。
二階建てで庭もついているが、部屋の数はそんなに多くない。
〈前世〉で暮らしていた家より、一回り大きいくらいだろうか
(これくらいが逆に落ち着くというか、4人で暮らすには丁度いいんだよな)
二階に上がって自分の部屋に入ると、机の脇に鞄を置いて、椅子を引いて半回転させた。
「アルカは椅子を使ってくれ」
「あ、うん……」
俺がベッドに腰を下ろすと、アルカも緊張した様子で椅子に座る。
「どうしたんだよ。さっきからキョロキョロして」
「いや、その……いろいろ驚きっぱなしで。ヴィオランス・モータロンドの家に呼ばれるなんてさ」
「まぁ、そうだよな。お前、目の敵にされてたもんな」
「ほんと、わけがわからない。いったい君はどうしたんだ? 僕の何を知っている?」
アルカは俺をじっと見ながら言う。
演習場でかけた言葉が、ずっと気になっていたんだろう。
さっさと本題に入るのは、俺としても望むところだ。
「まずはお前のことについて教えてほしい。お前、何度か死んで入学日あたりに戻ってるだろ」
「……そう思う根拠は?」
「俺が〈カッパー〉の教室に入った時と、模擬戦を申し込んできたときの言葉だよ。お前は〈貴族が最底辺クラスにいる〉ことじゃなくて、〈ヴィオランスがカッパーにいる〉ことに驚いてただろ」
いるはずがない人間がいる。それに驚くためには、いないことが正常だと知っていなければいけない。
つまり、このアルカは〈ヴィオランスがいないカッパークラス〉が正常だと知っている、ということだ。
「それから、模擬戦で見せたお前の実力。ありゃよほど実戦を重ねないと身につかないよな。それから、魔銃はまだ新しい武器なのに、対処にも慣れてた。その理由は、魔銃が今よりは普及した世界で戦った経験があるからじゃないか?」
俺と同じ〈転生〉かとも思ったけど、だったら俺にあそこまで敵対心をむき出しにする理由がわからない。逆に〈何度もイヤな目に遭わされている〉と考えると納得がいく。
そして最後の理由が、【熾天のレギオン】の〈データ引き継ぎ〉要素だ。あのゲームはキャラの死亡率が高い代わりに、アルカが死ぬと〈そのまま進める〉か〈今のデータを引き継いで最初から始めるか〉を選べる。
つまり根気よく何度も遊べば、序盤から最強の主人公で無双できるわけだ。
模擬戦で見せた強さも、〈成長を引き継いでニューゲームしている〉と考えるとしっくりくる。
まぁゲーム云々は話しても混乱させるだから説明しないけどね。
「……というわけで、お前がループしてるんじゃないかと思ったんだ」
「るーぷ?」
「あー、ええと……ほら、輪を描くみたいに、死んだら特定の時間に戻るってこと」
いまの反応で〈転生〉説は完全に消えたな。
そんなことを考えていると、アルカが大きく息を吐いた。
「はぁ……君の言うとおりだ。僕は何度も死んで、そのたび入学の前日に戻ってる」
「何回?」
「6回。今が7回目ってことになるね」
「けっこう死んだな……」
「1回は君に殺されたし、1回はシロンさんにやられた」
「あー……それは、なんかゴメン」
ヴィオランス・モータロンドは〈かませ犬〉の悪役だけど、なめてかかると死ぬこともある。俺もゲームで何回か負けた。
「まぁ、君が謝ることはない……のかな? どうなんだろう。わけがわからなくなってきたよ」
コンコン。
そんな話をしていると、部屋の扉がノックされた。
開けるよう促すと、トレーを手にしたシロンたちが部屋に入ってくる。
ティーセットと焼き菓子が乗っているのを見て、なんだか〈前世〉の幼い頃、友達が遊びにきた時のことを思い出した。
「会食用の机もお持ちしましょうか?」
「いや、いいよ。俺の机の上に置いといてくれ。適当にやるから」
「かしこまりました。なにかご用があったら、お呼びください」
「うん、ありがとな」
部屋から出るシロンたちを目で追って、アルカは小さく息を吐いた。
1度殺された相手が近くにいるのは、どうにも落ち着かないみたいだ。
「じゃあ、次は僕の番だよ。君はいったい何者? 本当にヴィオランス・モータロンドなの?」
「そうだよ。生まれてから、ずっとヴィオランス・モータロンドだ」
「……僕が知っている君は、もっと傲慢で、プライドが高くて、乱暴で、女好きで、ねちっこくて、シロンさんたちにも平気で手を上げるようなヤツだよ」
ひどい評価だな。
まったく間違ってないけどさ。
「でも俺は全然違う?」
「まるっきり別人だよ。君はなんていうか……その、いいヤツっぽい。それに、アオイと婚約してないし、〈カッパー〉にいるしさ。本当に、どういうことなんだ?」
「そうだなぁ……」
どう説明したもんか。
ゲームだとか〈前世〉のことを話しても、きっと理解できないだろう。嘘にならない程度にぼかした方がよさそうだ。
「お前と似たような感じだよ。どうしようもないバカでクズに成長して、惨めに死ぬことを生まれてすぐに知った。だから、そうじゃない生き方をしようと思って、いろいろ頑張ってる」
「……そんなこと、ありうるの?」
「人生繰り返してるアルカに言われたくねぇよ」
オマエの方がよっぽど反則だろうが。
「俺は自分の死に様だけじゃなくて、この世界全体のこともいろいろ知ってる。未来に起こるかもしれないことも、な」
「未来!?」
アルカが立ち上がる。
「じゃあ、どうすればアオイが死なないのか、君は知っているのか!?」
その切実な表情を見て、俺は少しほっとした。
アルカは自分よりもアオイや他のヤツを大事にする主人公だ。俺が1000時間も同じゲームで遊べたのは、そんなコイツのことが嫌いじゃないってのも大きな理由だった。
……同時に、申し訳ない気持ちにもなる。
「……悪い。確実な方法はない。この国では、いつ、どんな事件が起きるか分からない。それを全部阻止したり、アオイから遠ざけるのは不可能だ」
「そう……」
「しかも、アイツ皇帝の座を狙ってるからな……」
「は? 皇帝!? なんで!?」
「それは……その、なんだ……」
「そもそもさ、なんで婚約してないわけ? 知ってることがあるなら、聞かせてくれない? 少しでも彼女の力になりたいんだよ!」
ぐぬぬぬぬ……誤魔化したい。
だけど、あの怪物を生み出してしまった責任感と罪悪感もある。
数秒考えて――
「すまんかった!!」
とりあえず土下座することにした。
読んでいただいてありがとうございます!
1部ラストのツケが回ってきました。
好きな子が目グルグル皇帝系女子になってたら驚くよね。
頑張れアルカ。
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