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第八十四話『アジトに戻ると』


 シュルルは両手に荷物を抱え、昼まだ早い時間に帰って来たら、建物の中は何やら物々しい喧騒に包まれていた。

 小さな甲高い声と、ぱたぱたと軽い足音が幾重にも重なり響き、外まで届くのだ。


 大体の想像はついた。

 でも、のほほ~んとしたシュルルは、何やら少し浮ついた表情で裏口の戸を開けた。


「ただいま~」

「「「「「「きゃ~~~っはっはっは~!!!!」」」」」」


 わんと唸る子供の六重奏。あちこちを駆けずり回ってるのが手に取る様に判った。


「ちょっと、ミカちゃん! ミカちゃ~ん!! あらあら、とんだご近所迷惑だわ~」


 裏の作業場を通り、調理場へ向かおうと言う目の前に、ひょっこりちびっこが現れた。

 お目々ぱちくり。驚いた様に、きょとんと見上げるので。


「ただいま。みんなまだ居たのね? 他の子も上かしら?」

「きゃ~~~!!」


 嬌声を上げ、くるっと振り向くと、その子は階段をパタパタと駆けあがって行った。


「あらあら」


 なんか上の方で、どったんばったんやっている。


「お土産あるの~! こっちいらっしゃーい!」


 そう上に声を掛けると、ぱたぱたぱたぱたと凄い勢いでみんなが駆け降りて来て、その後ろを、髪をざんばらに振り乱したミカヅキが、鬼の形相で……


「あちゃ~……」

「「「「「何、何、なぁに~!?」」」」」」


 みんなキラキラ目を輝かせ、揃って手を出すものだから、期待外れだったらどうしようかと、思わず天を扇ぎたい気分。でも、両脇に抱えた衣類の塊を『ほら』と見せると、みんな目の玉をまんまるにして凝視する。


「古着屋に寄って来たの。みんな、それ一張羅でしょ? ボロボロじゃない?」

「「「「「「わーーーーーーー!!!!」」」」」」


 小さな手が一斉に伸びて、赤や青と言った僅かでも色の残ってるシャツが引っ張りだこ。そうでないのが床にばさばさと落ちるのを、シュルルはそっと尻尾の先で回収しながら、たちまち古着がびりびりになって悲鳴が上るのをにこにこと眺めていた。


「あらあら。どっちかが譲ってあげれば良いのに~」

「や~!!」

「あたちの~!!」

「それ、大きすぎるわよ?」

「良いんだもん!」

「あ~ん、破けちゃった~!! ばか~!!」

「バカはそっちだい!」

「こらー!」

「知らないもー知らないんだからー!!」


 たちまち喧嘩になったりして。そんな様に、ミカヅキはそそと近付いて耳打ちを。


「何でそんな物を。無駄で御座ろう?」

「ん? これ、使うのよ」

「へ?」

「も~、凄い頭よ。もっとおしゃれにしないと」


 変な顔をしてるミカヅキの、汗ばんだ頭を撫でて髪を整えてあげながら、はっちゃけてる子供たちに声をかけた。


「先ずは、一人シャツ一枚ずつね。気に入ったのをあげるわ」

「「「え~!?」」」


 一人で何枚も抱え込んでた子たちが、不満の声をあげるが、しぶしぶと手にした物を見比べ始める。


「ミカちゃん。これ、色々使えるのよ」


 そう言ってシュルルは、何枚か折りたたんだ上に、竈からアツアツの寸胴鍋を引っかき棒で引き摺り出し、鍋の耳をシャツを丸めた物で掴んではその上にドスンと乗せる。

 更に、その鍋にシャツを何枚も着せていくのだ。


「保温も兼ねてね」

「あっあ~……」

「だから、多少大きく破けていても、大丈夫って訳。ごっそり買って来ちゃった。そして……」


 何枚もの布切れで、サッと髪をまとめて頬かむりにしてしまう。


「こうすれば、髪の毛が落ちる事も無いじゃない?」

「成程……」

「さ、ミカちゃんも」


 サッとまとめて、ワンピースと同じ色の、蒼い布で髪をまとめてあげた。


「ほら、可愛い」

「自分では判らないで御座るよ」


 ちょっと恥ずかしそうにするミカヅキを、三人の女の子がぽけ~っと見上げた。


「い~な~」

「い~な~い~な~」

「私も欲しい~」

「あらあら。これは、今からスープを届けに行く人用なのよ? 一緒に行く?」

「うん!」

「行く行く~!」

「どこへ行くの~?」

「騎士団」

「「「えっ!?」」」


 びっくりして、みんな目をまんまるに。


「今回のお仕事は、騎士団にスープを納める為だったの。みんなのお陰で、何とかなったわ。ありがとう。そのシャツは、そのお礼の意味も兼ねてよ。喜んで貰えてお姉さん、うれしいわ」


 普段、騎士団には追いかけ回されてる子供たちにしたら、これからその恐ろしい所へ行こうというのだ。それはすくみ上がるというもの。連れて行かれた子供は、二度と会える事の無いという……

 だが、そんな警戒心も、この認識阻害のかかった空間では多少鈍るというもの。


「大丈夫。お仕事を手伝ってくれる良い子は、ちゃんと良い事があるから」

「本当?」

「約束するわ」

「じゃあ、行く」

「あたち、お手伝いするぅ~」

「わ~、嬉しい。ありがとう」

「あっ!? あたしも~!」

「うふふ……ありがとうね」


 そう微笑みかけながら、その子らの頭や頬を撫でてあげる。その度に、みんな何ともうっとりする様な、優しい表情を浮かべるので、ちょっと不思議な気分。


 何ともゆったりとした気分で、人間の子供たちと対峙している自分に、少しおかしな気分になるのだけれど、まあ、それも良いかなと。


「じゃ。お馬さんに運んで貰うから、手伝ってくれる?」

「「「「「「は~い!」」」」」」

「じゃ。ミカちゃん。悪いんだけど、お留守番してお婆ちゃんのお世話お願いね」

「え~……」

「はい、これ」


 ちょっと疲れた顔をするものだから、その場で数枚の金貨を掌で溶かして合わせて一枚の金の板に。そこへ幻覚と認識阻害の魔法をサッと焼き付けて、くるっと丸めて腕輪にした。


「ミカちゃんの分。腕にはめて使ってね」



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