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第1話 悪役貴族は学校が怖い

 煉瓦造りの街並みを、さわやかな風が吹き抜けた。

 新しい制服に身を包んだ学生たちが、美しい装飾がほどこされた正門をくぐっていく。あいつら、これから始まる学院生活をドキドキと楽しみにしているんだろう。


 そんなアオハルな光景とはほど遠い、植え込みの日陰で――


「う゛う゛ぇぇぇ……きもぢわるい……」


 膝を抱える17歳の男子、ヴィオランス・モータロンド。つまり俺。

 心臓はバクバクいうし、足は動かなくなるし、吐き気はするし、めまいはするし、ほとんどパニック状態だった。


「ご主人さま、どうかご無理をなさらないでください。ご体調が優れないなら、自宅に戻って休むべきかと……」

「い、いや、大丈夫。大丈夫だシロン。頑張ればいける、頑張れ、頑張れ、頑張れ……」


 俺は今日から帝都にあるソフィエンティア士官学院の学生になる。

 ここは〈前世〉でやりこんだゲーム【熾天のレギオン】の舞台になる場所だ。着いたらテンションが上がっちゃうんだろうなー! はしゃいで目立たないようにしなきゃなー!


 ……なんて考えていた時期が、俺にもありました。


(学校……行かなきゃ……頑張らなきゃ……)


 〈前世〉で何度も見た光景がフラッシュバックする。

 校門から見える校舎。楽しそうに騒ぐ学生たち。アオハルでキラキラした学生生活。

 でも、そこに俺の居場所はない。なにをしてもバカにされて、仲間はずれになって、笑われて、惨めな気持ちで家に帰るだけ。


 我ながら情けないことに、〈前世〉のトラウマは2度目の人生にもしっかり響いていた。こんな引き継ぎ要素は要らないってのに……。


(ここで逃げたら〈前世〉と同じじゃないか……俺はここで勉強して、強くなって、シロンとエテルとハトリが幸せに生きていける場所を作るんだろ……!)


 すー、はー、と深呼吸する。

 足は……動く。よし、立ち上がれる。

 気分は最悪だけど、動けないほどじゃない。学校なんか怖くないってところを見せて、従者を安心させてやらなきゃな。


「ご、ごごごめん、ししし心配かけたたたななな」

「言えてないっ! 言えてないっスよご主人!」


 ダメだった。


「もうちょっと深呼吸しよぉ。ほら、吸って吸って吸って~……吸って~」

「ご主人さまを破裂させるつもりですか?」

「すうぅすうぅすうぅ……すうぅぅぅ……」

「ホントにやってるっス!?」


 という感じでいつものやりとりをしていると、いくらか気分が軽くなってきた。まだ少し吐き気がするけど、心臓のドキドキはだいぶ治まってきている。


「……ごめん、今度こそ大丈夫だ。心配かけたな」


 待っていてくれたメイドたちに、あらためて礼を言う。3人は俺と同じように、士官学院の制服に身を包んでいた。


(それにしても……こうやって見ると、みんな成長したよな)


 シロンはだいぶ背が高くなって、すらりとした印象が強くなった。長い灰色の髪は後ろで束ね、いわゆるポニーテールの形で垂らしている。〈そうあるべし〉と努めているのか、表情の変化は昔よりさらに分かりにくくなった。俺は付き合いが長いからわかるけど、知らないヤツから見れば、ほぼ無表情なんじゃないだろうか。


 エテルは相変わらず小柄だが、健康的で活発な印象だ。金色の髪はやや短めに整えつつ、右目を前髪で隠している。理由を訊いたら「いざって時のため」らしい。昔から明るいやつだったが、ここ数年でさらに表情がくるくる変わるようになった。見ていて楽しい。


 一番変わったのはハトリかもしれない。

 森で出会った頃は細くて背もそんなに高くなかったが、シロンを追い越して3人で一番高くなった。そして体つきも変わって、いまや3人で一番〈出るところが出ている〉。常人とは違う両眼は、やはり他人からあまり見られないよう、普段は伏し目がちにしている。


