第9話 vs原作主人公(チート疑惑)
「君はいったい何を企んでいる? 答えろ、ヴィオランス!」
鍔迫り合いのような姿勢のまま、アルカは俺に問いかけてくる。
「なにも企んじゃいねぇ……よ!」
「くっ……!」
俺は体をひねって、アルカの体勢を崩す。そのまま数歩下がって2丁の魔銃から〈火炎弾〉を発射。ダメージを与えるんじゃなくて、相手の動きを止めるための弾幕だ。
防御に回って足が止まればよし。何発か当たれば儲けもんだ。
「この……っ!」
(避けやがった! ウソだろ!?)
アルカは大きく真横に跳んで弾幕から逃げた。銃口で追うけど、捉える前に装填していた【魔法】を撃ちきってしまう。
俺が知るなかで、エテルが一番高い瞬発力を持っている。アルカはそれに匹敵する身のこなしを見せていた。
とてもじゃないが、入学初日の新入生って動きじゃない。
(くそっ! チートでも使ってんのか!?)
魔銃に次の【魔法】を装填しつつ、俺は思考を巡らせる。
【熾天のレギオン】の主人公アルカは、初期のステータスがとても低い代わりに、レベルアップ時の成長幅が大きい。そして、成長する【能力値】をプレイヤーが決められるから、自分好みのユニットとして育てられる特性がある。
(入学前にどこかで特訓してきた……とか?)
可能性としてはあり得る。俺の行動でアオイの性格が大きく変わったように、この世界の〈現在〉は、ゲームの序盤と大きく異なっている。
だったらアルカが入学前にどこかで双剣を学んでいてもおかしくない。
(落ち着け、俺。だったら認識を改めればいい。相手は熟練の双剣士だと思って、行動を予測しろ――!)
魔法を撃って牽制しつつ、〈前世〉の記憶から双剣使いの特徴を思い起こした。
長所はスピードと手数。その代わりリーチが短く、技を連発するから【魔素】の消費もはげしい。
(狭くて障害物がない場所で短時間の模擬戦だと、アルカが有利すぎるな!)
もう少し条件に気を遣えばよかった……なんて考えはない。
不利な状況で戦うことなんて、この先数え切れないくらいあるだろう。だったら、使える手札で対抗する経験を、できるだけ多く積んだ方がいい。
(あいつらが見てる前で、かっこ悪い負け方はできねぇんだよ……!)
負けて困ることはないが、俺にも主人の意地ってもんがあるからな。
「〈加速〉――!」
自分に【付与魔法】をかけて瞬発力を強化。そのまま魔銃に【魔法】をありったけ装填し、俺は前に突っ込んだ。
「接近戦だって!?」
はじめてアルカの顔に驚きが浮かんだ。
一瞬だけ動きを止めたスキを見逃さず、俺はアルカの移動経路を断つように【魔法】を撃ち込んだ。
学級試験でライリア先輩にやったことと似ている。違うのは、俺が自分から距離を詰めていることだ。
「ここは僕の間合いだ!」
アルカが双剣を構える。
左手の剣は前に出して俺を牽制しつつ、右手で有効な一撃を狙う。
すぐ防御の構えに移るあたり、本当に双剣を使い慣れているようだ。
どんな戦いをくぐり抜けてきたのやら――
「あぁ、そうだろうよ!」
俺は【魔法】の発射を止め、魔銃を構えたままアルカの至近距離に踏み込んだ。
(まだだ! もっと深く!)
アルカが前に突き出していた剣を魔銃で払う。
さらに一歩踏み出す。振りかぶっている剣で刺されないよう、アルカの肘の内側に腕を当てた。
俺とアルカは完全な密着状態になった。アルカの剣は近すぎる俺に当てられないし、俺の魔銃の銃口はアルカから逸れている。
お互いに何もできない状態を続ければ、時間切れで引き分けだ。
(……なんて、思うわけねぇだろ!)
俺は片腕でアルカの腕を絡みとり、さらに片脚を深く踏み込んで相手の膝裏に回す。そして体を反転させ――
「うおぁぁっ!?」
投げた。
アルカは半回転して背中から床に激突する。
「がはっ!」
衝撃にうめく相手の胸に1発、頭に1発。威力を抑えた〈雷撃弾〉を撃ち込んで、模擬戦終了。
かなりヒヤヒヤしたが、俺はなんとか勝利を手にした。
ひと息ついてアルカを見下ろす。
「ぐっ、ぁ……」
雷撃で体がしびれているのか、起き上がれないまま俺を睨みつけている。
「アオイに……なに、した……?」
「別に何もしてないんだけど……」
そう口にしたとき、俺の頭にある考えが浮かんだ。
(……あり得るのか? だけど、こう考えると全部の説明がつく……)
他のクラスメイトたちが「すげぇな」「パねぇじゃん」とか言いつつ近づいてくる。
俺はその場に膝をつき、アルカの耳元で囁いた。
「アルカ・シエルアーク。お前、何回目だ?」
その言葉を聞いた〈主人公〉の目は、驚きで大きく見開かれていた。
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転生主人公&原作主人公。
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