結婚記念日のとんかつ
八回目の結婚記念日。
「夕食はどうしようか?」
「うーん、じゃ、とんかつで」
リクエスト、とんかつ。
……とんかつ?
とんかつ?
揚げ物を苦手とする私に?
というか、結婚して約八年、揚げ物をしない私に?
リクエスト、とんかつ?
嫌がらせか。
嫌がらせなのか。
揚げ物の一つも作れないのか……ってこと?
とんかつくらい食わせろや……ってこと?
それでも嫁か……ってこと?
それか、とんかつが揚げ物であることを知らない、とか?……いや、そんなまさか。
嫌がらせか。
嫌がらせなのか……。
昼食はお茶漬けで軽く済ませ、少し日が傾いてから、一緒にスーパーに出掛けた。
精肉コーナーに、とんかつ用の豚肉は置いてあった。
夫が商品を手に取り、買い物かごに入れた。
憂鬱さが増す。
帰宅し、エコバックの荷物をキッチンにおろした。
エプロンを手に取ろうとして、夫に後ろから抱き着かれた。
「動きにくいんですけど」
「座ってて。今日くらいは、俺が作るから」
頬に口付けを受け、エプロンを夫に渡し、ソファに座ってのんびりと、録画していたドラマを眺める。
夫が揚げたとんかつは焦げ茶色だったけれど、その苦味は、私の中で甘くとろけた。