 ……と、そこで俺はようやくあること(・・・・)に気がついた。


「もしかして……お前らも緊張してる?」


 3人とも、スカートの裾を触ったり、胸元のリボンを弄っていたり、校門をくぐっていく学生の様子を目で追ったり、普段より少し落ち着きがない。いつも冷静なシロンですら、どこか表情が硬い。


「……まぁ、ちょっとだけ。学校に行くのなんて、はじめてっスからね」


 ほかの2人もエテルの言葉にうなずく。たしかに、3人とも同じような歳の連中がたくさんいる場所に通うのは初めてのことだ。


(そりゃ不安にもなるか……)


 それでも、こいつらは俺のことを心配してくれていた。

 そう思うと、なんだか心に重くのしかかっていたものが、少し軽くなったような気がした。


「よし、行こう。入学式が始まっちまう」

「かしこまりました。そうだ、その前に――」


 シロンが鞄からなにかを取り出す。

 円形の水晶がついた、小さな箱のような映写記録用の【魔法具】――いわゆるカメラだ。


「せっかくですから、記録をとりましょう」

「マジか……写真に映るの苦手なんだけど」

「でも、思い出になるよぉ。あたしは一緒に撮りたいなぁ」

「ウチもウチも! あ、そこの警備員さん、写真撮ってほしいっス!」


 校門の前に移動して騒ぐ一行。

 その後、集合写真を数枚と、なぜか俺1人の写真をシロンが何枚も撮った。そのせいで入学式にはギリギリで滑り込む羽目になったのだった。


「シロン、俺の写真あんなにたくさん撮ってどうするんだよ?」

「すべて私の部屋に貼ります」

「ナチュラルに怖い……」



 ◇  ◇  ◇



 入学式が終わり、俺たちは講堂前の広場へと移動した。

 コミュニケーション能力が高いやつらは、早くも数人のグループを作って連絡先の交換にいそしんでいる。

 ちなみに俺たちの周囲には誰も寄りつかない。みんな遠巻きに俺たちを見ながらヒソヒソと内緒話をしている。

 正直に言うと、また〈前世〉の記憶が蘇ってきてかなり気分が悪い。


(でも、ここで隠れたりうつむいたりしたら、前と変わらないよな……)


 そう思い、ふと目が合った学生ににっこり笑いかけてみる。


「ヒィッ!?」


 ――怯えた様子で顔を背けられたんだが。

 首をひねっていると、エテルがぽんと俺の肩を叩いた。


「ドンマイっス。ただでさえ怖い顔してるのに、今日はぎこちなさ10割増しっスからね! 慣れてない人からしたら、さっきの笑顔はトラウマ級っスよ!」

「慰め方が下手すぎねぇか?」


 生まれた時から決まっていたこういう顔(キャラデザ)なんだから、俺にはどうしようもないんだよ。


「いま睨んでたよね?」

「こわ……やっぱり聖堂をぶっ壊したって噂、本当だったんだ」

「カエルレルム家当主の弟君を廃人にしたって……」

「あの女の子たちはメイドらしいぜ。学院にまで連れてきて、何様なんだか……」


 俺に向けられる視線が増える。

 どうして何もしていないのにヘイトを稼いでいるんだろなぁ……なんて考えていると、俺たちを遠巻きに見ている学生たちから、わっと歓声があがった。


「アオイさまだ!」

「なんでアオイさまが!? 大貴族は学級試験ないはずだろ!?」

「かっこいい……!」


 誰に命令されたわけでもなく、学生たちが道をあける。

 その間を颯爽(さっそう)と歩いてくる、1人の女子生徒。


「ヴィオランス! 久しぶりですね!」


 凜とした声が広場に響く。まさに威風堂々(いふうどうどう)という言葉が似合う彼女こそ、俺が数年前に人生を大きく狂わせた少女。

 アオイ・カエルレルムだった。

読んでいただいてありがとうございます!

第2章は学院編。いろんなキャラが続々出てきます。


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