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第2話 アオイの野望

「ヴィオランス! 久しぶりですね!」


 アオイは周囲の目を気にすることなく、俺たちの方へ一直線に、ずんずんと歩いてきた。深い蒼色の髪が風でなびく。ぴんと伸びた背筋に、あの日俺の後ろで怯えていた少女の面影はない。


「久しいつっても、1年ぶりくらいだろ」

「でも、〈女子3日合わざればビックリして見ろ〉と言うではないですか!」

「うん、いろいろ間違ってるな」

「細かいことは気にしちゃダメです! ヴィオランスはまた少し背が伸びましたね。あと体つきも少し大きくなったような……ふむふむ」


 顎に指を当ててジロジロと俺を眺めるアオイ。その顔を眺めながら、俺は心のなかで溜息をつく。


(……完全にゲーム終盤の女傑モードに入ってるな……)


 俺の言葉でふっきれたアオイは、親族の前で叔父が自分にしたことを洗いざらい話し、見て見ぬふりをしていた両親を問い詰めた。

 そして身勝手な当主に不満を抱いていた親族をまとめ、強引にカエルレルム家の実権を握った。

【熾天のレギオン】の帝位簒奪ルートに入ると、アオイはこんな風に堂々とした性格に変わる。これはこれで当人にとっては悪くないこと……かな?


「シロン、エテル、ハトリ。貴方たちも元気そうで何よりです」


 アオイに言葉をかけられ、3人は軽く頭を下げる。

 カエルレルム家をまとめたあと、彼女は何度かモータロンドの屋敷へ遊びに来ていた。俺にとっては数少ない友だちの1人で、メイドたちとも気安く言葉を交わす仲だ。


「シロンは……よく鍛えているようですね。立ち方で分かりますよ。なにか新しい鍛錬方法でも見つけましたか?」

「はい。体の外側ではなく、内側を重点的に鍛えるよう心がけています。体重が増えると動きが鈍くなって、相手を間合いに入れるための踏み込みが遅くなりますから」

「なるほど。戦う者としての合理的な鍛え方ですね!」


 この2人はいわゆる筋トレ仲間で、いつも会うたびトレーニング情報を交換し合っている。


「ハトリは……」

「はぁい?」


 アオイの視線がすいっと下がる。


「……前よりもすごいことになっていますね……」

「よくわかんないけど、ありがとうございまぁす」

「エテルは変わりませんね。なんだか安心します」

「え、ウチだけなんか煽られてません?」


 帝室に連なる大貴族の令嬢と気安く言葉をかわすメイドたち。これで少しは、俺たちの社交性ってものを、他の学生たちに理解してもらえるだろう。


 周囲をチラリと見てみる。


「アオイ様とお知り合いだからって調子に乗りやがって……」

「お前がすごいんじゃない。アオイ様がすごいだけってことを分かれよ」

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ」


 生徒たちが俺に向ける視線には、妬みとか憎しみとか、その他いろんなものが込められていた。

 やだもう帰りてぇ。

 俺が思わず膝を抱えそうになったとき、【魔法】で音量を上げた声が広場に響き渡った。


「この後、所属学級(クラス)分けの試験を行います。新入生は着替えて屋外演習場に集合してください」


 この学院では、入学後の試験で〈どのクラスに所属するか〉が決まる。成績上位者のクラスは充実した指導やいろいろな優遇を受けられて、成績下位のクラスは〈できそこない〉として蔑まれる。2年間の学院生活を左右する、とても重要なイベントというわけだ。


 アナウンスを聞いた学生たちが、教員の指示に従って更衣室がある校舎へと移動していく。しかしアオイが動く様子はない。


「……あぁ、そうか。大貴族は試験なしで最上位学級(アダマス)だっけ」

「不本意ながら。生まれ育った家と本人の実力は関係ありません。ほんとに馬鹿げた制度です」

「どうだろうな。アオイなら実力でも最上位学級に入れそうだけど」


 俺は思わず苦笑いを浮かべる。

 ゲームにおけるアオイの最終的な性能(スペック)は、全キャラクター中トップクラスだ。親という鎖から一足早く解き放たれた彼女は、入学初日(ゲームスタート)の段階でもう終盤並みの力を持っていると考えていい。

 文武の実力も、発言力も、下手をすれば帝国で5本の指に入るだろう。


「ふふふ、私は貴方にも期待しているんですよ」


 不意にアオイが体を寄せ、俺の顔をのぞき込んできた。

 口元は笑みの形に曲がっているが、それは形だけだ。その目は瞬きもせず、俺の心の底()を覗いているかのように、じっと見つめてくる。


「私は皇帝の座を狙っています。そのためには強い仲間が要る。貴方の大事な侍従たちを守るために、この学院で力をつけてください。そしていつか、私に力を貸してくださいね」

「……あ、あぁ……」

「ふふふ、よろしくお願いしますね。ヴィオランスさん」


 アオイは(きびす)を返し、野外演習場の方へと去って行った。

 気がつけば、俺の背中は冷や汗でびっしょり濡れていた。


 怖っ! なにあれ、怖っ!?

 女の子がしていい顔じゃなかったぞ。完全にラスボスの風格だったってアレ!


(俺、本当にとんでもない怪物を生み出しちゃったかもしれない)


 ごめんな、これからアオイに出会うだろうゲーム主人公。せめてお前の恋路に幸があることを願っているよ。


 心のなかでまだ出会ってもいない少年に詫びつつ、俺は3人と試験の準備に向かうのだった。


読んでいただいてありがとうございます!

目がぐるぐるしてる女の子は好きですか?

私は大好きです。


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