第九十一話『え!? 食べて良いの!?』
この赤いお姉ちゃん、シュルルって言うんだ~!
一連のやり取りから、イールはここで初めて名前を聞いてびっくり。手に持ってたお皿を取り落しそうになる。
何で?
どうして?
あの人間ばなれした豚顔の大きな人に、他の大人たちはびくびくして縮みあがってるのに、平然と向き合って堂々と話しかけてる!? 怖く無いの!?
大人の兵士だって、とんでもなくおっかないのに。その大人たちが怖がってる団長って人に……
何か難しい話をしてる???
きょろきょろ見回して、みんなの顔を見る。みんな変な顔~。
「ねえ? 何のはなし?」
隣のちょっと年上、メンブを見上げた。メンブなら何か判るんじゃ!?
日に焼けた浅黒い顔が、なんか怒ってるみたいに見える。どうして? 何が起きてるの!?
「ねえ? 何のはなししてんの!?」
「わっかんねーよ!」
返事してくんないから、思いっきり服を引っ張ったら、いきなり振り払われた! ひどいや!
「怒んなくてもいいじゃん!」
「怒ってねーよ!」
「怒ってるじゃん!」
「こらこら」
ふわっとあったかな風が。睨み合ってたボクとメンブは、ぐいっと抱き寄せられてたよ。
びっくりするくらい白い腕が、や~らかに包み込んで来るんだ。
僕とメンブは、シュルルお姉ちゃんの胸に抱き寄せられてた。
メンブの茶色い目ん玉が、やたら大きくぎょろりってしてて、僕もまじまじと見入っちゃう。
すると、耳をくすぐる様な甘い声がするんだ。
「喧嘩しない喧嘩しない。みんな、ごめんね。ほったらかしにしちゃって」
「う、ううん……」
絞り出す様に、ボクは首を左右に振って返事をし、見上げれば僕をじっと見つめて微笑んで来る、真っ青な瞳に世界が満たされていく。
そんなボクやメンブの頬を、シュルルお姉ちゃんはきゅっと指先で摘まむんだ。
「難しいお話はお仕舞い。さ、みんなもスープをいただきましょう」
「え!? いーの!?」
一番ちっちゃなテンテンが、すっごく嬉しそうに飛び跳ねてる。
でも、ボクは不安で落ち着かないよ。本当かなあ? 本当にボクたちも食べて良いのかなあ?
他のみんなも、目の前ですっごい言い合いがあったばかりだから、テンテンみたいに素直に喜べないでいるみたいだよ。
そんな僕らにシュルルお姉ちゃんは、とびっきりの笑顔でパチリとウィンク。
「食べてみて。自分たちが作ったスープが、どんな味か確かめなくっちゃ!」
「「「「「「わ~い!!」」」」」」
ふわっと胸の重しが消えちゃったよ! みんなもきっとそうさ!
飛び上がって喜んだボクらは、手に手にお皿を持って身構えちゃった。なんたって、シュルルお姉ちゃんの向こうには、ずらっと大人たちがまだ並んでいるんだから。
そんな大人たちに、シュルルお姉ちゃんは振り向いて。
「すいません。こちらの鍋から、皆さん、ご自分でよそって下さいね。お願いします」
「「「「「「「「「「え~!?」」」」」」」」」」
なんかもの凄い、がっかりした声が。ボクらは、思わず笑っちゃう。
そんなボクらに振り向いたシュルルお姉ちゃんは、一人一人によそってくれながら。
「じゃあ、みんなあっちのテーブルに座って食べててね。わたし、ちょっとの間、用事を済ませて来ちゃうから。平気よね?」
「「「「「「はあ~い……」」」」」」
ちょっとがっかり。一緒に食べれると思ったから。
それでも嬉しい事は嬉しい!
すっごく不思議ない~香りがしてて、ついさっき食べたばかりだと思うのに、きゅっとお腹がしちゃうんだ。
色も不思議だ!
どろみたいな変な色のスープなんだけど、大人たちはみんな美味しい美味しいって争って食べてるから、きっとすっごく美味しいんだ!
ボクらは言われた通りに空いてる長いテーブルに着いて、脚をプラプラさせながら詰めて座る。そして目の前には、この不思議なスープ!
あったかで、湯気がふわふわ。い~匂いがぷ~ん。口の中が、じゅわ~ってする。
みんな、ちろちろ互いの顔を盗み見るんだ。
良いよね? 良いんだよね? 食べて良いんだよね!?
そんなボクらを、少し離れた鍋の前でシュルルお姉ちゃんがクスリと笑った。
「さあ、おあがりよ」
「「「「「「いっただきまーす!!」」」」」」
思いっきり、変な声!
急いで口の中に、そのあったかなスープを!
「「「「「「んっまーーーーーーっ!!」」」」」」
思った以上に大きな声がして、自分でもびっくり! 更にその場に居た大人たちが、ドッと大笑いをした。