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第1話 俺だったら救えるのに

 まったく報われず無残に死ぬキャラクターを、好きになったことはあるか?


 俺はある。【熾天のレギオン】というシミュレーションRPGに出てくる、いわゆる〈悪役貴族〉のメイドたちが、大のお気に入りだ。


 彼女たちは、〈悪役貴族〉に従って主人公と戦う、いわゆる〈取り巻き〉のキャラクターだ。でも、彼女たちには〈従者としての誇り〉があり、「なにがあっても自分たちだけは主人の味方であり続ける」という忠義があった。


 俺は彼女たちが好きだった。

 家族や学校に耐えられなくなり、部屋に引きこもっていた辛い時期だったから、彼女たちの「世界を敵に回してもいい」という決意が美しく見えた。


 何百回も周回プレイを重ね、彼女たちが生き残るルートを探し続けた。あの当時、俺が自分の命を絶たなかった理由は、それくらいしか思いつかない。


 だけど、そんなものはなかった。


 ある女の子は、悪役の盾にされて、全身を魔法で焼かれて死ぬ。

 ある女の子は、悪役に騙されて怪物の姿になり、暴走して死ぬ。

 ある女の子は、悪役を逃がすため魔物のエサとなり、骨まで食われて死ぬ。


 プレイヤー(おれ)では大好きなキャラクターを救えなかった。


(もし俺がゲームの世界にいたら、あんな死に方はさせないのに……)


 我ながら幼稚な妄想だと思う。

 だけど、俺は【熾天(してん)のレギオン】をやり尽くしたあと、ずっとそう思って生きてきた。

 なんとか引きこもりから社会復帰した後も、アルバイトの上司から罵倒されている間なんかは、いつもそれを考えていた。

 逃げて諦め続けてきた、後悔しかない人生だけど、それでも生きてこられたのは、この妄想があったからだった。


 だから、胸が重く潰れそうな激痛に(さいな)まれているいま(・・)も、こんなことを考えている。


(あぁ、くそ……悔しいな……)


 胸の奥の一番ヤバいところが破れる感覚。

 そして意識が遠のく。

 34年という人生が、あっけなく幕を閉じた。



 ◇  ◇  ◇



「ヴィオランス」

「んぁ……?」


 優しい声が耳をなでる。

 心地のいい微睡みが、俺の意識から去っていく。

 目を開ける。優しそうな顔の女性が、俺の顔をのぞき込んでいた。


 お母さん。


 初めて見たはずの人なのに、この人が()()なんだと自然にわかった。少し離れた場所には、厳つい顔の男性も立っている。毅然とした佇まいだが、その口元はわずかにほころんでいた。お父さんだ。


「ぁ、あぁ、あぁーぅ」


 俺の口から、言葉とも泣き声ともつかないものが漏れる。


「あら、この子もしかして喋ろうとしたのかしら?」

「いや、偶然ではないか? まだ月八つだぞ」

「そんなことありません。私にはわかります。ね、ヴィオランス?」

「うぃ、お、あぅ……」


 ヴィオランス!?

 それが俺の名前なのか?


 愕然とする俺とは裏腹に、母親と父親は驚いたように顔を見合わせる。


「やっぱりよ! この子、話そうとしてるわ!」

「なんということだ……この子はもしかしたら天才かもしれん。モータロンド家のよき跡取りになってくれるとよいが」

「もう、あなたはすぐにそう言って家のことばかり。ヴィオランスが賢くて優しい子に育ってくれるのが一番でしょう?」


 ヴィオランス・モータロンド。

 それは何千回も〈前世〉で見た、一番大嫌いな男の名前だ。なんたって、俺が大好きなキャラクターたちの主人――すなわち、無残に死なせた張本人なんだから。

 つまり、俺は〈悪役貴族〉として転生してしまったのだ。


「ふぎゃぁ、あぁっ……あぁぁ~~ん!」


 驚きのあまり泣き出してしまう。慌てふためく母と父には悪いけど、自分で泣きやめるほど八ヶ月の赤ん坊は器用じゃない。


 おぎゃーおぎゃーと泣きながら、俺は〈前世〉で何度も妄想したことを思い出す。


『もし俺がヴィオランス・モータロンドだったら……』


 これから出会うことになる3人のメイドを生存させることができる。

 いや、絶対にやらなきゃいけない。それがきっと、俺がヴィオランスとして生まれた意味だから。

 あの子たちが報われるような、最高の〈主人〉になろう。そのためなら、どんな努力も惜しまない。どんな運命でも乗り越えて、絶対に後悔しない生き方をしてやる。

 

 ……そのために、まずやること。

それは、たくさんおっぱいを飲んで大きくなることだ!


「ふぎゃぁぁぁぁん!」


 俺は自分の要求を叶えるため、泣いて泣いて泣いて、とにかく泣きまくった。


 ちなみに屋敷の使用人たちからは「鬼泣きのヴィオランス」「乳飲みの鬼」と呼ばれるようになったらしい。それを俺が知るのは、3歳になった頃のことである。

次回、主人公は最初のメイド(幼少期)と出会う!


*  *  *


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