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第九十八話『キュンボッキュン』


 あの老婆はこんこんと眠っている。


 留守番を任されたミカヅキは、暗闇からじいっとその様を眺めていた。だって、他にする事って言ったら……


 日課はとうに済ませ、一っ風呂浴びてしまっていた。

 湯に浸かってのんびり過ごしても構わないだろうが、この暖かな砂のベッドでとぐろを巻いているのも悪くない。この寝床は、ラミアを駄目にする魔力を備えていると思う。


 成程、人間にとっても同じかも?

 起きた子供たちの暴れぶりを思い浮かべ、苦虫を噛みつぶした様な顔になる。ま、誰も見てない事だし。

 姉妹の誰かが居たら、こんな緩い様を見せる気にはなれないが、今は一尾だ。


 取り合えず、シュルルかジャスミン、どっちかが帰って来るまで何もしないでいよう。


 ぺたり。

 暖かな砂に頬を押し付け、あんにゅいに浸る。


「それにしてもどうする気で御座ろうか?」


 じいっと老婆を見続ける。


 何しろ、あんなに痩せていては食べるにしても美味い筈が無い。人間の街に来て、シュルルがお金買って来るものだから、食べ物には不自由していないし。


 人間の街は不思議だ。


 荒野ではお金なんてあっても、何の価値も無い。あんな金属の小片、使い道が無い。ちょっと形や文様が面白いから、あっても別に困る訳では無いけれど、あったからと言って何か楽しい訳でも無い。


 シュルルの縄張りに、人間が寝泊まりしてるのはちょっと前から気付いていた。

 季節が数巡する間、彼女が留守にしていたら勝手に入り込んでは出て行ってた。自分の縄張りじゃ無いから無視してたし、別に獲物に困ってる訳でも無いからね。

 で、ふらっと帰って来たと思ったら、自分の縄張りを改造して、たちまち人間の街の真似事みたいな事を始めてて……

 それからみんな巻き込まれる形で、今回の事になっちゃった訳で。


 指で衣服の裾を摘まんでは、ひらひらとさせてみる。

 暗がりで青は黒く映り、熱はゆっくりと周囲の気温に馴染んでいく。


「人間の真似事で御座るか……」


 そう言ってしまえば、自分の修めた剣術もそうなのだが。


「せんせい……」


 せんせいも服を着ていた。

 上下に別れ、下半身は両足を隠す様に大きく膨らんでおり、上着は前で左右に開くが、裾を袴とやらに押し込める様にしてはだけるのを防いでいた。

 髪型も、変な結い方をしてて頭頂部で一本に結わえている。この街で同じ様なのを見かけた事は無い。


 人の集まる所へ来れば、せんせいの手掛かりが見つかるかもと期待していたから超がっかりである。だが、まだ来てから数日の事。街中をつぶさに見て回った訳では無いし、出かけるにも制限があったからね。


「でも、これで……ふふふ……」


 そっと左腕の金属を、その感触を確かめる。


 魔法の変身リング。シュルルが出がけに渡したモノだ。まだ、その性能を試してはいない。この建物の中では、別のマジックアイテムの効力により、自分の姿が変えられているから。


「でも、ここでは試し用が無いで御座るなあ~……」


 ちょいと表に出て、発動させてみたいものだ。

 留守番を頼まれている手前、又、あの失礼なケツ顎垂れ目野郎がどこでストーキングしてるか判らない。ああ、とんでもない変態野郎に違いない。


 あ~、ごろごろごろろん。


「ふ……待つで御座るよ?」



 ぴたりとのたうつのを止めて、自分のアメージングな発想に歓喜の尻尾を震わせた。


「変身出来るので御座るよなぁ~……」


 にちゃり。

 いやらしい笑みを浮かべるミカヅキ。


 今の人の姿は、下半身を人のそれに見せたものってシュルルが言ってたから……


「これ、上半身もいじれるのではなかろうか!?」


 暗がりで、左腕に巻いた金の腕輪を高々と掲げた。


「それがしも、シュルル姉みたいなキュンボッキュンに!?」


 いや、それは逆だから。どこかで大地母神さまが、そっと呟いた。



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